表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命一ヶ月の僕が、ボロボロの少女を拾って同居したら幸せになれた話  作者: 野良うさぎ(うさこ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/29

新しい職場

 

 僕は午前中を使って、美冬の身体を整える事にした。


 美冬が劣悪な環境にいる事は知っている。親は典型的な駄目人間だ。

 ……それでも美冬から感じる生きるという生命力は僕には眩しかった。


 全く、見てて飽きないね。




 中華料理屋さんでは、美冬は薄味で作られたお粥をバクバク食べる。

 少し恥ずかしそうな顔が印象的だ。


「うぅ……た、食べてるところをそんなにマジマジと見ないで……。趣味悪いよ」


「美味しい?」


 美冬は目を閉じて静かに頷いた。


「……生まれて初めてこんなに美味しいもの食べたかも……すごく……美味しい」


 凄い勢いで食べながら時折鼻をすする音が聞こえる。

 嗚咽にも似た音が聞こえてきた。


 僕はそっぽを向いて見ないふりをしてあげた。







 おかゆを食べ終わった美冬はスッキリとした顔であった。

 昨日までのひどい状態ではなく、生命力に満ち溢れた顔である。

 僕は心の中で驚嘆の声をあげた。


 彼女は元々貧乏な家庭だったのに、母親が亡くなった事で更に劣悪な環境になってしまった。

 僕が持っている調査資料では、彼女は中学もまともに通っていなかったんだね。

 その頃からバイトと家事に追われる毎日。

 父親は機嫌が悪いと美冬を容赦なく殴る。


 ――それでも美冬は高校へ行くことを諦めなかった。


 ……父親が学校に乗り込んで暴れるまでは。



 美冬の家庭環境は僕には関係ない。

 僕はそんな状況でも心が折れない美冬の心を知りたいだけだ。







 お粥を食べたあとは美容室へ行った。


 僕は椅子に座って美冬がカットされるところを間近で見ていた。


「う、うう……わ、私、一週間に一回しか髪を洗わないから汚いよ……、臭いからやめようよ」


 美容師さんは無言で仕事に没頭する。

 美冬は無駄な抵抗を止めて、されるがままになる。朝が早かったからか、日頃の疲れが出たのか、美冬は爆睡してしまった。


 美容師さんは僕の言うとおりに、美冬の髪を丁寧に洗ってトリートメントをし、美冬はボサボサだった頭を綺麗なショートボブに切りそろえられた。

 軽く化粧もしてもらった。



「ほら、起きて。次の場所に行くよ」


 僕は美冬の肩を軽く叩く。


「――ほえ……ご飯の時間……うぅ……ああ……ここは美容院……」


 寝ぼけている美冬の頭を両手で挟んで、正面に向き直させた。

 鏡が美冬の姿を映し出す。


「……こ、これが私……うそ……お姫様みたい……」


 そうだね、お世辞抜きで絶世の美少女がそこにいた。

 僕自身は顔の美醜には興味ないけど、年頃の女子なんだからおしゃれしたら気分も上がるだろうね。


 ぽけーっと自分を見惚れている美冬の手を取って、僕は美冬をエスコートする。


「え、いや!? は、恥ずかしいよ……なんでそんな恥ずかしい事をサラッとできるの!? 俊樹君も髪型変わってるし……ジゴロなの!?」


 ジゴロって……古くない? ああ、僕も少しだけ髪型を変えてもらったよ。せっかくだからね。

 僕は少し強引に美冬を連れて、お店を出ることにした。


「あれ? お会計は?」


「大丈夫、大丈夫」


 そして僕らは美冬の新しい職場に向かう事にした。









「と、俊樹さん!? ずっと来なかったから心配してたんですよ!!」

「お疲れ様です!! 戻って来られるんですか! 俺ずっと待ってました!」

「うぅ……うぅ……やっぱ俊樹さんがいなきゃ」


 僕らが着いた場所は、商店街の一角にある大きなおしゃれカフェであった。

 カフェに入ると、僕は従業員のみんなから挨拶をされる。

 僕は一人一人に声をかけて、奥の事務所に進んでいった。


 そんな僕を見て美冬はより一層怪訝な顔になる。


「俊樹君ってここのアルバイトしてたの? なんかえらく人気者だね?」


「まあ色々とね」





 事務所に入ると、店長が書類と必死に格闘していた。


「うぅ……今月の予算が達成できねえ……ここに宴会でも入れば……いや、イベントを開催して……ああ、人手も足りねえ」


「店長さん」


「うるせえ、あとにしろ!! 俺は忙しいんだよ!!」


 店長は僕の方を見ずに、手で邪魔者扱いをする。

 僕は昔みたいに少し声を低くして威圧感を出した。



「――店長」



 店長の身体が一瞬びくっとして、壊れた機械みたいに後ろを振り返る。

 僕の顔を見た瞬間、店長は大泣きをしてしまった。


「俊樹さんっ!! マジっすか……マジで俊樹さんっすか!? 跡継ぎやめるのやめたんっすか! そしたら今夜はパーティーじゃないっすか!!」


 喜びを抑えきれずに僕を抱きしめる店長。

 ……渋い中年チャラ親父に抱きしめられても嬉しくないね。

 僕はやんわりと店長の身体を押し返す。


「はぁ、相変わらずだね。僕はもう戻らないよ。事業は全て弟が引き継ぐんでしょ? 今日はお願いがあって来たんだ」


「マジっすか……やっぱしょうがないっすよね……。この俺ごときで出来る事があったら何なりと言ってください!!」


 僕はビクついている美冬を指差した。


「この娘と僕をしばらく働かせろ」


 店長は僕と美冬を交互に見る。


「え!? こんな素敵なカフェで働けるの!? 俊樹君の趣味で変な事されるかと思ってた……」


 ――やっぱり失敬な女だ。



「は、へ? この女の子はいいとして……俊樹さんが働く? 経営っすか?」


「いやアルバイトとしてだ」


 店長は一瞬呆けたあと、思考の海に溺れたかのように固まってしまった。

 そしてふざけた顔が真剣な顔つきになった。


「社長は了解してますか?」


「ああ」


伊織(いおり)さんも?」

 

 残念美人先生の事だ。


「まだ言ってないけど、後で言う」


 店長は深いため息を吐いた。


「――――わかりました。……とりあえず……色々上と相談してくるんで飯でも食って待っててください!!」


「わかった、じゃあ待ってるね」






 無理な話を聞いてくれてありがとう店長。

 僕がこのお店に関わる事は無いと思っていたけど……。

 やっぱり自分が一番初めに作ったお店だからね。


 僕は事務所を出て、美冬と一緒にカフェの空いている席に着くことにした。






 席に着こうとした僕らは、見知った声に呼びかけられた。


「――と、俊樹! ちょっとあんたなんでこんな時間にここにいるのよ!! なんで連絡しないのよ……学校はサボり!? 私の事を無視してふ、ふざけてんの……ね、ねえ、なんとか言ったらどうなのよ……」



 そこにいたのは、弱々しい口調で顔が憔悴しきった幼馴染の未来が、自分の身体を両腕で抱き締めて立っていた。  

 

 

 僕は今まで感じた事もなかった胸の疼きを覚えた。



応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ