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余命一ヶ月の僕が、ボロボロの少女を拾って同居したら幸せになれた話  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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3/29

契約

 

 僕は昨日の少女が気になって、今日も朝早く住宅街を散歩することにした。

 彼女は僕と同い年か、少し下だろう。

 ……人生の苦さを噛み締めている笑い方であった。


 流石に昨日の怪我があるから今日はアルバイトを休んでいると思うけど……あれ? 


 昨日と同じ場所で、自転車をヒイヒイいいながら漕いでいる少女が現れた。

 思わず頭を抱えたくなった。


 足が痛いのか、庇いながらペダルを漕ぐ仕草が不格好である。

 尋常じゃないほどの汗をかいている。

 正面にいる僕の事を気が付いていない。

 そして彼女は僕の横を通り過ぎる。


「――はぁ、はぁ、あと少し……」


 赤い顔は明らかに普通ではない。

 苦しそうで悲しそうで、悔しそうで……。


 僕は信じられなかった。

 彼女は感情を全身から出していた。


 ――感情……か、

 僕だって感情が無いわけじゃない。……人よりそれが薄いだけだ。父さんに似たんだろうな。



 少女の自転車の音が遠くなる。

 ――そう、少しばかり気になっただけ。僕には関係ない……


 僕は振り向いて彼女の背中を見送ろうとしたら、突然自転車の動きがおかしくなった!?


 明らかに普通ではない動き、蛇行を繰り返している。

 少女の顔は下を向いていた。


 僕はその時、何も考えずに走り出していた。






 少女の自転車が倒れそうになった時、僕は少女を抱き止めた。

 自転車だけが道路に倒れ込む。


「危ないだろう!?」


「――――」


 少女の意識はすでに無かった。

 赤い顔で鼻水だらけで、よく見ると着ているジャージもボロボロで、靴なんて穴が空いていた。

 荒い息を吐きながら僕によりかかる。


 ――軽い。


 驚くほどの軽さだ。同年代の女の子はこんなに軽いのか? いや違うだろう。


「……くそっ」


 僕は珍しく悪態をついた。

 少女の自転車に書いてあった新聞屋の名前を覚えて、僕は少女をおんぶして大通りまで歩くことにした。

 僕の方が重症なはずなのに……。







 その後、タクシーで僕が通っている病院に向かって、少女を病院にぶち込んでおいた。

 新聞屋には電話したら、しゃがれた声のおじさんがまくし立てながら僕に告げた。


『また迷惑かけやがったのか! あいつに言っておいてくれ! 首だ、首!! まともに配達できねえ奴なんていらねえよ!!』


 罵詈雑言を聞き流し、僕は返事をせず無言で電話を切った。


 彼女は昨日、首になりたくないと言っていた。

 働かなければいけない理由があるのだろう。

 ……それはなんだろう?


 僕は病院の中庭のベンチで一人コーヒーを飲んで考えていた。

 考えていても答えは出ない。

 彼女の治療費は僕の貯金から出せばいいだろう。

 ……だけど、僕はいなくなる人間だ。人と関わってはいけない……


「やあ、一昨日ぶりだね? 集中治療に切り替えることにしたのかな?」


 僕の担当医が隣に座る。


 意地が悪い。僕がこの病院に彼女を連れてきた事は知っているハズだ。

 彼はため息を吐きながら僕に言った。


「……ねえ、彼女とは友達なのかな? 意識が戻ったんだけど、親の連絡先を教えてくれないんだ。そして、すぐに仕事に戻るって言ってね……。ねえ、君から少し話してもらえるかな?」


「なんで僕が……」


「君が連れてきた。もうすでに君と関わりができてしまったからだよ」


 意味がわからない。碌に話した事もない少女なのに……。

 だけど、僕を見る医者の目は真剣であった。

 ――先生にはお世話なった……仕方ない。


 僕は重い尻を上げることにした。

 後ろから嬉しそうな声が投げられた。


「――505号室だ!!」





 僕が病室に入ると、少女は目に涙を浮かべて呆然と座り込んでいた。薬が効いたのか、顔色は少しだけ良くなっている。

 彼女は病室に入った僕に気がついていない。


「どうしよう……どうしよう……怒られる……夕方の仕事を増やさなきゃ……」


 僕は少女の呟きを聞いてないふりをしてベットの横にある椅子に向かった。


 少女は僕に気がついたのか、ひどく狼狽する。


「え、ええ!? だ、誰ですか? ……あれ? 昨日、私を助けてくれた人?」


「ああ、たまたま散歩していたところに、倒れていた君を発見してね」


 少女はまたあの苦笑いをした。

 なぜかわからないけど、僕はその顔を見るのが嫌だ。


「――ありがとうございます。だけど……余計なお世話ですよ……病院なんて……お金無いのに……仕事に戻らなきゃ……首になっちゃう」


 腕に付いている点滴を見つめている。彼女から深い絶望が感じられた。


「さっき新聞配達のお店に電話した。……君は首だってさ」


 絶望の中で更に絶望に陥るような表情。


「く、首……。あぁ……今月の支払いが」


 彼女は自分の手のひらを見つめている。その手はあかぎれでボロボロであった。

 何かを決意した顔であった。

 重苦しくて暗い顔。


 それは良い決断ではないだろう。

 だけど、目が死んでいない。絶対負けない、私は屈しない。強い意志を感じ取れる瞳だ。


 僕はその目に、その感情に興味を持ったのかも知れない。

 うん、気まぐれかも知れない。


 ……その時はまだ、僕は自分の胸に沸き起こった感情が理解できなかった。





「ねえ、お金が必要なの?」


「……そう、借金を返さなきゃ。……ねえ、あなたには関係ないで」


 僕は軽い口調で彼女の言葉を打ち切った。


「どうせ禄でも無いバイトをするんでしょ? 身体を売るとか? パパ活? 君の境遇はわからないけど、あまり良い状況じゃないことは確かだよね?」


 彼女は悔しさのあまり、唇を噛み締めて血を流していた。

 僕を睨みつけながら静かに声を震わせた。


「――じゃあ……どうすればいいのよ……私、もう限界よ……ひっく…………でも……ひっく……絶対負けない……どんな事をしても生き延びて幸せになるの……」


 弱々しい彼女から強い生命力を感じる。

 それは僕には無いものであった。



 僕は彼女に軽い口調で言った。



「うん、僕が君を雇う。君の状況はわからないけど、君に興味が出てきた。……期間は一ヶ月弱。給料は日払い。とりあえず夜の仕事よりは稼げるよ? しばらくは僕と一緒に行動してもらう。あ、仕事は色々あるからその時教えるね。じゃあこれからよろしく。僕は駿河俊樹(するがとしき)、君の名前は?」


 僕は彼女の手を無理やり取って握手をした。


「ふえ……し、新堂美冬(しんどうみふゆ)です……」


 僕はその時、やっと彼女の年相応な声を聞くことができた。

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