死力を尽くす
手術室の扉が開いた。
手術を終えた先生が扉から出てくる。
私達は先生の元へ駆け寄った。
先生は疲れ切った表情で私達に告げた。
「手術は成功だ。全て除去できたはずだ――、が、非常に危うい事には変わりない。転移を含めて術後観察をしなけれ――」
突然、先生は膝から崩れ落ちた。
「せ、先生ーー!?」
「だ、大丈夫ですか!」
看護師達が倒れた先生の脈を取って青ざめた顔をする。
「――やばば、ちょっと部下の先生呼んで来て!! これ緊急オペ必要かもよ!」
「ちょっと――、あ、やばいね。担架もってきて!! 早くしろ!」
私達はまごまごするだけで何も出来なかった。
そうしていると、先生よりもちょっと年下のお医者さんが走ってやってきた。
なんだかイケメンだけどほんわかした雰囲気がある人であった。先生を見つめる視線は真剣そのもの。
お医者さんが息を切らしながら私達に告げる。
「はぁはぁはぁ――、あ、あとは任せて下さい。と、俊樹くんの手術は成功しました。追って連絡しますので、一旦待合室でお待ち下さい」
看護師さんの叫び声が聞こえる。
「――意識無いよ!! 早く!!」
「ああ、任せろ! 俺が絶対助ける――」
俊樹くんのお父さんが私の腕を引く。
「一旦、待合室で待とう。今は、手術の成功だけを喜ぶしかない。先生の事は彼に任せるしか無い――」
「は、はい。――わかりました」
私達は騒然とする手術室前を離れて待合室に向かう事にした。
私は待合室ですぐに未来さんにスマホのメッセージで連絡をした。
とりあえずの報告しか出来ない。
だってまだ俊樹君の姿を見ていない。
先生だって倒れちゃったし――
妹さんは私の手を握って不安そうに呟く。
「お兄ちゃん、大丈夫かな――、成功したって言ってたけど、まだ会えないのかな――」
「大丈夫よ。俊樹君は強いんだから。ね、もう少しだけ待ってみようね? 成功したんだよ! 喜んでいい事なのよ」
俊樹君のお父さんとお母さんも私の意見に賛同した
「ああ、確かに不安は残るが、先生は死力を尽くして戦ってくれた」
「ええ、成功って言ってましたから、大丈夫ですよ」
その顔は涙で滲んでいた。
私は未だ実感が無かった。俊樹君の顔を見れるまで心が落ち着かない――
それでも、今は――
私達は喜びを分かち合い、お互いを抱きしめ合った。
看護師さんが私達の元へとやってくる。
「す、すいません! お、遅れてしまいまして!! 先生の手術は完璧でした。あっ、俊樹君は病室に移りましたのでご案内致します!」
私達の不安を少しだけ解消することが出来た。
俊樹君の病室まで私達は足を運ぶ。
病室をあけると、そこには――俊樹君が安らかな顔で眠っていた。
胸は浅い呼吸を繰り返している。
生きている証であった。
みんな俊樹君の元へ駆け寄る。
もちろん私も駆寄ろうとしたが、足が動かなかった。
視界がぼやけてうまく前が見えない。
看護師さんはちょっと得意気に私達に説明を始めた。
「先生の手術は本当に完璧でした。まさに神業です。この手術って業界で超有名になっちゃいますよ――。あっ、それで見える範囲の腫瘍は除去しました。転移したとしても向こう一年から三年は大丈夫だと思います」
「――もちろん、転移が無かったら十年は確実に大丈夫ですよ! これ、本当にニュースになるくらい偉業なんですよ!」
私はすでに看護師さんの言葉を聞いていなかった。
家族は涙を流しながら私に手招きをする。
私は涙でぼやける視界の中、俊樹君の元まで歩く。
私は俊樹君の右手を握りしめる。
――あれ? 何でこんなに熱いんだろう? 凄く熱い――
私はそんな俊樹君の右手を優しく抱きしめた。
「俊樹君、あとは――目が覚めてからね」
私はまだ泣かない。俊樹君がちゃんと目覚めるまでは――




