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余命一ヶ月の僕が、ボロボロの少女を拾って同居したら幸せになれた話  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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家族

 

 僕と美冬は病院の入り口で立ち尽くしていた。

 今日は泊まりで手術の準備をして、明日が本番だ……。


 僕らは手を握り合う。


「美冬――」


「俊樹君――」


 僕達の戦いが始まる。

 僕の心には僕だけじゃない、美冬がいるんだ。

 美冬だけじゃない、未来もいる。クラスメイトもいる。父さんも母さんもいる。


 僕は一人なんかじゃない。


 僕は愛されてないかと思っていた。

 でもそれは僕の独りよがりの思い違いであった。


 僕は愛されている。


 だから、


「行こう」


「うん」


 僕らは病院の中へと歩き出した。







 中に入ると、先生がソファーでくつろいでいる。

 電話で誰かと話しているみたいだね? 

 僕に気がつくと、先生は電話を切って僕たちに近づく。


「おはよう、二人とも。元気にしてたか?」


 先生の顔は妙に安らいでいた。

 前に見た時は疲れでひどい顔だったのに――


「先生どうしたんですか? 何か妙に綺麗ですよ?」


 いつもより化粧がバッチリであった。


「なっ、そんな事はないぞ!? へ、変な勘ぐりはよしてくれ。――ふう、緊張はしてないようで安心した」


 ――もちろんだ。僕には美冬が付いている。それに千羽鶴だって持ってきた。


「行きましょう先生」


「ふふ、頼もしくなったな。――美冬ちゃん、長くなるから張り詰めすぎないでね?」


 美冬は綺麗なお辞儀をした。


「先生、明日はお願いします――」


「ははっ、あの時の少女がこんなに綺麗になって――、先生は嬉しいぞ? 手術が終わったらご飯に行こうね?」


「――はい!」


 美冬の言葉とともに僕らは歩き始めた。






 手術自体は明日の朝十時から行われる。

 僕は今日一日ベッドの上で身体の準備を整えるだけであった。

 もちろん美冬はそばにいてくれる。


 美冬は病院のベッドが懐かしいのか、思い出深い顔をしていた。


「今日はギリギリまで一緒にいるね? 明日が本番だもんね――」


「ああ、きっと大丈夫、先生を信じよう」






 僕らはずっと話をしていた。


 初めて出会った時の事、病院での美冬の態度の事、僕が冷たく見えた事――


 色々な事をずっと喋っていた。


 時間が過ぎるのが本当早かった。

 あっという間に夜はふけ、僕はシャワーを浴びて就寝をしなければならない時間になってしまった。


 美冬は明日も会えるから大丈夫と言っていたけど、僕は美冬と離れたくなかった。


 僕は自分の右手を必死で動かして美冬の手を掴んで離さない。


 美冬は優しく微笑んで僕にキスをしてくれた。

 まるで言い訳の聞かない子供にするみたいに――


 僕はそれだけの事で胸の中にあった不安は消し飛んでしまった。







 朝を迎えた。

 僕が目を覚ますとそこには美冬が立っていた。


「あっ、おはよう俊樹君――」


 美冬を朝早くに連れ出して、朝の街を歩いた事を思い出す。――昨日語り尽くしたと思ったのにね。


 看護師さんたちが僕の部屋へとどんどん入ってきた。


 これから手術の準備が始まる。


 美冬は僕に微笑んで、最後の別れを告げた。




「――俊樹君、待ってるよ!!」




 僕と美冬はそこで別れた。次に会えるのは――手術を乗り越えてからだ。





 ***************




 私は必死に手を洗う。

 これは私の心を落ち着ける一種の瞑想に近いものがある。


 俊樹君はすでに手術室に運ばれている。


 身体は休む事が出来た。

 心はバッチリだ。


 息を吐いて手を消毒をする。手袋をはめる。

 そして、手術室に向かった。




 手術台の上にいる俊樹君の顔を見ると、あいつの顔を思い出す。

 絶対助けてやるからな――


 私は一瞬だけ目を閉じて自分を切り替えた。


 目を開け放つ。




「――手術を開始する」






 ******************





 いつの間にか私は寝ちゃってたみたい――


 俊樹君の手術は始まったばかりであった。

 早くても夕方、もしかしたら夜までかかるかも知れない。


 固まった身体を伸ばそうと手を広げたら、何かにぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい!? あっ、俊樹君のお父さん! お母さんも! ――妹さんと弟君でいいのかしら?」


 私の身体には毛布がかけられてあった。

 もしかしたらかけてくれたのかな?


 お父さんが私の横に座った。

 俊樹君に似て凄くハンサムなお父さん。


「――始まったね。美冬さん、ありがとう」


「わ、私、そんな、全然お役に立てずに――」


 妹さんが口を挟んだ。

 あれ? テレビで見たことあるような――


「そうよ、あんたのおかげで兄さんが超優しくなったって聞いたわ。ふん、ありがとね」


 弟さんがそんな妹さんをたしなめる。


「こら、美冬さんにそんな口の聞き方しないの。もう、兄さんに似て素直じゃないんだから。本当は兄さんの事大好きなくせに――」


「べ、別にあんな奴――」


 私はじっと妹さんを見つめた。


「う、そ、そうよ、大好きな兄さんよ! 絶対死なせたくないんだから! わ、私が頼んだ買い物がまだ終わって無いんだから! だから――戻って来てね――」


 私は立ち上がり妹さんを抱きしめた。


「――大丈夫です。俊樹君は――私の王子様ですから!」


 妹さんから嗚咽が聞こえてくる。

 お母さんとお父さんはそんな私達を優しく見守ってくれた



 弟君が呟く。


「兄さん、相変わらずモテモテだよな――死ぬなよ。俺じゃあ父さんの跡を継げないんだよ。俺たちには兄さんが必要なんだよ」


 父さんが私に告げた。


「まだ始まったばかりだ。少し食堂で食事でもしてきたらどうだ?」


 私は首を振る。


「私も俊樹君と一緒に戦います――」


 妹さんは私の隣にドンッと座る。


「私も美冬さんと一緒にいるわ!」


「はあ、しょうがないな。僕もいるよ」


 弟君も妹さんの隣に座り始めた。


 お母さんがそんな光景を見て微笑みながら私に言った。



「ふふっ、美冬ちゃんも本物のうちの子みたいね? 孫の顔が見たいわね〜」


「ま、孫ですか!?」


「ええ、だから信じましょう、俊樹を――」

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