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余命一ヶ月の僕が、ボロボロの少女を拾って同居したら幸せになれた話  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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半日だけの修学旅行

「おはよう――」


 僕は目を開けると美冬の顔が広がっていた。


「ああ、おはよう――」


 僕は幸せを噛みしめる。


「ちょ、ちょっと俊樹君!? じ、時間見て!? た、大変!!」


 僕は時計を見ると――なんと修学旅行の待ち合わせの時間が迫っているではないか!?


 美冬は飛び起きてあたふたと準備を始めようとする。


「み、美冬!? ふ、服を着るんだ!?」


「ふぇ? あっ! きゃーー!!」


 美冬はドタバタと服を取りに行った。


 流石に遅刻はクラスメイトに申し訳ない。

 僕は右手で身体を起こす。


 ――昨日よりも動く? 何故だ?


「と、俊樹君、ギリギリだよ!? は、早く着替えて!!」


 僕はその事実を考える暇も無く、家を出ることにした。




 なんとか僕らはギリギリの時間で待ち合わせの駅に着く事が出来た。

 クラスメイトたちは口々に僕らの関係にツッコミを入れてくる。


「す、駿河君、まさかその子は――」

「彼女さん? 特別介護要員って聞いたけど!」

「まあ良いじゃん。俊樹君が幸せそうならさ」

「うんうん、何かバカップルっぽいよね?」

「俊樹君の新しい一面が見れて嬉しいよ」


 未来が若干怒り気味で僕らを話しかけてきた。


「もう、二人とも――遅刻しちゃ駄目でしょ? はぁ、あなた達は向こうに移動して、昼食をしたらすぐに帰るんだから」


 僕と美冬はうなだれる。


「未来、済まない」

「ごめんなさい、未来姉さん」


 ――いつの間に姉さんがついたの?


 未来はそんな僕らを見て表情を緩めた。


「ふぅ、俊樹、最後だからなんて言わせないでね。お小言は手術を乗り切ってからにするから、今日は半日でも楽しみましょ!」


 美冬は未来に飛びついた。


「へへっ、未来姉さん!!」


「きゃっ!? ちょ、ちょっと美冬ちゃん!? ひ、人の目が――」


 そんな未来と美冬を温かい目で見守るクラスメイト達。


 ――ああ、僕は本当に人との出会いに恵まれたんだ。


 僕らはこうして新幹線に乗り込むのであった。







 新幹線ではクラスメイト達がワイワイと騒ぐ。

 先生も京都が楽しみなのか、心なしかいつもよりも浮かれている気がする。


 僕は美冬と未来と同じ席に座っている。

 学生の旅行らしくトランプゲームに花を咲かせていた。


「くっ、やっぱり俊樹は強いわね」


「うぅ、またビリ――」


「ははっ、仕方ないよ。経験の差だよ」


 僕は父さん以外にトランプで負けたことが無い。

 だって、トランプも勝負事だ。知力と経験を尽くせば大抵の人には勝てる。


 トランプをしながら未来は僕に聞いてきた。


「――ところで、あなた達なんだか雰囲気が違うわね? 前もベタベタしてたけど、今はもっと近い感じになってるわ」


 美冬は身体をビクッとさせる。

 僕はトランプを落としそうになった。


「――もしかして、今朝遅れたのって――」


 僕は心を落ち着かせて未来のカードを引く。

 それはジョーカーであった。


「ふふ、これで私の勝ちね? 初めて俊樹に勝てたかも!」


「ずるいよ未来――」


「うん? 動揺しちゃった二人が悪いのよ。全く、ほら、もっとくっつきなさいよ! 写真取ってあげるから――」


 未来はトランプを置き、スマホを取り出した。

 僕と美冬をカメラに収める。


 きっとその顔は動揺しているのだろうか?


 美冬も自分のスマホを取り出した。


「私も撮る! 今度は三人で撮りましょ!」


 美冬が未来の手を引いて、無理やり僕らの真ん中に座らせる。


「ちょっと、美冬ちゃん!? と、俊樹、近いわよ!?」


 今度は未来が動揺してしまった。


「はいチーズ! ――もう一回!」


「ねえ、もっと普通に撮りましょう! ひえ!?」


 美冬は未来のお腹をくすぐっていた。

 変な声を出す未来は変な顔をしていた。


「シャッターチャンス!」


 カシャっとカメラの音がなる。



 学生ってこんな感じなんだな。

 僕は初めて経験出来たのかも知れない。

 友達と何も考えずに楽しむ。


 それが大切な思い出に変わるんだ。


 僕はじゃれ合う二人を見ながら心が安らいでくるのが分かった。






 新幹線で京都に着くと僕らはすぐに移動をする。

 まずは旅館に行って荷物を置き、その後昼食会場まで向かう事になる。


「俊樹たちはどこかぶらぶらしててもいいんじゃない?」


 未来が言ってくれた通り、僕らは旅館に行く必要が無い。

 でもね、僕はクラスメイトと過ごしたいんだよ。


 美冬は僕の背中を押してくれた。


 僕は移動しながらクラスメイト達と雑談をする。


 それは他愛もない話であったり、美冬との関係を問い詰められたり――


 本当に学生らしいものであった。



 美冬は僕を見守っている。

 未来はそんな美冬を見守っていた。


 ははっ、本当そっくりだ。

 良かった、二人が出会うことができて――





 そして僕は担任の先生と目が会った。


 先生は複雑な表情で僕に近づく。


「はぁ、全く君のおかげで今回の修学旅行は前例に無いことだらけだよ。半日だけの修学旅行で付添の介護人はうちの一年生と来たもんだ。はぁ、白髪増えそう」


「ご苦労さまです」


 先生は僕の肩に手を置いた。


「――苦労をして生徒を守るのが仕事だ。思う存分困らせてくれ」


「先生――」


 先生は他の生徒に呼ばれて去っていった。


 ――ありがとうございます。手術頑張ります。







 お昼もうちのクラスだけが大騒ぎであった。

 それはまるで僕の手術の見送る感じである。

 悲しみはとうに過ぎている。


 悲壮感を覆い隠して、僕の心を鼓舞していた。


 未来も美冬もクラスメイトも笑い合う。

 僕も釣られて笑ってしまう。


 たまに他のクラスから奇異な目で見られたけど、そんなのお構いない。


 先生は時計をチェックして僕と美冬に近づいて来た。


「駿河、残念だが時間だ。――お前とまた会える事を祈る」


 僕と美冬は席から立ち上がる。

 僕らは先生と、未来、クラスメイトに向かってお辞儀をした。

 頭を直してまっすぐにみんなを見つめる。




「ありがとう――」



 僕はそれしか言えなかった。

 だってこんなにも優しい人達を悲しませている。

 僕がひっそりと消えていれば悲しみなんて無かったはず。


 でもね、僕はみんなから勇気をもらえた。


 戦う力を――


 だから、僕はみんなに感謝したい。




 クラスメイトたちは立ち上がった。

「な、泣かねーよ――」

「ああ、駿河は絶対帰ってくる!」

「おい、笑って見送れよ!」

「ひっぐっ、しゅるがくん――」

「はははっ! 絶対大丈夫だ!!」

「これ持ってけ!! みんなで折ったんだ!」


 未来が一人の生徒から大きなビニールに入った何かを手渡された。

 未来が僕に近づく。


「はい、これ持って行ってね。私達まってるからね!!!」


 僕はそれを受け取る。

 中には千羽鶴が入っていた。


「行ってこいよ!!」

「頑張って!!」

「負けんなよ!!」

「愛してるぅーー!」

「おい、誰だ! しれっと告白しやがったやつは!」

「はっははっ――」



 言葉とは裏腹に泣き出している生徒もいるけど、みんな素敵な表情であった。



 僕はそれを目に焼き付ける。



 脳に焼き付ける。




 ――行ってくるよ。




 僕は美冬と歩き始めた。

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