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余命一ヶ月の僕が、ボロボロの少女を拾って同居したら幸せになれた話  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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2/29

出会い

 今日も一日が始まる。あと三十日か……


 昨日先生に話をしたら、落ち着くまで学校に来なくていいよ、との事だった。

 余命一ヶ月の人間に落ち着くまでって……と思ったが、先生もなんて言っていいかわからない表情をしていた。

 そりゃそうだ。自分の生徒が死ぬ前提の話なんてわけ分からないと思う。


 どうせ学校に行っても友達もいない、幼馴染の未来が嫌がらせをしてくるだけだ。


 いつもよりも大分早く目が覚めて、僕は無意味に散歩をしながら今後の事について考えることにした。




 まだ薄暗い住宅街を一人歩く。

 静けさが心地よい。


 僕に興味を無くした両親は、僕のために小さなアパートを借りてくれた。

 ここで好きに生きろって事だ。


 余命一ヶ月だからといって、身体の調子は悪いわけじゃない。

 頭の奥に違和感があるだけだ。


 ――僕は資産家の長男として生まれた。子供の頃から習い事ばかりで自由が一切無かった。だから今が初めての自由だ。


 正直何をしていいかわからない。

 勉強もできた、運動もできた、だけど人の気持ちだけはわからなかった。

 同級生はクラスの誰が好き、とか、そういう話で盛り上がっていたけど、僕には全く理解できない。


 好きって何? 愛情って何?

 両親から与えられる重圧に負けないように努力すること?

 幼馴染の暴力に耐える事?

 僕には愛情なんて感情はドラマの中でしか見たことが無い。そんな感情は見せかけでこの世に無いと思っている。


 勉強ができるだけじゃ駄目なの? 優秀なだけじゃ駄目なの?


 父さんから言われた言葉を思い出す


『貴様は空っぽだ。人の心を知れ』


 そんな僕だから友達を作る事もしてこなかった。

 ……僕に近寄って来る奴らは、大半は僕のお金目当てであった。


 余命一ヶ月だという事は、僕の家族と学校関係者しか知らない。……妹は知らないはずだ。家に反発してアイドル目指すって言っていたし。反抗期だから僕とは口きかない。


 ――一ヶ月どうしようか?


 僕の趣味は何もない。親の言うことを聞いているだけのロボットであった。


 ――今からでも遅くない。

 何かを残す事が出来るかも知れない。


 そんな事を考えていたら、随分と遠くまで来てしまった。

 こんな朝早い時間は誰もいない……ハズであった。


 目の前から新聞配達のひいひい言いながら自転車を漕いでいるのを見かけた。

 彼女は時折止まり、一軒一軒に新聞をポストに入れる。その姿は慣れたものであった。


 ――……死ぬ前にアルバイトでもしてみるか。うん、経験したことが無いことをしてみたいな……。






 いきなりドンッ、という音と自動車のブレーキ音が朝の静寂を切り裂いた。


「こら!! あぶねーだろ!!」


「す、すいません!?」


 自転車が横倒れになり、少女が道端で尻もちをついていた。

 新聞は辺りに散乱している。


 悪態をつきながら車は急発進して去ってしまった。

 僕はスマホで車の写真を素早く取った。


 ――流石に目の前で怪我でもされたら気分悪い……


 そして、少女の元へと向かった。




 少女は悔しそうな顔で新聞を集めていた。

 僕は無言で新聞を拾い始めた。

 少女が僕に気が付くと、一瞬だけ呆けた顔をした、が、すぐに僕を止めようとした。


「――あ、ああ、大丈夫ですよ! よ、汚れちゃいますよ。」


「気にしないで。僕が好きでやってるから」


 戸惑う少女を無視して僕は新聞をひろう。

 そして大体拾い終わると、少女に新聞を渡した。


「少しだけ汚れているけど、叩けば大丈夫でしょ?」


 新聞を拾っていた少女がお礼の言葉と共に立ち上がろうとする。


「あ、ありがとうございます……痛……あ、足が……」


 少女は立ち上がれずに足を押さえていた。


「動かないで」


 僕は少女の細い足を傷まないように優しく触る。

 ……素人見だけど、ひねっただけかな? もしかしたらひびが入っているかも知れないし……固定しておくか。


「ひゃ!? は、恥ずかしいです……」


「うん、黙って、応急処置するから」


 サイドポーチに入れていた包帯で足を固定する。

 少女はおとなしくしていた。


「うん、これでひとまず大丈夫だと思う」


 少女は恐る恐る立ち上がった。


「……あ、動ける……凄い」


「ちゃんと病院で見てもらわなきゃ駄目だよ……まず上司に連絡したほうがいいよ? これは事故だからね」


「あ、は、はい……で、でも……」


 少女は困った顔でうつむいてしまった。


「……首になったら困ります……だ、大丈夫です。……ははっ」


 少女は苦笑いをしながら自転車に近づいた。


 人生をあきらめたような苦笑い。

 こんな顔をする女の子に出会った事がない。


 彼女は何故無理して笑おうとした?


「……うんしょ、よし、なんとか動く……」


 少女は自転車に乗る前に僕に振り返り、大きくお辞儀をするのであった。


「ありがとうございました」


「…………」




 僕は少女が視界から消えるまで、その場に立ち尽くしてしまった。

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