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余命一ヶ月の僕が、ボロボロの少女を拾って同居したら幸せになれた話  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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俊樹の決意


 ――僕に恋をした。



 その言葉を言い放った美冬の瞳から一筋の涙が流れていた。

 必死で泣くのをこらえているように見える。


 僕は美冬と真剣に向き合いながら告げる。


「――死んじゃうんだよ? 僕と一緒にいたって美冬は……幸せになれないよ?」


「私の幸せは私が決めるの」


「――今まで言えなかったんだよ? ……そんな僕を信用できるの?」


「ううん、今言ってくれた。まだ出会って少ししか経ってない私に……」


「――僕は美冬を悲しませてしまう……だから、美冬はこれから一人で生きていけるように――」


 僕が消える。そう、それが一番美冬のためになる。美冬は父さんたちに任せる。そうすれば人並に幸せな生活を送れる。


 それでも美冬は首を振る。

 涙を流しているのに、その燃え上がるような瞳は真っすぐ僕を見つめていた。


「俊樹君、私はあなたのそばから離れない。――もう決めたの」


「たとえ僕の事が好きって言ってくれても……僕は」


 美冬は僕の言葉を遮った。




「――愛してる」




 美冬は続けて言い放つ。


「俊樹君が思っているよりも……私は俊樹君に首ったけなのよ。……死んじゃうのは悲しい……でもね、一緒にいられないのはもっと悲しい事よ」


 僕の手を重ねた、美冬の手が僕の身体を伝わせて……僕の顔を優しく撫でる。


「ねえ、俊樹君……迷惑だったかな……私が愛してるって言っちゃって?」


 僕は美冬の小さな身体を今すぐにでも抱きしめたくなる。

 自の両手を強く握り締める。




「――ああ、本当に迷惑だ……。美冬は僕をとても困らせているよ……」




 親父は凄いな。僕が美冬に惚れてるってすぐ分かったよね?

 ――僕の感情が、僕の全身が、美冬の思いを受け止める。


 父さん達からしたら、おままごとに見えるかも知れない。

 好きな人から好きって言ってもらえた喜び。

 好きな人を残して死んでしまう罪悪感と悲しみ。

 好きな人を笑顔にしたという希望。




「――――」




 声が出なかった。僕の気持ちを美冬に伝えたいはずなのに……。

 身体が動かない。全身から震えて動かない。

 感情が身体の中で暴れまわっている。



 美冬はそんな僕を……しっかりと抱きしめてくれた。

 小さな身体を精一杯大きくして、僕の背中に手を回してくれる。


 美冬の温かさが僕の心に届く。


 ――本当に……出会えて良かった。




 僕は美冬の耳元で囁いた。





「――僕から離れるな。ずっと……ずっと、死ぬまでそばにいてくれ」





 ひどい男だと認識してる。

 死んでしまう男が美冬を束縛してしまうのだ。


 それでも……、僕の理性は愛情という感情を抑えることが出来なかった。






「――僕が惚れた最初で最後の女の子だよ」






 美冬は僕の胸で嗚咽を上げる。

 それは悲しみと喜びが入り混じっている嗚咽。


 僕らはみんなに見守られている中、ずっと抱きしめ合った。












 父さんと母さんのすすり泣く声だ聞こえる。

 お手伝いさんたちは全員直立不動で僕らを見守ってくれた。


 僕と美冬は静かに離れる。

 再び、ソファに座る。さっきと違って、今度は美冬との距離が更に近くなった。


 僕は泣いている父さんを見るのは初めてだった。

 父さんは必死で自分を抑えようとしている。

 母さんはそんな父さんに寄り添う。


 素敵な夫婦だね……。



 父さんはいきなり立ち上がった。

 父さんは美冬に頭を下げた。


「――ありがとう……。本当にありがとう……あの人嫌いの俊樹が……うぅ……。美冬さん……本当にすまない……」


 美冬は小さくお辞儀をする。

 涙で声が出ないみたいだ……。





 そして、父さんは大声で叫んだ。



「――いいか!! これは……悲恋なんかじゃないんだ……。俊樹がやっと人を好きになれたんだ……奇跡が起こったんだ。……だから、みんな喜んでくれ!! 悲しまないでくれ!! 俺たちがこいつらに悲しみを押し付けるな! ――だから」


 父さんは僕の見つめる。

 優しい眼差しは初めてだよ……。




「――俊樹、おめでとう……。心から祝福を……ぐっ……祝福をする」




 父さんは僕の前に手を差し出した。

 僕は恐る恐るその手を……取る。


 ゴツゴツした大きな手が汗ばんでいる。

 小さく小刻みに震えているのが分かる。


 ――父さんの愛情が伝わる。





 父さんは僕の顔を見て満足したのか、そっと手を離す。


「父さん、ありがとう。……うん、僕もみんなが祝福してくれたら嬉しいかもね。……でも、美冬……」


 美冬は僕を見て笑みを浮かべた。


「もう、私だって祝ってくれた方が嬉しいよ! ねえ、俊樹君……私、俊樹君の余命は気にしないからね? だから……私とずっと一緒に過ごそうね!」


「一緒に過ごす……」


 ――そういえば、僕は美冬を一緒に暮らしているんだ!?


 そう思うと、凄く恥ずかしくなってきた。


 美冬は意地悪な笑みを浮かべる。


「へへっ、これから一杯俊樹君に甘えちゃうからね! ――逃さないよ!」


「お、お手柔らかにお願い……」


「なんか、いつもと逆だね? ふふっ」




 僕も美冬の笑顔につられて笑ってしまう。

 父さんも母さんも笑みを浮かべる。

 僕たちが作った悲しみの空気は、だんだんとお祝いの空気に変化していく。




 そうだ。この恋を悲恋になんてさせない。


 僕は……戦う。


 前を向くんだ!


 美冬と一秒でも長く一緒にいるんだ!











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