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自負

帰りのバスの中で鼻血を出すというまさかの失態に、私は一人で凹んでいました。


それでも表面上は努めて冷静に、いつもの私の姿を崩さないように心掛けます。


ヒロ坊くんの家の前で、山下さんと沙奈子さんとは別れ(絵里奈さんと玲那さんは、別のバスで帰るので、水族館近くのバス停で別れました)、二階に上がったのですが、そこで、


「ピカ、さっき鼻血出してただろ」


ってカナが。


『バレてた…!?』


何とか平静を保とうとするものの、


「…え…?」


などと言葉に詰まったことで、図星だというのがバレバレだと自分でも分かってしまったのですが、後の祭りというものでしょう。


顔がカーッと熱くなるのが分かります。


するとフミまでもが、


「あ、さっきのあれってやっぱりそうなんだ? もしかしたらと思ってたけどさ」


なんて。


「もう! 知りません…!」


私はつい、そう声を上げてしまったのですが、だけど二人が私をからかっているわけでないのは分かっているのです。


だから、私も、恥ずかしいのは恥ずかしいですが、ホッとするというのもあったのでした。


カナがこうして明るく振る舞えるというのが嬉しくて。


本当なら、世の中のすべてを恨んで呪っていてもおかしくないほどの境遇にある彼女の笑顔。


それに私も貢献できているというのが……


少し拗ねたような態度をとってしまっても、自然と私も笑顔になってしまうのです。


『よかった……本当に……』


水族館に行ってよかったと、心に染みます。


この調子で、海や私の別荘にも行きましょう。


ああでも、その為には先に、夏休みの課題も終わらせないといけませんね。


すると、階段をトントンと上がってくる気配が。


ヒロ坊くんと千早でした。その手には、夏休みの宿題も。


「それでは、宿題を片付けてしまいましょうか」


気を取り直して、そう告げさせていただきます。


こうしてみんなで楽しくやれば、課題や宿題も捗るというものじゃないでしょうか。


もちろん、一人の方が捗るという方もいらっしゃるでしょう。かつては私もそうでした。ですが今では、皆が一緒でないといまいち気乗りしないというのも事実です。


本当に、変われば変わるものですね。


イチコ達と出逢う以前の私が今の私を見たら、きっと、


『堕落した』


と嘲笑うでしょう。


その一方で、今の私として、かつての私には複雑な思いももちろんあります。


あの頃の私の価値観を侮蔑するつもりもありませんが、『もったいないことをしていた』と感じてしまうのも偽らざる気持ちなのです。


人というものは本当に不思議です。


自分が他人より優秀だと自負し、劣っているように見えていた方々を見下していた頃の私では決して得ることのできなかったものを、私は今、手にしているのですから。



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