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何かを伝えようと

ショーの開演まではまだ結構時間があったからか、まずまず水槽に近いところの席を取ることができました。


「ねえねえ! ここって水かかる? かかる!?」


千早が興奮したように訊いてきます。


「掛かりそうですね。でも、今日は暑いので丁度いいんじゃないでしょうか」


「うひひひひひひ♡」


嬉しそうに笑う彼女の様子に、私は胸があたたかくなるのを感じました。何しろ彼女は、私達とこうして親しくなるまで、家族でどこかに出掛けたという覚えがないそうですから。


ほんの赤ん坊だった頃に家族で動物園に行ったものの、お父さんは文句ばかりで動こうとせず、お母さんはひたすらイライラしていて最悪だったと、<嫌な思い出>としてお姉さんが語ってくれたことはあったそうですが。


しかも、お母さんがイライラしていた原因が、千早がぐずってばかりだったことだと難癖まで付けられたのだとか。


その話を聞いて、私は、正直、順序が逆だと感じました。お父さんやお母さんやお姉さん方のイライラした気分を赤ん坊だった千早が察し、それでぐずったのではないかというのが偽らざる印象です。


『赤ん坊は泣くのが仕事』などという言葉も聞きますが、赤ん坊が泣くのは自身が不快な状況にあることを示そうとする意思表示であって、それをきちんと汲み取って対応しなければ泣き止まないのはむしろ当然なのではないでしょうか。


『泣き疲れるまで放っておけば勝手に泣き止む』とも聞きますが、ヒロ坊くんやイチコと、二人のお父さんとの関係性を見ていると、それもどうなのかと思ってしまいます。


懸命に意思表示をしても無視するような親が果たして子供の信頼を得られるのかどうか……


本音を言わせていただくと私も、かつては、『泣いてるのはただ甘えてるからだ』と考えていたのは事実です。しかし、実際にとても穏やかな気性で、かつ他人の話に耳を傾ける器を有したヒロ坊くんやイチコを見ていると、二人が赤ん坊の頃からこの声に耳を傾け、かつ笑顔を絶やさなかったという山仁さんという実例を前にすると、認識を改めずにはいられませんでした。


たとえ意味のある<言葉>でなくとも何かを伝えようとしている子供を無視するのは下策でしかないのではないかというのが、今の実感です。


なので私も、とにかく今は相手の方の話に耳を傾けた上で、それが聞き入れられるような内容でなければ、


「その提案は受け入れられません」


と応え、そのままでは受け入れられないような内容でも、


「この部分を再検討し条件を見直していただけるのであれば、一考の余地はあります」


と応えさせたいただくようにしているのです。


すると、以前は相手の方の反発を招いて、故にこちらとしても強引な手段に打って出なければいけなかったことが多かったですが、今では随分とスムーズになった気がします。


もちろんそれでも、相手の方にこちらの話を聞く気がなければ上手くいかないことも多いですが。



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