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昨日の敵は今日の友 その3

『今回の件は、私だからこそできることがあります。お任せください』


そう告げて私は石生蔵さんを連れて、彼女の家に向かったのです。


彼とイチコには、敢えて家で待っててもらいました。今回の件については、私一人の方がむしろ都合がよかったからです。その方が、私が私であることを最大限に活かせます。その下準備として、私はあるところに電話をかけていました。


「抜き打ちの訓練を、今から実施お願いします。タイミングはいつも通りアプリの方からお知らせします」


先方の承諾を確認し、いったん電話を切ります。


そんな私を不思議そうに見上げる石生蔵さんに向かって私は、


「ちょっとしたイベントですよ。女の子にとってはあまり興味がないかも知れませんけど」


とウインクをしてみせました。


そんなあれこれをしているうちに、石生蔵さんの家に着きました。私は躊躇なくチャイムを鳴らします。


「はーい」


と女性の声がして、ドアの向こうに人の気配がしました。すると石生蔵さんは怯えた様子で私の後ろに隠れます。どうやら石生蔵さんを叩いたお姉さんのようですね。


ドアが開けられ、中から姿を現したのは、いかにも品も知性もなさそうな下流の中学生を体現した女性でした。


「…誰?」


私の姿を見るなりその女性は明らかに面倒臭そうに聞いてきました。そんな女性に私は深々と頭を下げ、


「初めまして。私はあなたの妹さんの千早さんの友達をさせていただいてます、星谷(ひかりたに)と申します」


と言わせていただいた瞬間、その女性は私の後ろに隠れていた千早さんに気付いて、


「あ、お前! 仲間呼んだってか? ふざけんな!」


といきなり凄んだのでした。


私の体につかまり千早さんが身をすくませるのを感じながらも、彼女のお姉さんのその姿は、私にとってはいかにも陳腐で幼稚で冗談の様にしか見えませんでした。思わず笑ってしまいそうになるのを意識を逸らすことで何とか抑えます。


「何ですか、初対面の相手を前にしてその口のきき方は? しかも私はあなたより年上ですよ? 礼儀がなっていないですね」


努めて冷静に、しかし毅然とした態度で私は諫めます。けれど彼女は不貞腐れた様子で、


「それで? あの泥棒になに吹き込まれたか知らないけど、何の用?」


とますます珍妙な物言いをするのでした。これはいったい、何というコメディなのでしょう? そんなことを頭の隅で考えながら、このような茶番にいつまでも時間をかける気はありませんでしたので、単刀直入に用件を申し上げさせていただきました。


「いえ、私はただ、あなたが失くされたというお小遣いはどこで見付かりましたか?とお聴きしに来ただけですよ」


「……!?」


私の言葉に、それまで不貞腐れたような顔をしていた彼女の表情が一瞬、ぎょっとしたようなそれに変わるのを私は見逃しませんでした。


この瞬間、私はもう勝負がついたことを確信し、後はいかにして本当のことを認めさせるかだけだと思ったのでした。



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