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ただいまアプリのテスト中

二十八日、日曜日。去年ほどの大雪はありませんが雪がちらつく中、いつものように千早とヒロ坊くんと共に山下さんのお宅に向かいます。


「う~い、寒、寒~!」


冷たい空気に肩を竦めながら、でも楽しそうに千早が前を歩きます。沙奈子さんと会えるのが嬉しいのでしょう。毎日会っていても、でも会うのが嬉しい。そんな関係があることを、私はイチコ達に出逢うまで知りませんでした。


人と人の出逢いは本当に不思議です。自分では辿り着けなかった境地に容易く押し上げてくれたりもするのです。


千早にもそんな出逢いがあったことが私は嬉しい。


そしてそれを素直に嬉しいと思える私になれたことがまた嬉しい。


なんという幸せ。


それを噛み締めながら山下さんのお宅に到着すると、千早が玄関を開けてそこに沙奈子さんの姿を見付けた途端に彼女に抱きついて頬をすりつけ、


「冷たい? ねえ冷たい? 沙奈はあったかいな~♡」


と甘えた声を出しました。


「冷たいね…」


沙奈子さんの声はいつものように落ち着いたそれでしたが、でも不思議と喜んでいるのが分かります。沙奈子さんをよく知らない方には分からなくても、私達には分かるのです。


そこに、ヒロ坊くんが、


「長いぞ千早~」


と。その声も決して怒っているのではないことも分かります。ああ、なんと心地好い。


そうして千早とヒロ坊くんと沙奈子さんが昼食を作り始めたのを見守りながら、私は、山下さんと、ビデオ通話で参加してらっしゃる玲那さんとに向けて、


「玲那さんの音声を抽出したもので作ったバージョンが出来上がりましたので、少し試していただけますでしょうか」


今回の一番の目的であったことを伝えました。すると玲那さんがパアッと顔を輝かせて、


「お~! 待ってました!!」


と。メールやメッセージでお知らせしてもよかったのですが、やはりこうして直接お伝えしたかったのです。笑顔の玲那さんと、そんな玲那さんを見守る山下さんのあたたかいこの表情を見たかったといいますか。


さっそく山下さんと玲那さんがそれぞれのスマホとノートパソコンにダウンロードなさって、


「テスト、テスト、ただいまアプリのテスト中」


<玲那さんの声>が、山下さんのスマホから発せられます。


正直、玲那さんの肉声を基にしていてもやはり機械音声であることは分かってしまいます。


それでも、私の耳に届いてきた声……


「お姉ちゃんの声だ…!」


振り返った私の視線の先には、驚いた表情の沙奈子さん。


加えて、山下さんも、


「玲那の声だ!」


と……


お二人は本当の玲那さんの声を知っているからこそ、脳が補正してくれるのかもしれませんね。


「ありがとう、ピカ!」


とてもとても嬉しそうな笑顔の玲那さんが、お礼を言ってくださったのでした。



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