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ただ傷を広げるだけ

二十四日、水曜日。


イチコも回復し、もしかすると誰かにうつったりしているかもしれないとも案じていましたがそれも杞憂に終わり、穏やかな日々が戻ってきました。


ただ、ここしばらく寒さが和らいでいたのが今日はまたキンと冷えてきたようです。雪になりそうだとかんじましたが、そちらについては案の定、夜には雪も振り出しました。


「千早も暖かくして休んでくださいね」


雪が舞う中、千早を自宅まで送り届ける途中、そう話しかけます。すると千早は笑顔で、


「うん。分かってる。今日は煮込みうどんを作るんだ」


と。


「それはいいですね」


自分に対して暴力も振るっていたお姉さん二人にそうして夕食を作って差し上げることができる千早に、私はとても誇らしい気になります。彼女の器の大きさが嬉しい。


もちろん、わだかまりはあるでしょう。千早自身が言っていましたが、お姉さん達やお母さんのことを許したわけでもないそうです。ただ、それに囚われているばかりでは自分が損だと思えるようになったとのこと。


力を付けて復讐さえ誓ってもおかしくなかった彼女のその心境の変化に胸が熱くなります。


私も学んだのです。


『復讐は何も生まないのではない。ただ傷を広げるだけ』


なのだと。


玲那さんの事件がまさにそうでした。そしてカナのお兄さんの事件も、ある意味では復讐だったのでしょう。


カナのお兄さんの事件についてはきっと異論も多いと思います。表面上はとても<復讐>には思えない。ですが、玲那さんの事件については確かに復讐と言えるのではないでしょうか?


けれど、それを実行したことで玲那さんはさらに苦しめられることになった。これは紛れもない現実なのです。


世間がどれほど復讐を礼賛しようとも、そんなものは上辺だけの<娯楽>に過ぎない。実際に復讐が行われれば、それは他人からは分かりにくいものなのです。


玲那さんの境遇がもっと詳しく世間に明らかにされていたら、旗色はもう少し変わっていたかもしれません。ですが、今度はきっと好奇の目に曝されることになっていたでしょう。実際、ごく一部についてそれを匂わせる話がすっぱ抜かれただけでも、


『何で逃げなかったんだ?』


『どうせ本人も楽しんでたんだろ?』


等の見るに耐えない悪口雑言がネット上だけを見ても溢れていたのですから。


所詮、<無責任な他人>というのはそういうものなのです。復讐を礼賛する一方で、それを実行した者を貶める。


復讐や私刑は法律で禁止されているというだけでなく、こういう形で結局は傷付いた方をさらに傷付けるのです。


千早がそれを理解してくれたのが本当に嬉しい。彼女が今以上に傷付くことが避けられるのですから。



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