ある種の憧れ
十九日、金曜日。
イチコは今日も学校を休んでいます。彼女がいない学校は、とても味気ない感じがしますね。
もちろん、カナとフミがいてくれるので楽しいのですが、やはり物足りないのです。
それは二人も同じようで、
「何か違和感あるよな~」
「うん、分かる」
と言っていました。
決して目立つ存在ではないのですが、イチコがいると安心感が違うのです。私達にとってはまさに基盤のような存在なのだと改めて感じます。
昨日と同じくカナは部活を休んで先に帰り、私とフミだけで部活に参加します。
「山仁さんは大丈夫ですか?」
フミの親戚でもある部長さんが心配してくださいました。
「はい、熱は高いですけど、不安を感じるようなしんどさじゃないそうです」
フミが端的に説明してくれました。親戚であり普段からも個人的に交流があるフミの言葉の方が届き易いでしょう。
ですが、フミのお母さんは、部長さんが同じ学校にいらっしゃることに今も不満を抱いているらしく、ことあるごとに、
「転校する気にならない?」
とまで訊いてくるそうです。三年生である部長さんは三月には卒業だというのにも関わらずです。実に非論理的であると言わざるを得ません。自身の感情だけが優先されて、それ以外の一切を蔑ろにしてらっしゃる。
なお、部長さん自身はそういう<大人の事情>については達観してらっしゃって、それらとは関係なく、茶道の専門学校に進んで茶人としての道を究めようとなさってらっしゃいます。
元々は周囲の大人達の複雑な人間模様に心乱されないような精神性の獲得を目指して始めた茶道だったそうですが、自身の人生の目標とできたことは素直に敬服したいと思います。
フミも、彼女の<強さ>にはある種の憧れもあるそうです。
ただ、部長さんの場合は、血は繋がらないといえど今のお父さんの理解と支えもあってのことだそうですので、その辺りではフミよりも恵まれているのも事実でしょうね。
フミのお父さんは、<勤め人>としては職責を果たしてらっしゃる立派な方なのですが、<子供の父親>という点においては残念ながら子供にとって良い手本となっているとは言い難いですし。
しかし、世の中にはそういう父親も少なくないでしょう。なので一概に責めるというのも違うとは思うのですが。
私の父もどちらかと言えばそちらに近い方ですし。
向き合おうとはしてくださるものの、なにぶん、我が子が相手となるとなぜかいつもの対人交渉術がまったく機能しないらしく、上手く話せないのだとおっしゃっていました。
とは言え、努力してくださっているのは伝わってきますので、まだ救われていますね。




