参拝
ヒロ坊くんの家から徒歩五分圏内にある神社は、とても小さなものでした。そして参拝客もまばら。
ですが、それでも私達以外にも参拝客がいらっしゃるのは、地域に根付いたものだからなのでしょうね。
参拝を済ませると、
「ね、ピカは何をお願いした?」
とフミが訊いてきました。
「そうですね。私は家内安全です」
正直に答えさせていただきます。
「らしいなあ」
カナが少し苦笑いっぽく微笑みながら言いました。すると千早が、
「私はフミ姉とカナ姉が幸せになれますように、って!」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら言ったのです。そしてヒロ坊くんも続けて、
「僕もみんなが幸せになれますように、ってお願いした」
と。
それが本心からのものであるのが、表情を見ていれば分かります。千早もヒロ坊くんも、みんなが幸せじゃないと自分も幸せじゃないからそうお願いできるのです。
ちゃんと、『自分のため』のお願いなのです。
ヒロ坊くんは元からそうでしたが、千早がそう思えるようになってくれたのが、とても嬉しい……
他人を不幸に陥れて自分だけが幸せになんて、現実的ではありません。そんなことをすれば恨みを買い、やがてどのような形で返ってくるか分かったものではないですから。
他人を力で支配し、自身への報復を捻じ伏せていたとしても、それは永遠ではないでしょう。何かの理由で力を失った途端に、または自分を上回る力を有した相手に出会ってしまった途端に、それまでの行いが一気に自身に降りかかるということが現にあるのです。
私自身、学校では冷たい目を向けられることが多いです。これは、かつての私の行いがそういう形で返ってきているだけですので、仕方ないと感じています。かつての私は、まさしくそういう視線を向けられる人間だったのですから。
御手洗さんの件についても、いつかは購わなければと思っています。現時点でも、ご両親の離婚協議が穏便に進むように、私の伝を使って双方の弁護士に働きかけもさせていただいています。
本当は元の関係に戻れるのが一番なのかもしれないとも考えましたが、聞くところによると御手洗さん自身が、それを望んでいないようですね。ご両親がそのようになったことで、彼女がそれまで秘めていた<本当の本音>が明らかになったそうです。
両親のことをどれだけ恨んでいたかということが……
両親が、自分を、<社会的な体裁を整えるための小道具>としか見ておらず、実際には愛していなかった事実を、それ以前にも薄々は感じていたものをはっきりと思い知らされてしまったことで……
彼女が今、どのような気持ちでいるのかと思うと、私自身は今は幸せであるもののそれに浸りきることができずにいました。
故に、千早が、
『フミ姉とカナ姉が幸せになれますように』
と願い、ヒロ坊くんが、
『みんなが幸せになれますように』
と願った理由が、私にも実感できたのです。




