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即物的な

金曜日。ヒロ坊くんや千早のことが気になってしまい、学校では少し上の空になってしまいましたが、何とか無事に過ごすことはできました。


部活も終え、ヒロ坊くんの家に向かうと、


「ちゃんとできたよ♡」


顔を合わすなり千早が笑顔でそう言ってきたのです。ちゃんとできた自分を褒めてほしいということでした。


「それは偉かったですね。さすがは私の自慢の妹です」


私としても素直な気持ちを伝えます。すると千早は、


「えへへ~♡」


と、嬉しそうに頬を染めていました。そんな千早を、ヒロ坊くんと沙奈子さんが柔らかく微笑みながら見ています。と言っても、一見しただけでも笑顔だと分かるヒロ坊くんに対して、沙奈子さんのそれは、彼女のことをよく知らない方には分かりにくいでしょうが。


それでも、今なら私にも分るのです。沙奈子さんの<表情>が。


彼女は、自身の感情を表現するのが不得意なだけで、決して感情がないわけではありません。そしてフミも、そんな沙奈子さんのことを理解できています。


自身が不幸の真っただ中にいると感じていらっしゃる方は、どうしても自身の不幸に囚われてしまい他人を気遣う余裕をなくす傾向にあると感じますが、幸い、フミはそこまでではありません。これは、彼女が、不幸の中にありながらもしっかりとその存在を受け止めてもらえている実感があるからだと私は思うのです。


人は、不幸の真っただ中にあっても、自身を認め受け止めてもらえている実感さえあれば正気を保つことができるのだと知りました。


だから私は千早のこともカナのこともフミのことも受け止めたいと思うのです。彼女らは、私にとっても大切な人達ですから。


そして何より、そんな風に思える私自身が救われていると感じます。両親に愛されている実感が得られず、他者を支配することで自身の価値を証明し、両親に認めてもらおうと考えていた浅ましい私自身が。


このように、互いに認め合い支え合うことで人は人として生きることができるのだと、今なら素直に思えます。


それが嬉しい。


この実感を得ていない私では、ヒロ坊くんは選んでくれないであろうことも分かります。私がどれほど高い能力を持っていたとしても、途方もない財力を持っていたとしてもです。


<財力>など、ヒロ坊くんにとってはそれほど魅力がないのだと分かります。


これは決して<綺麗事>ではありません。はっきり言ってしまえば実に即物的な<満足感>の話なのです。


人は飢えると満足感を得ることは難しいでしょう。しかし、現状、ヒロ坊くんの家庭は飢えるほど困窮しているわけではありません。その上で、自身の存在を全て受け止めてもらえているという実感があることで満たされているのです。



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