八つ当たりによる
フミの弟くんについても、両親に対する不信感が、彼に、
『ネット上で他人を罵る』
という形での<八つ当たりによるストレス解消>を行うきっかけであろうことは疑う余地もないでしょう。
ですが、だからといってそれは赤の他人にとっては何の関係もない話です。フミの弟くんがどれほど憤りや不安や不満を抱いていても、無関係な他人にはなんの責任もありません。にも拘らず、他人を罵ることで自らを癒そうとする。
そんな真似を許し認めてくださる方は、この世にはそれほど多くないでしょう。
なにしろ、当の弟くんが、本当に些細なことを理由に他人を罵るのですから、他人にはそんな甘えはただ不快なだけなのだと思います。
ゆえに言われた方はそんな弟くんに対して憤る。
当然の反応でしょうね。
フミは言います。
「カナのお兄さんみたいなことをやらかす前に止めてもらえるんならそれでいいよ。本人が『違法なことをしたら法律で裁かれる』っていうのを実感しないと分からないだろうし……」
と。さらには、
「今のままじゃどうせ、遅かれ早かれあの家庭は駄目になるよ。だったらいっそ、そうやって引導を渡してもらえた方がすっきりするかも。その結果、家族がバラバラになるとしても私は平気。未練もないから……」
とまで。
もうそこまでの覚悟を彼女に持たせるような状況なのです。
実際、もし弟くんが何か事件を起こせば、それなりの役職にあるフミのお父さんも影響を免れないでしょう。となれば、子供の前で『子供を生んだのは失敗だった』などと口になさるような母親がそのような状況を受け止めるとも思えません。早々に家を出てしまう可能性が高いでしょうね。
学校での部活が終わりいったんそれぞれ家に帰り、それからまたヒロ坊くんの家に集合した時、フミはまた疲れたような表情をしていました。
「また何かあったんだ…?」
カナが尋ねると、
「まあね……ホントに嫌になるよ……」
絞り出すように呟きました。そして山下さんが合流した時、ビデオ通話で参加していた玲那さんに話す形で、くわしく説明したのです。
「さっきもさ、お金が足りない足りないって延々言ってくんの。だから言ってやったんだ。『だったら小遣い要らないからそれで何とかしたら!?』って。
そしたらなんて言ったと思う? 『子供に小遣いも渡さないなんてそんな体裁の悪いことできるわけないでしょ!』だって。
すごいよね。自分の体裁のために子供に小遣いを渡すんだって。私のことなんか何も考えてないの。お小遣いをあげたいからあげてるんじゃないの。『あげないと体裁が悪い』っていう、自分のためだけで文句言いながらやってんの。
ホント、意味分かんないよ」




