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喜んでいるのですから

千早の家庭の場合は、とても上手くいっていると思います。


母親やお姉さん方による暴力はなりを潜め、すっかり千早に依存している形になっているのですから。


無論、


『とても家族仲が良くて笑顔が絶えない』


と言うほどではないにせよ、決して<理想的な家庭>とは言えないにせよ、少なくとも危険を感じるほどではなくなっているのも事実なのです。


確かに、千早一人が家事を切り盛りしているというのも好ましい状況ではないでしょう。小学生の子供一人にすべてを押し付けている状況というのは、ある意味ではまだ<虐待>と言えてしまうのかもしれません。


ですが、精神的な立場においては、千早が最も優位に立っているのは間違いありません。何より千早自身が、家庭内の誰よりも確実に家事をこなせているというその事実を楽しみ、喜んでいるのですから、それ自体は問題ではないと思うのです。


一方、カナの家庭の場合は、すでに手遅れと言ってもおかしくない状態です。


ご両親の関係を修復することはもはや不可能と言っても過言ではないと思われます。既にお互いを憎しみ合ってさえいるのですから。


できるのは、その憎しみをこれ以上先鋭化させないようにすることなのでしょう。


そのためにも、離婚調停を成功させなければいけないと思われます。双方<痛み分け>という形にはなるでしょうが、最大限折り合いがつく点を探らなければいけません。


壊れてしまった関係を修復することの難しさは、多くの方がご存知なのではないでしょうか。嫌いになってしまった人を改めて好きになることができますか?


関わりたくないと思った人との関係を修復したいと思いますか?


そういう難しさなのです。


そして、フミの家庭も……


『親子の関係は完全に壊れてしまうことはない。努力すれば必ず分かり合える時が来る』


そのようにおっしゃる方がいらっしゃいますが、私はそうは思いません。それどころか親と子で殺し合うまでになった事例は、人類の歴史を(ひもと)いても枚挙に暇がありませんし、ごくごく<普通の方々>の身の回りを見回してもそういう実例はいくつもあるのではないですか?


私は両親を尊敬していますし、お二人が私のことを十分に構えなかった事実についても理解したいと今は思えます。ですがそれすら、イチコとの出逢いがなければ今頃どうなっていたのか……


表面だけは取り繕いながらも、私は、ただ承認欲求を拗らせたある種の<怪物>になってしまっていたかもしれません。


それが恐ろしい。



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