コントロール
ヒロ坊くんのことはそれでいいのですが、今はフミです。
日曜日、いつものように千早とヒロ坊くんに付き添う形で山下さんのお宅に伺うと、
「田上さんの様子はどうですか?」
山下さんがフミのことを気に掛けてくださいました。
「相変わらず一進一退の状態ですが、それで安定していますね」
「そうですか…家族の問題というのは本当に難しいって感じますよね」
私の答えに、山下さんもやや目を伏せておっしゃいました。それに対して私は、
「はい。しかし、焦って強引に対処しようとすればかえって事態が悪化する可能性が高いと思われます。特に現時点でフミ以上に心配なのはフミの弟さんです。夜に繁華街を出歩いているようですので、しばらく監視を行うことにしました」
とも応えさせていただいたのです。
フミの家庭の問題は、彼女のお母さんだけではありません。弟くんについてもいろいろと問題を抱えているのです。
というのも、フミの弟くんは、ネット上で他人に対する誹謗中傷を繰り返している状態なのです。
これは放置しておくと大きな問題に発展する危険性が高いでしょう。
「他にも伝を使って、状況を掴みたいと思います。私にコントロールできる範囲のことはコントロールさせていただきたいと思います」
私の言葉に山下さんが少し唖然とした様子になっていたのは分かっていましたが、私は敢えて続けさせていただきました。
「カナのお兄さんの時には私は何もできませんでした。あんな想いはもうしたくありません。たとえ法的にグレーなことをすることになっても今度こそ止めてみせます」
それは私の本心でした。明らかに法に触れるようなことは避けたいと思いますが、際どいところまでであれば踏み込む覚悟はあります。もちろんあくまで効果が見込まれるならですが。
その私の言葉に、玲那さんが応じます。
「だよね。綺麗事だけじゃ、私があんなことに巻き込まれたのを止めることはできなかったと思う。実際、誰も助けてくれなかった……
お客の中には、私に対して同情的なことを言うのもいた。『助けてあげるからうちにおいで』とか言うのもいた。だけどそのどれもが口だけだった。口ばっかりで実際には何もしなかった。
分かってる。あの頃、私を働かせてたあいつらは裏社会と繋がってたんだ。だから普通の人にはどうすることもできなかった。
でも、不思議。ピカなら本当に何とかしそうって気さえする」
この世は綺麗事だけで済まないのは私も分かっています。
実は、これまでにも私は、自身の<力>を用いていくつかのトラブルに対処したことがあるのです。
イチコ達を巻き込みたくなかったので、完全に私の独断で行ったことでしたが。




