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だけど私も

『だけど私も、まさか自分がこうなれるとは思ってなかった』


そう口にした絵里奈さんが続けます。


「私の両親も典型的な仮面夫婦で、父が再婚してできた新しい母は、実の母に比べればすごく良くできた人だと思うけど、父が表向きの顔だけで選ぶのか、『外面はいいんだけど』って感じなの。当たり障りのない範囲で付き合う分にはいい人だと思う。でも深く付き合うと見えてくる部分っていうのが、本質的に他人を見下してる人なんだなっていうのを感じてしまって……


それで反発して高校の時にちょっと荒れちゃって、家にも帰らなくなって……


けれど私の場合は父方の叔父さんが本当にいい人で私のことをちゃんと見てくれて救われたっていうのはある。そこで踏み止まれたから今があるんだと思ってる。フミさんにもイチコさんたちがいるもんね。私たちも支えるから、一緒に乗り越えていこうよ」


その話は、まさにフミの抱える事情とよく似ています。フミにとっての<生きた先例>と言えるでしょう。そして絵里奈さんがおっしゃった、


『私の場合は父方の叔父さんが本当にいい人で私のことをちゃんと見てくれて救われたっていうのはある』


この言葉が、私の<考え>も裏付けてくれていました。


『救いがあればこそ、思いとどまることができる』


という、犯罪を未然に防ぐためのヒントがあると感じるのです。


ただし、ここで気を付けないといけないのが、


『一方的な押し付けは<救い>どころか相手を余計に追い詰める要因になる危険性が非常に高い』


点です。これまでの多くの事件においても、加害者が一線を越えるまでに周囲が何らかの手を打とうとしたと思しき形跡は見られるにも拘らず事件が起こってしまったという事例が少なからず見られます。


これがおそらく、


『事件を起こすような者は<異常者>なのだから、何をやっての無駄。社会から排除し抹殺するしかない』


などという極論の根拠になっていると思うのです。そしてそれが<落とし穴>であると。かつての私自身がまさにその落とし穴に嵌っていたのですから。


自身が、


<今まさに追い詰められ、一線を越えてしまいそうになっている方々>


に実際に手を差し伸べることもしていないにも拘らずすべてを理解しているかのように思い上がっていたのです。


もっとも、当時の私では、たとえ救いの手を差し伸べようとしていたとしても、ただただ一方的な<善意の押し付け>にしかならなかったでしょうね。そうして失敗して、


『ほら御覧なさい、やはり犯罪を犯すような人はそもそも異常者なのです。だから救うことなどできない。異常者を排除することこそが犯罪を未然に防ぐのです!』


などと高らかに宣言していたでしょう。



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