ひどく気分が
フミのお父さんは、市役所の、企業に対する許認可に関連する部署の責任者という立場にあり、規律に厳しく法令や条例を厳格に適用してくる方で、私の父でさえ対応に慎重を期す人物でした。
しかし、公人としての務めを果たしている時と、私人として自宅にいる時とでは大変にイメージが違う方のようで、フミのお父さんに対する印象は必ずしも良いものではないといいます。
フミ曰く、
「お父さん? なんて言うかね、漫画で出てくる典型的な<ぐうたら親父>って感じかな。家ではひたすらゴロゴロしてて、だらしない人なんだよ。
でも……
でも、それだけなら別にいいんだ……だけどさ、私のことを見ようともしてくれないのがきつくてさ……
ピカと揉めた時、私が精神的にボロボロになってても、顔すら見てくれなかったんだよ……ピカのお父さんがピカを止めてくれなかったら、私、ここにこうしていなかったと思う……」
とのことでした。
その件につきましては、私も本当に返す言葉がありません。当時の私が、今、目の前にいたら、叱り飛ばしてしまいそうです。
「恥を知りなさい!!」
と。
ですが今はその話ではないですね。
ただ、フミのお父さんについてはただただ不器用な<仕事人間>と呼ばれるタイプなだけで、普段の素行に大きな問題があるわけでないと思います。仕事で緊張している分、自宅ではその緊張から解き放たれることで脱力してしまうのだとも考えられます。オンオフの格差が大きすぎるのでしょう。
ですが、母親につきましては、素行調査とまではいきませんがその人となりを簡単に調査していただいただけでも、様々な<悪評>が集まったようです。
必ずしも反社会的な振る舞いをするわけではないものの、何と言いますか、大変に見栄っ張りで、自身を高く評価し、反面、他人は低く評価し、気分の浮き沈みが激しく、相手によって大きく態度が変わる方であるというのが大まかな人物像でした。
思春期を迎え社会性を確立するごとにそんな母親の在り様がフミにとっては苦痛になっていったのでしょう。
「はぁ……何て言うか、気分が上がったり下がったり、自分でも忙しいと思う……」
昨日は結局、家には帰らず、ヒロ坊くんの家に泊っていったことで学校では落ち着いた様子だったフミですが、今日も山下さんを迎えての会合の時間になると、また憂鬱そうな様子になっていたのでした。
家に帰ることを思うと、ひどく気分が落ち込むのだそうです。そんなフミに、
「私は家に帰りたくないって思ったこともないから分からないなあ。それってどういう気分なの?」
イチコが尋ねたのでした。




