表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/464

これが可哀想ってことか

カナはニヤニヤと悪戯っぽく笑っていましたが、それが私を馬鹿にすることを意図したものでないことは分かってします。ですから気になることもありません。


そして私が旅館で鼻血を噴いて倒れたことを、山下さんも馬鹿にしたりしませんでした。そういう方だというのが分かっているからこうして家族同然に親しくさせていただくことができているのです。


なので、カナが言ったことにも、困ったような笑みを浮かべてはいましたが、それはおそらく照れなのでしょうね。


ヒロ坊くんよりはさすがに、若い女性がお風呂に入っていた話について多少は意識もされるでしょうから。


ですがそれだけでした。その後はすぐに平然とされて、受け流していただけたのです。


そのため、旅館についての話はそれで終わりでした。それよりも、フミが。


「イチコが言ってたことが分かる気がする。あの子はこんな風にホッとすることがないってことなのかな。だからいつもあんな感じでイライラして……


そっか、これが可哀想ってことか……」


その場の穏やかな空気に浸っていたらしいフミが、しみじみとそう言います。館雀(かんざく)さんのことを思い出していたようですね。


「私もあの子と一緒だった。イチコと会うまでは……家のことでいっつもイライラして些細なことで腹を立てて陰口言って……


そうなんだ。あの子の姿は私の姿だった。だから余計に、私はあの子にムカついてた。きっとあの子の姿が、私のイヤなところを凝縮した感じだったから……


イチコ、ありがとう。私はあなたのおかげで今の私になれたって思う」


それはフミの正直な気持ちだったでしょう。私も彼女と同じことを思いました。イチコと出逢えたおかげで私は今の私になれたのですから。


そんなフミに、イチコが静かに応えます。


「フミがそう思ってくれるのが私も嬉しいよ。私もフミのことが好きだから。家のことで辛くなっても、みんなで一緒にいたら大丈夫になれるんだったらそれでいいんじゃないかな。辛いことってなくならないからさ」


「イチコ……」


そこに、カナも加わります。


「そうだよ。私たちは家族みたいなもんだよ。私の本当の家族はもうバラバラだけど、ここにもちゃんと家族があるって思ってる。こっちの家族があれば私は大丈夫だって思えるよ」


そして私も。


「そうですね、フミ。私にとってもあなたは家族のようなものです。もう、ただの友達ではありません。私たちと一緒に乗り越えてきましょう」


これは、改めて口に出すまでもなく私達の実感です。私達は既に家族と同じなのです。それを再度言葉として確認するために、私達はそう言ったのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ