身をもって学ぶ
そして土曜日。いよいよまた、あの旅館に皆で行きます。
今回はハイヤーを使ったので、バスの乗り換えもなくスムーズでした。
「いらっしゃいませ」
いつものように丁寧でありながらしつこくない出迎えをしていただき、安心感があります。さすがにまだ<自宅のような>とまではいきませんが、それでも山下さんのお宅に伺うような感覚はあるのです。
なので、基本的には接客も最低限にしていただき、私達なりに寛がせていただくことにしています。
「おっしゃ~、まずはお風呂だね~♡」
カナがそう声を上げて、さっそくお風呂へと向かいます。
「お~♡」
千早も嬉しそうにそれに続き、イチコとフミとヒロ坊くんも当たり前のように続きました。
『こ…心の準備が……!』
私はそう思いましたが、今さら詮無いことですね。
ともあれ、内心では焦りながらも、ついていくことにしました。
カナと千早はそれこそ豪快に裸になり、イチコとフミもまったく気負う様子もなく服を脱ぎ、そして唯一の男性である筈のヒロ坊くんもまるで気にするでもなく当たり前のように服を脱いでいきます。
私も、さすがに前回よりはまだ少しだけ落ち着いていられた気がします。
それでも顔は熱くなり、心臓が耳元で五月蠅いくらいに激しく鼓動を刻みます。
頭がくらくらして意識が遠のきそうでした。
何とかそんな状態を辛うじて支えつつ、皆が先に入った浴室へとしっかりとタオルで体を隠しながらも私も入りました。
ちらりとヒロ坊くんの様子を見ましたが、彼はまったく平然としています。前を隠すことさえしていません。
さすがに直視はできないので見ないようにしているにも拘わらず、鼻血を出して転倒した時に私のすべてを彼に見られてしまったことが思い出され、恥ずかしさあまりまた意識が遠のきそうになります。
「しっかりしろ、ピカ。気にし過ぎだ。ついてるものがちょっと違ってても、あんたも人間、ヒロ坊も人間。大した違いはない」
カナがそう言ってくれますが、分かっています。分かっているんです。きっと、彼以外の男の子なら、ここまで意識しません。たとえ成人男性であっても平然としていられる自信はあります。
ですがダメなのです。彼に対してだけは冷静ではいられないのです。私の中で彼の存在だけがあらゆるものを超越して特別であり、私はいつもの私ではいられなくなるのです。
カナも、それは分かってくれています。分かった上で私を励まそうとしてくれているのです。
だけど人間はそんな風には割り切れないということを、私は身をもって学ぶのでした。




