団欒
「山下さんのと私のは、私が作ったんだよ」
「お父さんのと私のは、私が作ったんだ」
ヒロ坊くんの家での昼食の時、カナとイチコが、ハンバーグを並べながらそう言いました。
「へえ、上手ですね。美味しいです」
カナが作ったハンバーグを食べながら、山下さんが応えてくれます。
そんな山下さんに、
「でも、千早の方がもう上手なんだよ。沙奈子ちゃんの指導の賜物かな」
と、やや失敗して焦げたものを自分で食べながら照れくさそうにカナが応じました。
山下さんはいつも日曜日に千早の作ったものを食べてらっしゃるので既によくご存知とは思いつつも、私も、
「そうですね。今では沙奈子さんの次に上手でしょう。その次がヒロ坊くんですが」
客観的な印象を告げさせていただきました。するとイチコが、
「いや~、女の子なのに面目ない」
とも。ヒロ坊くんに対してレパートリーの少なさを恥じているのでしょうが、ハンバーグを手作りできるのですから、他の料理も実際にやってみて経験を積めばおそらく問題なくできるだろうというのも、正直な印象ですね。少なくとも私程度にはすぐになれるでしょう。今はその必要を感じないから彼女もやらないだけなのを私は知っています。
現在、山仁家の食事については、千早とヒロ坊くんが主な担当で、私とカナがその手伝いをしている状態です。
つまりイチコとお義父さんは料理についてはほとんど何もしていないのが現実ではありますが、それは千早やヒロ坊くんに押し付けているのではなく、二人が好きでやっているから任せているだけなのです。イチコもお義父さんも料理は必ずしも得意ではないので、千早とヒロ坊くんがやらなければほとんど毎食、スーパーのお惣菜や数少ないレパートリーで賄うことになるでしょうね。
ですがそれで何の不満も出ないのが、山仁家のみなさんでした。
少なくとも夕食と朝食についてはいつも家族揃っての食事です。それどころか、イチコとヒロ坊くんが起きている間は、お義父さんは二人と一緒に仕事部屋でもあるリビングにいて、多くの時間を一緒に過ごしているのです。
他にも部屋はありながらも、基本的にはバラバラに過ごすことはあまりありません。自然と同じ部屋に集まってしまうのです。
『ずっと一緒にいたら息が詰まらないか?』
そんな風におっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、こと山仁家の方々についてはまったくそんなことはないのです。私も一緒にいる方がむしろ安心します。
心地好いのです。一緒にいるのが。
山下さんを迎えての<会合>の時くらいですね、別の部屋にいるのは。それはあくまで、まだ千早やヒロ坊くんや沙奈子さんには負担していただく必要のないことを話し合うための時間でしかないのです。




