プロポーション
両親は結局、家には帰ってきませんでした。父は来賓を歓待するために別荘に。母はフランチャイズ店でトラブルがあり、その対応のために東北まで出張です。
私一人が過ごすには、この家は広すぎます。
だから明日が待ち遠しい。
ヒロ坊くんの姿が頭をよぎるとカアッと体が熱を持ちます。
それを鎮めるためにもお風呂に入ることにしました。
脱衣所に立ち服を脱ぎ、姿見の鏡に体を映してチェックします。痣などはないか、吹き出物はないか、黒ずんでいたり荒れたりしていないか。
物心ついた頃には習慣になっていたものです。
『私は完璧でなくてはならない』
幼い頃には既に、そういう強迫観念に憑りつかれていたのでしょうね。さすがに今ではそこまでではありませんが、すっかり身に付いた習慣はなくならないものです。さすがに他の人と一緒に入浴するような時にはここまでしなくとも、姿見などがあるとその前をよぎった時にはつい目がそちらに行ってしまいます。
その点、イチコとカナはまったくそういうことには頓着していないようですね。二人とも女性としての美しさのようなものにはまったく興味がないそうです。
二人に比べると、千早とフミはそれなりに女性として気になるようです。二人であの旅館に行った時にも、千早は、
「お尻にデキモノとかないかなあ?」
と私に訊いてきたくらいですから。あと、
「おっぱいもピカ姉くらいにはなるかな?」
とも。
私も決して<豊満>というほどではないのですが、私自身は今のサイズが自身には最もバランスが取れていると感じていますので、現状維持を心掛けているところです。
「断定的なことは申し上げられませんが、千早の体格からすると私よりは大きくなるかもしれませんね。どちらかと言えば千早は、プロポーション的にはカナに近いと思いますし」
と応えさせていただきました。すると千早は、
「そっかあ♡」
嬉しそうに笑顔を浮かべました。
ただ、千早にとっては憧れもあるカナのそれも、カナ自身はとても忌み嫌っています。
実に女性らしい、豊かなプロポーションをしているにも拘わらず、わざとそれを崩したいらしく、胸を締め付けて小さく見せようとしたり、体のラインが出ないような締まりのないラフな格好を好みます。
それだけ、自身が女性であるということに対して嫌悪感を持っているのでしょう。
イチコの場合はただ頓着しないだけですが。
対して、フミは、
「とにかくみっともない恰好はしなさんな!」
と干渉してくるお母さんには反発もしつつも、それなりに気は遣っているようです。彼女の場合も幼い頃からの習慣になっているのでしょうね。




