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お義父さん自身が

「それからお母さんは何となくお父さんと一緒にいるようになって何となく付き合ってる感じになったって。だけど最初はお父さんのことを『お兄ちゃん』って呼んでたらしいよ。理想のお兄ちゃんだったらしいから」


『お兄ちゃん』。その単語が出た瞬間、皆の視線がお義父さんに集中します。私も思わず見てしまっていました。そんな私達に、お義父さんはほんの少しだけ困ったように微笑みます。


けれどイチコは止まりません。


「まあ結局、そんな感じで六年ほど付き合って、お母さんの方からプロポーズして結婚したって。お父さんはだいぶ渋ってたそうだけど」


そうだったんですね。


と、その時、ようやくお義父さんが口を開きます。


「あの頃はプライベートの方でまだいろいろありましたからね。彼女に迷惑が掛かると思って踏み切れなかったんです。六年でも安心はできませんでした」


『プライベートで……?』


何気なくその一言に引っ掛かりを感じた私は、続けてお義父さんが口になさった言葉に、息を呑むことになりました。


「当時私が参加していた学外サークルそのものが、私が抱えていた問題を考察するために友人たちが立ち上げたものだったんです。『犯罪加害者の家族が抱える問題について考察する』っていうことを目的としたサークルでした。


もっとも、妻が参加した当時には既にそれ以外の『様々な問題についてそれぞれの立場から相互に考察する』っていうサークルに変わってましたが」


まるで単なる世間話のように何気なく発せられたそれは、あまりに重いものだったのです。


『犯罪加害者の家族が抱える問題について考察する』


それはつまり、お義父さん自身が<犯罪加害者の家族>だったということを意味しているのは間違いありません。


とは言え、この時は、それ以上の詳しいお話はありませんでした。


ただ、それでも、お義父さんが何故、カナにここまでしてくださるのかという理由の一端が見えたように感じました。


お義父さん自身がカナと同じ経験をなさってきたからでしょう。


ですが、実は私はこの時、その話の重大さを正しく理解してはいなかったのです。せいぜいが、


『ご家族の中に、窃盗や傷害で逮捕された方がいらっしゃったのでしょうね。それでご苦労なされたのでしょう』


という程度にしか考えていなかったのだと思います。


けれど、そうではありませんでした。


この件に関する詳しい内容を知ることになるのは、まだもうしばらく後のことでしたが。


そしてそれは、私自身に対して選択を迫るものだったのです。


自らが口にしたことを貫き通すか、それとも、撤回して全てを諦めるかという選択を……



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