共感することを
山下さんの家での昼食を終えて、ヒロ坊くんの家へと戻ります。
しかし、お義父さんはまだおやすみされているので、ヒロ坊くんとイチコと千早とカナとフミと私は、一緒にショッピングモールへと出かけることにしました。
皆で自転車に乗り、二十分ほどかけて、この辺りでは最も大きなショッピングモールへと到着しました。
ここは、それ自体が一つの<街>であるかのような規模のもので、中には映画館さえあり、ヒロ坊くんとイチコと千早と私は、映画を見るために来たというのもあります。
もっとも、ヒロ坊くんとイチコと千早のリクエストであるアニメ映画なので、それについては正直申し上げて興味のない私はただヒロ坊くんのそばにいたいというだけなのですが。
カナはゲームセンターに、フミはウインドウショッピングをゆっくりと楽しむために、ここからは別行動となります。
「じゃ、またあとでね」
そう言って歩いて行くカナとフミを見送り、私達は映画館へと入りました。人気のアニメ映画だそうで観客も多く、あまりいい位置とは言い難かったですが席も取れて、観賞します。
内容については、関心のない私が触れるのは野暮というものでしょう。また、私が興味を持つことは今後もないだろうなと感じたことも偽らざる印象ではあるものの、ヒロ坊くん達は楽しんでらしたので、それで良かったと思います。
私は、他の方の趣味嗜好に口を差し挟むことが適切であるとは、今は思いません。かつてはこういったアニメやドラマを見下していたことは事実ですが、今ではその頃の自分を恥じ入ります。
『何様だというのでしょう』
と。
ただ、この種の趣味嗜好について、他人にも共感することを求めてくる方については、本音を申し上げれば今でも苦手です。
ヒロ坊くんたちが、
「面白かったね♡」
とおっしゃるのはまだいいんです。そこから先、
『だからピカちゃんも面白いと思ってよ』
みたいなことを、彼も千早も言ってはきませんので。彼も千早も、幼いながらその辺りの節度はわきまえているのだと思います。千早はかつて自身の気持ちを他者にも押し付けようとする傾向が強い人でしたが、今ではそれも影を潜めつつあるようですね。
おそらくは、周囲にいる人の影響でしょう。誰も彼女に共感することを強要しないので、彼女もそれに対抗するように強要する必要がなくなったのかもしれません。
そのような形で自らを守る必要がなくなったとも言えるのでしょうか。
『自分が面白いと思ったものは他人にも共感して欲しくなるのは当然だ』
とおっしゃる方もいらっしゃるようですが、それはいわゆる<承認欲求の表れ>というものではないかと私は感じているところですね。




