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全てが報われる

「またお越しくださいね」


最終日の夕方。迎えに来たマイクロバスに乗り込んだ私達に、アンナがそう言って微笑みかけました。


「ありがとう! また来くるよ~!」


「ばいば~い!」


カナと千早が、皆を代表するかのように大きく声を上げ、手を振りました。私達も、見送ってくれるアンナにそれぞれ手を振り、頭を下げました。


素直にそうできるのは、やはり彼女の歓待が素晴らしかったからでしょうね。


私達はただただお客様待遇を求めていたわけではありませんが、しかし厚く遇されて嫌な気分になることはあまりないのでしょう。


また、カナや、フミや、千早や、玲那さんや、沙奈子さんが少しでもこれで癒されたのであれば、私はそれ以上に嬉しいことはありません。


……いえ、正直申し上げればヒロ坊くんに喜んでいただけたのであればさらに嬉しいですが。


まさかそんな私の思考を読み取ったわけではないでしょうが、彼は不意に、


「ピカちゃん、ありがとう。楽しかったよ」


そう声を掛けてくださいました。


ああ……ああ……素晴らしい……!


胸の奥がたまらなくあたたかくなり、とろけてしまいそうな気分にさえなります。


全てが報われるのを感じます。




一旦、ヒロ坊くんの家に戻り、千早を家に送り届け、それからいつものハイヤーに迎えに来ていただいて家に帰りました。


でも、今日も両親はいません。二人共とても忙しく、時間が合うことは滅多にないのです。


「……」


あの時間があったかかったからこそ、寂しいものを感じてしまいます。


『贅沢だということは分かっているのです……贅沢だということは……』


両親がこれほど働いてくださっているから、今の私があるのは間違いありません。


けれど、ここまででなくてもいいから、ヒロ坊くんの家のような穏やかな家庭が欲しかったと思ってしまうのです。


もし、私がヒロ坊くんの家庭に生まれていたら、きっとイチコのような感じになっていたでしょう。


ですが、そうなれば、カナのお兄さんの事件や、玲那さんの事件には、今のような対処の仕方はできなかったかもしれませんが……


もちろんイチコも、カナや玲那さんのことを、彼女なりの形で守ってくださっています。それは、私にはできないやり方です。


それぞれがそれぞれのやり方で今の私達の幸せを作り上げています。


誰か一人がただただ頑張ってというのではありません。そのような形で作り上げた幸せは、非常に危ういものです。


頼っている方が倒れただだけで脆くも崩れ去ってしまうのですから。


それでは意味がないのです。


『……たらればを言っても仕方ありませんね……』


一人、家のリビングで佇みながら、私はそんな風にも思うのでした。



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