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一面を見ただけでは

玲那さんのことを知りもしないでただ責めたてる世間は、千早の家庭で起こったことが明るみになれば、同じようにして千早のお母さんやお姉さん達を容赦なく責めたてるでしょう。しかし、人間にはいろんな一面があるということを忘れてはいけません。


というのも、千早とヒロ坊くんが山下さんの家でカレーを作り、それを皆でよばれて帰った後、山下さんと沙奈子さんが、絵里奈さんと玲那さんに会いに行った時に、それは起こったのです。


山下さん達が出くわしたその一件の詳細を訊いたことで、私は改めて知ることとなりました。


人は、一面を見ただけでは本質までは見抜けないということを。




絵里奈さんと玲那さんに会いに行った山下さんと沙奈子さんは、道端に人だかりができているところに遭遇したそうです。何事かと見ていると、恰幅の良い中年男性が道路に倒れていたのに気付いたとのことでした。


しかし、その男性を取り囲む人達が何もできずにただ見下ろしていると、


「どいて! いい歳した大人が雁首揃えてなにをしてんの!? 早くしないと間に合わないよ!!」


と、野次馬らを一喝し一人の女性が現れ、手慣れた感じで男性の呼吸と脈を確認した後、野次馬の一人に向かって、


「そこの寺にAEDがあるから持ってきて。早く!! 走れ!!」


と怒鳴ったそうです。


怒鳴られた野次馬が大慌てで寺からAEDを借りて戻ってくるまでの間にも、女性は、心臓マッサージを行っていたとのこと。


しかも、女性の激しい心臓マッサージを見ていた野次馬の一人が、


「そんなにしたら骨が折れちゃう…!」


と声を上げると、女性は、その声に振り向きもせずに心臓マッサージを続けながら、


「骨が折れるのと死ぬのとどっちを優先するかぐらい分かるだろ!? 黙ってろ!!」


と、またも一喝したそうです。そしてAEDが届くと、躊躇なく用意をして、スイッチを入れ、


「電気ショックを行います。離れてください」


そう機械のアナウンスが流れても、それを無視して覗き込もうとした野次馬に、さらに怒鳴ったのだとか。


「離れろって言ってるだろうが! 死にたいのか!?」




応急処置が済んだ後で救急車が到着し、手際よく引き継ぎを済ませた女性は、その後、何事もなかったかのように立ち去ってしまったそうでした。


そして、少し離れたところで一部始終を見ていた山下さん達は、その女性が、玲那さんが事件を起こして自殺を図った際に入院していた病院の看護師であることに気付いたのだそうです。


石生蔵(いそくら)>と書かれた名札を付けた看護師であったことに。


そう、この時点では確証はありませんでしたが、私が探偵に依頼して裏付けを取ったところ、やはりこの時の女性は、千早のお母さんだったのです。



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