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セレブガール・ミーツ・ボーイ その11

思えば私の両親は、二人とも仕事が忙しく、私が幼かった頃にここまで私の話を聞くことができていなかったように思います。


私は幼い頃、


『自分は生まれてくるべきじゃなかったのかもしれない……』


と思ってしまってた時期があったのですが、それは両親との距離が原因かも知れないと、この家の様子を見ていて思いました。


その差が、一見するとまるでゴミ屋敷の初期段階の様に荒れているようにも見えるこの家庭で、イチコや彼が伸び伸びと朗らかに育っている秘訣なのかもしれないとも感じました。


とは言え、『興味のない内容の拙い話に延々と耳を傾ける』という、やはり容易ではないこの行いは、もはや精神的な鍛練の様にも思えてきてしまいます。


けれども、彼のお父さんがそうしてくださっているのでしたら、私も最低限、同じようにできないと、お父さんに並ぶ存在になることはできないと思いました。


愛情を感じるのです。彼に対する、とてつもなく深い、親としての愛情を。


この精神鍛練のような行いを、それこそ彼がまだ言葉も話せない、それこそ意思を伝える手段としては泣くことしかできなかった赤ん坊だった頃から続けてらしたというお父さんと肩を並べる存在にならなければ、彼の信頼を得ることは叶わないと悟ったのです。


そして、私が悟ったことは確かに正しかったようです。


辛抱強くそれを続けたためか、いつしか彼は私に懐いてくれているように見えました。フミやカナと一緒に家に訪れた時も、一番私に話しかけてくれますし、時には私にぴったりと寄り添ってゲームをしたりしてくれたのですから。


『彼の体温を…彼の重みを感じます……なんて尊い……これこそが生きている実感というものなのですね……』


私は、何の下心も外連味もなく、本気で心の底からそう思いました。素直にそう思えてしまいました。


冗談抜きで、私は、自分が生まれてこれたことを、彼が生まれてきてくれたことを、彼と出逢えたというこの奇跡を、ただただ感謝したかったのでした。




『彼は私を信頼してくれています…!』


その実感を得て、私は計画を第二段階へと進めることとしました。


「ヒロ坊くん、私が勉強を見てあげましょうか?」


そう。彼の勉強を見てあげると申し出たのです。


ですがそれもまた、私が思っていた以上に大変な作業でした。


自分もそうだったのかもしれないですが、子供の集中力というものは想定していた以上に長続きしなくて、しかも、自分が分かっていることを分からない人に分からせるというのは想像以上に難しいというのを、私は思い知らされてしまったのです。



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