1.東京 推理大会 説明会
携帯電話のアラームが鳴り響く。大学が夏休みに入ってからは全く聞くことのなかった音だ。
音の鳴る方に手を差し伸ばし、闇雲に携帯電話を探す。徐々に大きくなるアラーム音に苛立ち、顔を上げようやく携帯電話を見つける。アラームを解除した俺は再び眠りに就きたいという欲望に駆られたが、なんとかその欲求に打ち勝ち体を起こす。
時計に目をやると朝の十時過ぎを指している。
昨夜は日付がかわる前に眠りについたはずだ。成人男性がとる睡眠時間としては十分すぎるはずなのだが、どうも寝た気がしない。
まだ半分眠りに就いている頭を起こす意味も兼ねてシャワーを浴びる。
風呂からあがり、服を着替え、歯を磨き、髭を剃る。
自分で言うのもなんだが、今日の俺はてきぱきしている。その要因ははっきりしている。今日行われるイベントが楽しみで仕方ないのである。
朝食用に買っておいたパンを頬張りながらパソコンを開く。そして、そこにあるメールをまた読み返す。
俺にはこのメールが最高賞金額一億円にものぼる大会の、いわば予選通過を報せるメールであることがまだ完全には信用できなかった。額の大きさと反比例してあまりにも簡素な文章は、俺は何かの詐欺にあっているのではないかと疑った。しかし、「謎明社」というこのワードが俺を安心させてくれた。謎明社はミステリー小説を中心に売り出している大手とまでとは言わないが中堅には位置する出版社だ。
俺がこの大会の存在を知ったのは先月のことである。なにか面白いいミステリー小説はないかと謎明社の公式サイトを見てみた。そこで俺の目に飛び込んできたのは本格ミステリークイズ大会開催中という広告だった。ミステリー好きの俺は迷いもなくその広告をクリックした。
クリックした先には大会の説明があった。予選はネット上であり、今すぐ始められること。予選を勝ち抜いたものは本戦への参加する権利を得ること。本戦はネット上ではなく、実際に一つの場所に集まり開催されること。最高賞金が一億円であること、など。
そして、何よりも俺の心を躍らせたのは次の文であった。
「問題は実際にあった以下の事件をもとに作成しています。S県一家殺人事件、W大学女学生失踪事件、T県女子高生連続殺人事件、指名手配犯連続殺人事件、など」
この四つの事件は全て未解決事件である。特に注目すべきは殺人鬼が登場する、うしろの二つの事件だろう。
T県女子高生連続殺人事件は今から六年前に起きた。始まりは六月、梅雨の始まりを告げる雨とともに悲劇は訪れた。
第一の被害者となった女子高生は被害者が通う学校の裏の林で発見された。発見された遺体の直接の死因は絞殺であった。遺体が発見された、それだけで近隣住民に与えた衝撃は計り知れないものであったが、その後の報道で人々は凍りついた。
梅雨が明け、初夏が訪れた。第二の被害者が発見される。発見された場所は被害者の自宅。この時も、死因は絞殺である。警察がこの二つの殺人を同一犯と断定した理由は簡単なものであった。どちらの遺体も目玉をくり抜かれていたのである。
悲劇は季節が変わり、雪が舞う十二月を最後に終わりを告げた。最終的な被害者の数は七人となった。無論、いずれの死体も目玉は奪い取られていた。
なぜ、殺戮が終わったのか。なぜ、女子高生ばかりを狙ったのか。なぜ、目玉をくり抜いたのか。そして、殺人鬼の正体は。多くの謎を残したまま事件は終局を迎えた。
必ず目玉を奪っていたことから殺人鬼は「コレクター・アイ」とネット上で呼ばれるようになり、これが浸透していった.この呼び名はアニメ「コレクターユイ」にもかかっている。そこから、犯人は女性という説が一時期広まったが、あまりにも根拠のないものだったので、この説はすぐに消えた。
もうひとつの語り継がれる殺人鬼は実際に存在するのか確証はない。
指名手配犯連続殺人事件の始まりは今から十年前と考えられている。
O府O市でコンビニ強盗が発生した。犯人はナイフで店員を脅しレジから現金数万円を奪うという古典的な方法で犯行を実行した。現金を奪い逃走しようとしたところ、隙を突いて取り押さえようとした店員が飛びかかった。これに対し、犯人はナイフを振り回した。ナイフは見事に店員の喉下を切り裂いた。犯人は慌てて逃亡、店員は帰らぬ人となった。
警察はすぐに捜査を開始したが思うようには捜査は進まなかった。警察はやむを得ず公開捜査へと踏み切った。
防犯カメラが捕らえた犯人の顔を公開した。カメラに顔が映ったのは亡くなった店員と取っ組み合いになったときに犯人がかぶっていた目だし帽が取れてしまったからだ。
有力な情報が入ったのは、映像を公開してすぐのことだった。しかし、その情報は警察を驚かすことになった。
情報提供者はO府の近隣のS県の警察からであった。
結論から言えば強盗犯はすでに死んでいた。
O府警が映像を公開する一週間前にS県の自宅で遺体で見つかった。遺体は鋭利な刃物でめった刺しにされた状態で見つかった。切り傷の多くが十字架の形で刻まれており、その多くが被害者が絶命したあとにつけたものと推測されている。
この事件から半年後、同様の惨状の遺体が中部地方で見つかる。このときの被害者も指名手配犯であった。その後も半年に一度ぐらいのペースで似たような事件が起き続けたが、警察は事件が発生した地域が関東、中部、近畿と広かったため全ての事件の犯人が同じ人物とは考えなかった。
捜査は難航していた。警察はどの事件の犯人も捕まえることができていなかった。それどころが、容疑者すら捜し出せていなかった。そんな中、TV局に犯人と名乗る人物から手紙が送られてきた。手紙の内容はいかれたものだった。犯人は自らを「ジャスティス」と名乗り、神からの使者だと説明した。神の命により愚かな人間を裁くために下界に下りてきた。だから、警察は余計な捜査をしなくてよい。そして、私に感謝しろ、とも書かれていた。
警察はこの挑発ともとれる手紙が送られて以来、これまで以上に人員を割き、血眼になって犯人を捜しているが現在も犯人は捕まっていない。
以上が平成二大殺人鬼のエピソードとなる。二つの事件は、ネット上で多くのミステリーファンによってこれまでも散々議論されてきた。その事件をクイズ大会の問題にするとは、謎明社も大胆なことするものだと感心した。
大会の参加者は高額な賞ミステリーマニアにはたまらない問題の効果で最終的には一万人を超えていた。そんな中から選ばれた俺はここで運を使い果たしてしまった気分である。
そもそも予選の問題は未解決事件をもとに作っているのだから答えがないはずである。実際の事件の犯行現場の状況や時刻、被害者の状態、人柄などから犯行の方法や動機を推察させられたが答えは犯人以外知らないのである。そんな問題をどう採点したかも疑問だ。
主催者が殺人鬼なら問題はないが。
簡単な食事を終えた俺はかばんを持ち家を出た。謎明社までは最寄の駅から乗換えを一回行い一時間と少しで着くはずだ。少し早い気もするが逸る気持ちが抑えられない。それが賞金の高額さからなのか、または極上のミステリーへの期待感からなのかははっきりしなかった。
家から駅までは五分ほどなのだが駅に着いたころには俺は汗まみれになっていた。汗を服の袖で拭い、料金表を見上げる。目的の駅までの値段を確認し切符を買う。改札を抜けホームまでいくと、お盆時期のためかキャリーバッグを持った人が目に付く。帰省する人々なのだろう。大学に入って以来、一度も実家に帰ってない俺には心をチクリとさせる光景だ。特に理由はないのだが帰る気が起きない。別に両親が嫌いなわけではないし、地元にも多くの友人がいる。それでも帰らないのは、ただ億劫の一言では片付けられないなにかがあるのだと自分のことながら推察するが、自分の記憶には思い当たることはなにもなかった。
電車はすぐに来た。満員とまではいかないが、座ることはできない程度に込んでいた。仕方なく扉横のスペースを陣取り、壁にもたれかかる。帰省者が持つキャリーバッグが俺のスペースを侵害してくる。二十歳くらいの女性が慌ててキャリーバッグを引き寄せ小声ですみませんとだけ言ってくる。俺は頭を下げそれに応え、すぐに窓の外に目を移した。せっかく冷房を効かした電車内も人の多さであまり効果を得られていない。外よりはましといったところか。
電車が駅で停止するたびに人は増えていく一方であった。みんな東京駅まで行きたいのだろう。かく言う俺も東京駅で乗り換えなのだが。普段から電車にあまり乗らない俺には苦痛で仕方ない時間である。
アナウンスが耳に入ってくる。どうやら、ようやく東京駅に着くらしい。周囲の人々も降りる準備を始めた。俺は狭い車内でできる限りの伸びをした。間もなく、電車はホームへと滑り込んだ。せっかちな人が多く、扉の前に人が詰めかけ、我先にと電車が開くのを待ち始めた。俺は別に急いでないのだが立ち位置が悪かった。結果的には、一番急いでいる人が立つべき場所に並ばされてしまった。
窓から見る限りホームにも人が溢れかえっていた。電車が完全に停止すると背中から伝わってくる圧力が一層増した。前方からも無駄なプレッシャーがかけられていた。
扉が開くと同時に俺は外に押し出された。そのまま人込みがつくる流れに巻き込まれていった。自分でもどこへ向かっているのかわからなくなるがこの流れに逆らうことは不可能であった。流れの先には改札があった。俺はこの流れを乱さないように改札を出た。
ようやく俺は流れから解放された。しかし、一息ついているほどの暇はない。目的地まで運んでくれる電車に乗り継ぐため視線を上げ案内標識を確認する。時間には余裕をもって出てきたのには、ここで道に迷うことを考慮してでもある。
だが、いらぬ心配だったようだ。乗り継ぎの駅にはすぐに着いた。切符を買い、改札を抜ける。と、同時にホームに電車が到着する。電車は自分の目当てのものであった。ポケットから携帯電話を取り出し時刻を確認する。やはり、早すぎた。今更いっても仕方ないのでそのまま電車に乗り込み、先ほどと同じ位置に身を置いた。
壁に寄りかかり体を休める。その時、シャカシャカとでも表現しようか、なにか耳障りな音が耳に入る。音の正体はすぐにわかった。反対側の扉にいる髪を金色に染めた若者のヘッドフォンから漏れる音だ。一瞥してすぐに目を逸らす。関わるとろくなことがないからだ。俺は黙って目を閉じた。
今度は鼻になにかを嗅ぎつける。本来はいい匂いなのだろうがきつすぎると不快で仕方ない。香水の匂いだ。発生元はすぐにわかった。優先座席に座っている若い女性だ。パンツが見えそうなミニスカートに肩をむき出しにしたタンクトップ。夏とはいえ肌をここまで露出するものも珍しいだろう。今は顔を創っている最中のようだ、小道具を手に鏡とにらめっこをしている。こんなところで化粧をするなど、恥じらいなどはないのだろうか。思わずまじまじと見入っていると、視線に気づいたのか鏡から顔を上げる。俺はゆっくりと視線を移動させた。
不快な空間だ。目を閉じ情報を遮っても、耳から、鼻から様々なものが入り込む。俺は電車の揺れに身を任せ思考を止めた。
人が乗り降りするのだけは肌で感じていた。その回数から、目的の駅が近いと察して目を開ける。読みは的中し、次が目的地となっていた。
駅に止まると自分とは逆側の扉が開く。金髪の男の騒音を聞きながら電車を降りる。ふと例の女性がいた場所に目をやると格好は似たようなものだが別の顔をした女性がいた。
改札を出て辺りを見渡すとすぐに謎明社のビルが目に入った。
時刻を確認する。一時間も早く着いてしまった。時間をつぶす場所はないかともう一度周囲を見渡すと大型家電量販店があることに気がついた。最近なぜか調子の悪いPCの事を思い出し、そこで最新のPCでも眺めながら時間をつぶすことに決めた。
店内に入るとサイレンが鳴り響いていた。サイレンは並んでいるTVたちから聞こえるものだった。TVは高校野球の模様を映し出していた。野球には興味がないのですぐにPCが売っている階へと向かった。
売り場には予想を遥かに上回る数のPCが並んでいた。PCに詳しくない俺は、鞄から眼鏡を取り出し装着すると、PCの外見と値段だけをみて回った。一通り見終えたあとに、気に入った何台かのPCをもう一度見る。そして、値段をみてため息を漏らす。賞金さえ手に入れば悩むこともない。そう思い時刻を確認する。時刻は十二時半を過ぎていた。ゆっくり歩いていけば丁度よい時間になるだろうと高をくくり店を出ることにした。
結局、謎明社に訪れたのは指定された時刻の十分前だった。
自動ドアが開き俺を出迎える。入り口正面の受付へと足を運ぶ。そこに座っていた美人の受付嬢に名前を名乗り用件を伝えた。受付嬢は慣れた口調で説明する。
「お待ちしておりました。あちらのエレベーターで九階までお上がりください。九階に着きましたら扉を出て左手にお進みください。一番奥の第五会議室が説明会の会場となりますので、そちらでお待ちください。すぐに係りのものが参ります」
俺は礼を述べエレベーターに向かった。エレベーターには俺しかいなかった。途中どの階にも止まることなくことなく九階まで上っていった。エレベーターを降り、説明されたとおりに左手に進んでいく。途中、社員と思われるよれよれのグレーのスーツを着た男性とすれ違う。
第五会議室。一番奥の部屋の扉にはそう書かれた札が貼られていた。念のためにノックを二回して応答を待つ。応答はない。受付嬢がいうにはすぐに係りのものが参るというのだから、今部屋は空の状態のはずであるのだから何も問題ない。
扉を開く。案の定部屋には誰もいない。部屋には四つの長机で長方形の形をつくっていた。扉の正面には窓、右側にはホワイトボードがあった。
どこに座っておくべきか一瞬迷ったが、ホワイトボードを使い説明される可能性が高いと考えホワイトボードと対面するように座った。
三分ほど待ったところで扉からノックの音が聞こえてきた。返事を待たずに扉は開かれると二名の女性が入ってきた。ひとりは四十歳くらいで眼鏡をしたどこか気品を感じさせる女性、もうひとりは新入社員だろうか、非常に若くあどけなさがまだ残っている。
俺は立ち上がり礼をする。二人も同様に頭を下げると、
「どうぞお座りください」
と年上の女が云った。俺は遠慮なく椅子に座った。
年上の女性はホワイトボードの前に、若い女性は俺の右斜め後ろに立った。前方の女性が再び頭を下げてから喋りだす。
「遅れて申し訳ありません。私は今回の企画・運営の総指揮を務めます、岩淵と申します。よろしくお願いいたします」
ここで、もう一度深々と頭を下げる。
次に後ろの女性を手で指し、
「彼女は補佐の服部です」
「服部です。よろしくお願いします」
と云いまた、頭を下げる。
「早速ですが今回の大会の説明に参りたいと思うのですが、その前に記入していただきたいものがあります」
岩淵の台詞にあわせて服部が俺の前に紙とボールペンを置いた。
記入欄は名前、生年月日、職業、連絡先、銀行口座、好きなミステリー作品、好きなミステリー作家などなど。俺はそれを適当に埋めていく。
岩淵は俺が全ての項目を埋めたのを見計らって服部に目で合図を送る。
服部が回収しても大丈夫か尋ねてきたので、「はい」とだけ答える。服部は紙を回収したと思ったら、また俺の前に紙を置く。今度は一枚ではなく十枚以上あった。俺は紙に目を落とす。中身は俺のネット上で出された問題の答えであった。
「そちらの用紙はネット上で行われた予選問題のあなたの解答をコピーしたものですが、間違いありませんか?」
「はい」
「ありがとうございます。それではこれから予選の解答の補足を行ってもらいます。補足といってもなにか今から特別なことをするわけではありません。ただ私がこの解答について気になった点を質問していくので、答えていってください。これはこの答えが本当にあなた自身のものなのか確認するためのものです。場合によっては本戦出場の権利がなくなるのでお気をつけ下さい。なにぶんネット上で行ったものなので不正が多いので。ご協力お願いします。よろしいでしょうか?」
なるほど、俺はまだ予選をクリアしたわけではなかったようだ。いうならば、予選の一次の筆記試験は突破して、今から二次の口答試験が行われるようなものだ。
突然のことで驚きはしたが、問題はない。俺は不正はしていないから。
「もちろんです」
俺は自信満々に答えた。
と、その時、背後から声が掛かる。
「多少の時間を要すると思いますのでコーヒーか紅茶をお持ちいたします。どちらがよろしいですか?」
「コーヒーをお願いします」
「砂糖とミルクはお付けいたしますか?」
「お願いします」
「かしこまりました」
服部はそう言うと、部屋を出て行った。
「問題を解いてから少し期間があいていると思いますので解答の確認をしていただいても結構ですよ」
岩淵がそういってくれたので、俺は自分の解答を読み進めた。
五分ほどして、服部がコーヒーを入れて戻ってきた。コーヒーにはすでにミルクが入っていた。おそらく砂糖ももう入れてくれているのだろう。俺はコーヒーを一口含んでから岩淵のほうをみる。察した岩淵は答え合わせを始めた。
「よろしいですか? それでは始めましょう。それでは問一ですが――――」
*
岩淵の質問がすべて終わったときはすでに午後の二時を回っていた。
「質問は以上です。ありがとうございました。質疑の結果問題はありませんでしたのでこれであなたは正式に本戦に参加する権利を手にしました。それでは本戦の説明を始めてもよろしいでしょうか?」
よろしいもなにもそれが目的で来たのだ。断るはずがない。少しでも早く終わることを祈りながらうなずいた。
「ありがとうございます。それでは本戦の説明をさせていただきます。本戦はこれまでと全く異なる形式となります。いうならば実戦形式です」
実戦形式? どういうことだ? 俺のそんな呟きが聞こえたかのように岩淵は説明を続ける。
「実戦形式というからには本当に事件が起きます。事件が起きる舞台は謎明社が所有する孤島にある館です。その館で解答者の皆さんには四日間過ごしていただきます。具体的にはまだ言えませんが、館でなんらかの事件が起きるので皆さんは探偵となって事件の謎を明らかにしてもらいます」
なんとスケールのでかい話だろうか。ミステリーの世界ではよくある孤島の館、いわゆる外界と遮断された空間クローズド・サークルを実際に用意までするとは。謎明社の社長がミステリーが大好きな変人という話は聞いたことはあるが筋金入りのようだ。
背後の服部が冊子を机に置いた。
「こちらが企画書のほうになります。詳細はそちらに書かれていますので目を通しといてください。参加の有無は二十日までにメールでお知らせください。ここまでで何か質問は? ないのならこれにて説明会のほうは終了させていただきます。良い返事をお待ちしています」
俺が質問を挟む好きもないほどの早口で岩渕は会を締めくくった。こうして説明会と称した二次試験は終わったのであった。
家に着くとすぐにPCを立ち上げ、メールを送る。無論、参加の意向を伝えるためのものだ。
冊子の中身は帰りの電車内で読み終えている。
日程は九月一日からの五日間。一日目は島にある舞台となる館とは別の宿泊施設に泊まる。この施設は謎明社の新入社員が研修を行うために建てられたものらしい。この施設にいる間は参加者同士の接触は禁止となっていて、食事を含め、ずっと施設の一室で待機することになっている。運営スタッフも同日に島に入り、いろいろと準備をするようだ。その準備を覗かれないための処置でもあるようだ。
二日目から戦いは始まる。参加者は館に移動する。そして、その館で四日間過ごす。館には食料をはじめ生活に必要なものは全て揃っているとは書かれていたが、館で具体的になにが行われるかはどこにも書かれていなかった。
他に気になった点は、やはり携帯電話が使えないということだろう。島までは電波が届いてないらしく未だに圏外となっている。
島に行く方法だが、K県の港からフェリーで行くことになる。出港の時間だけが手書きになっていた。今回の説明会同様、他の参加者と事前に会わないようにするために時間をずらしていることが推測できる。俺の出港時間は午後五時と遅い。朝に弱い俺にはありがたい話である。
そして、最後のページにあったのが宣誓書だ。サインした宣誓書を当日渡すことで正式に参加となり、賞金を手に入れる権利を有することになる。
以上が冊子の内容を簡単に説明したものだ。
ふとPCを見るともうメールの返信が届いていた。内容は当日の集合場所、時間など冊子と同じものであった。俺はPCの電源を落とした。
長い間動きすぎたようだ。一日の疲れがどっとあふれ出す。俺はベッドで横になる。そして、目を閉じ意識を手放した。