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14. 最後の殺人と最後の晩餐

 ※


 探偵菅田は洗面所にいた。

 推理をするなら現場を一から見直す必要があると考え、そして、現在は停電を起こしたブレーカーの仕掛けを見直していた。


 なにか見落としがないかこと細かに確認していく。菅田は糸の結びを再度見る。糸ははさみで切ったため結んでる部分はそのまま残っていた。


 両方の結び目を見て菅田はあることに気づく。どちらも同じ状態になっている。


 解こうとした人物が違うのにどちらも同じようにこんがらがっている。最初は時間がなく出鱈目に結んだからどちらも解こうとしたときに玉結びとなったと思っていた。しかし、実際は結び方にしっかりと規則性があったようだ。


 菅田は再び結び目を覗き込む。すでに玉結びの状態なのでもともとの結び方がわからない。

 菅田は解く前の状態を写真に撮ったことを思いだしポケットからデジタルカメラを取り出す。スライドさせて目的の写真を確認する。案の定、ブレーカーのスイッチに方の結び方も風呂場のドアの方の結び方も同じであった。その結び方は菅田の見たことのないものであった。なにかの業種の専門的な結び方であろうか。


 とりあえず、複雑なことは菅田にも理解できた。この複雑な結びを一分程度でできるのだろうか。少し考えて難しいという結論に達した菅田は頭を抱えた。


 ランプのルールが絶対と考える菅田にとってその事実は大変受け入れがたいものであった。事件を見直して謎が増えたのでは堪ったものではない。


 その時、背後に人の気配が感じた。振り向くと彼女が立っていた。手元の白いバスタオルを見て菅田は彼女の用件をすぐに理解した。


「おっと、お風呂だったかい。すまないね、現場を見なおしている最中でね。そうだ、これを見てくれないかい?」


 菅田は再びブレーカーに残された糸の結び目を見た。

「この結び方少し特殊みたいなんだ」


 そこまで言って菅田は背中に鈍い痛みを感じた。何が起きたのか理解せぬまま痛みの走る場所に手を伸ばした。ぬるっとした生温かい感触。まさか、と思いながら己の手を確認したら案の定血で真っ赤に染められていた。そして、自分が刺されたと理解すると同時に痛みは大きくなり菅田はその場に寝そべるように倒れた。菅田は自分を刺したであろう彼女を見上げ呟いた。


「ら、ランプ……ランプのルールは?」

 彼女は笑って答える。

「ちゃんと守られてるよ」


「み、見張りは?」

「ちゃんと青いランプを見守ってると思うよ」


「じゃあ……な……ぜ? そ、そうか……僕たちは……か…ん……」

 菅田はそこまで言って、彼女の言葉の真意に気が付いたがもう遅かった。菅田の瞼はゆっくりと閉じられ二度と開くことはなかった。


 彼女は菅田の絶命を見届けずその場を去った。



 ※


 時刻は四時半。

 俺と中山は会話を止めていた。別に中山に疑われていることに機嫌を損ねているわけではない。互いに上野が何に気がついたのかを考えていただけだ。


 それでもランプから目を離していたわけではない。だから驚いた。

「きゃああああああああああ」


 館のどこかから悲鳴が木霊した。

 声の主は高井であろう。


 俺と中山は目を合わせる。ここを離れてもよいのかどうか。

「行きましょう」

 中山の言葉を起に俺たちは飛び出した。


 高井は洗面所の前にいた。手には洗面道具があった。シャワーに行こうとしていたようだ。すでに長山の姿もあった。しかし、菅田はいなかった。


「マミちゃん、エミちゃん……」

 中山も察しがついていた。


 俺と中山は洗面所を覗き込んだ。そこには背中から血を流して倒れる菅田がいた。刺された場所は血の広がり方から見るに心臓で間違いなさそうだ。

 中山はゆっくり血近づき首に手をあてる。

 中山はゆっくりと首を振った。


 洗面所には血のついた果物ナイフと真っ赤なバスタオルが残されていた。

「ランプは変わってないのになんで?」

 中山が呟く。しかし、それに誰も反応しない。


「今回は目がありますね」

 俺が云う。菅田の死体には両目がしっかりと残されていた。


「時間がなかったんでしょ」

 中山が答える。


 俺はデジタルカメラが落ちていることに気がつく。

「レイさん、デジカメ見てもいいですか?」


「デジカメ? いいわよ」

 俺はデジカメを拾い起動させる。スライドショーの画面はブレーカの結び目を写した写真になっていた。


「ジュンさんはこれを確認しに洗面所に来たところを後ろから刺されたみたいですね」

 俺はレイさんに画面を見せる。中山はチラッと画面を見て、現場の検証もろくにせず、何も言わずに洗面所を出た。


「みんなホールに戻りましょう」

 中山は静かに云った。

 中山には何か考えがるのは明かであった。俺たちは中山の言葉に素直に従った。


 ホールに戻り席に着くと突然TVの画面が点いた。画面には偽ジャスティスが映し出されていた。

「みなさんお疲れ様です。これにて出題は終わりです。最初に言ったとおり明日の十時に解答タイムを設けます。それまでに解答するのも結構です。それではまた明日。御機嫌よう」

 画面はぷつりと消えた。


「これ以上は誰も殺されないってわけね」

 中山は呟いた。そして、ゆっくり俺たちの顔を見渡した


「幾つか確認したいことがあるわ。いい?」

 俺たちは黙って頷いた。


「マミちゃんが発見者で間違いないわね?」

「そうです。見張りの交替の前にシャワーでも浴びようかなと思って……そしたらジュンさんが倒れてて……」

 高井の声は枯れ始めていた。


「そう、ありがとう。とりあえず、ジュンさん殺しの事件を整理しましょうか。ジュンさんは洗面所でコレクターアイに背後からナイフで心臓を一突きにされ死亡。その際に返り血を浴びないようにバスタオルをナイフとジュンさんの背中に挟んでいたんだと思う。


もしかしたら、バスタオルはナイフに隠すのにも利用していたかもしれないわね。コレクターアイは洗面所といういつ人が来てもおかしくない場所という理由もあって今回は目を獲る時間はないと判断したのか、目はそのままにしていった。


犯行時刻はわからないけど、その後、ついさっき、時刻で言えば16:30ごろマミちゃんが倒れているジュンさんを発見し今に至る。まあ、こんな所ね。ここまでで何か捕捉ある?」

 俺と長山と高井はほぼ同時に首を横に振る。それを受けて中山は話を続けた。


「この間、ジュンさんがホールに去ってから洗面所でマミちゃんに発見されるまで私とよし君はずっとホールにいた。これは互いに証明できるわ。


この時点で、コレクターアイの候補者ははエミちゃんとマミちゃんの二人に絞られる。でも、これまでのことを考えれば候補者が絞られないようコレクターアイはかなり注意を払っていたはず。なのに、今回はあっさりと残りの4人から一気に2人まで絞られてしまった。おかしくない?」


「コレクターアイにとって何か予定外のことが起きたってことですね」


「そう。では、その予定外とは何か? それはマミちゃんのあまりに突飛な入浴よ。コレクターアイはホールの見張りを交代し、私とよし君のアリバイがなくなった時間ができた後にジュンさんの死体を発見するはずだった。


ところが、マミちゃんがそれより早くジュンさんを発見してしまった……もう私が何を言いたいかわかるわよね?」

 中山は長山を見つめて云う。


「私だって言いたいんですか?」

「ええ、今言った通り私とよし君にはアリバイがある、そしてマミちゃんは計算外の第一発見者。残されたのはあなたしかいないわ」


「マミちゃんは第一発見者なだけで疑いは晴れません。それにジュンさんなきっとこう言います。マミちゃんがコレクターアイに憑りつかれてるならマミちゃんはコレクターアイの意図も知らずシャワーを浴びに行くんじゃないか? って」

 長山は一歩も引かない。


「理由は他にもあるわ。マミちゃんが洗面所に行ったらエミちゃんは気づくはずよね? エミちゃんの部屋の前かホールの扉の前を通るんだから。なのに、エミちゃんは何も言っていない。それとも通った?」

「いいえ、わかりません。部屋のドアは閉めてたので」


「なんで閉めてたの。そんなことしたらランプが変わったときにホールの声が聞こえてこなくて困るじゃない?」

「恐かったんです。コレクターアイが突然入ってくるかもって考えたら閉めといたほうが安全だと思って」

 長山の答えに淀みはない。


「本当かしら? マミちゃん、洗面所に行くときはエミちゃんの部屋のドアは閉まってた?」

 言われて高井は少し考えたあと弱弱しく言った。


「開いてたと思います」


「嘘です! それにマミちゃんが犯人なら開いていたって言うに決まってるじゃないですか!」

 長山は声を張り上げる。長山は息を整えてからさらに云う。


「それに最大の問題が残ってますよね?」

 長山がランプを指さす。その通りなのである。俺もその点が気になっていたことである。


「ランプはどうなるんですか? ランプはずっと青だったんですよね?」

 長山は追い打ちをかける。中山はこの点をどう説明するのか、俺は話の途中から最も気になっていた部分である。


 しかし、あろうことか中山は頭を抱え、

「問題はそこよ。そこがわからないのよ」

 と、あっさりと言い放った。期待していただけに肩透かしを食らった気分だ。


「それじゃあ、ダメじゃないですか」

 長山がほっとしたように云う。


「ランプのことはわからないけど……ジュンさん殺しの犯人はエミちゃん。これが一番筋が通ってる。でも問題はまだまだ山積みよ」

 中山は最初から長山の相手をする気はなかった。


 実際、中山の言ってることのほうが正しい可能性は高い。高井が犯人なら長山の部屋の前を通る。高井が犯行を行うなら長山が部屋の戸を閉めていることを祈るしかない。それなら長山が犯人と考えるほうが普通だ。


 暫しの沈黙の後、中山が項垂れた顔を上げる。

「エミちゃん、ご飯は七時でお願い」

 中山が何事もなかったのかのように云う。俺たち三人は呆気に取られた。


「レイさん、正気ですか?」

 俺は思わず聞いた。


「正気よ。これはこれ、それはそれよ」

 中山はそう答えて天井を見上げて考え始めた。


「エミちゃん、お願いできますか?」

 俺はなぜか敬語になってしまった。


「わかりました。今日の夕飯、明日の朝食はわたしが責任持って面倒みます」

 長山は投げやりにそう云った。


 時刻は午後五時を過ぎていた。



 俺たちは最後の晩餐をとっていた。出てきたおかずはまさかのトンカツであった。今の俺たちには重過ぎるメニューとなった。料理は長山の機嫌に左右されることなく美味しかった。


 食事の間、俺たちは会話を交わすことはなかった。当然といえば当然の流れであった。

 話がない分食事はすぐに終わった。食器も片付けあとは眠るだけでもよいのだが、全員がホールに残っていた。


「ねえねえ、明日はみんななんて答えるの?」

 中山が切り出した。俺たちは答えに戸惑った。


「わたしはさっきも言ったけど、エミちゃんの名を言うわ。推理は今のところはランプが関係ないとしか言いようがないけど」

 中山が気楽に云う。


「わたしはよし君とレイさんにアリバイがある以上、マミちゃんと答えます」

 長山が仏頂面で云う。


「わたしもエミちゃんです」

 高井が小さな声で云う。一瞬、長山が高井を睨んだのは俺はしっかりと見ていた。


「よし君は?」

 中山が俺に訊く。


「まだ決まってないです。なんせ解答の時には推理が必要です。まだランプの問題が解決してないのでなんとも言えないです」

 俺ははっきりと答える。


「もう時間がないわよ」

 中山が云う。


「まだ半日もあります」

 俺は自分に言い聞かせながら云う。


「よし君、ランプの問題っていうけど、ジュンさんが殺されたときはずっと青だったんでしょ? サキちゃんの時みたいにかぶせ物とかはないんだからどうしようもないじゃん」

 高井もその点はしっかりと理解しているらしい。


「わかってるけど……」

 俺はそれ以上何も言えなかった。


「ランプが青でもコレクターアイは自由に動けた。それしかないじゃん」

 高井が力強く云う。その言葉に中山はなぜか険しい顔をしたと。


「どうかしましたレイさん?」

 俺はすかさず訊く。


「わかんないけど今のマミちゃんの台詞がなんか引っかかった」

 中山はそう云って下を向いて考えた。


 いったいなんだ? 中山は何が気になったんだ?


 俺たち三人は中山をじっと見つめた。中山は大きく頭を振って立ち上がった。

「ごめん、先に部屋に戻って最後の抵抗をさせてもらうわ」

 中山はそう云って部屋に戻った。


「わたしたちも寝ようか」

 長山が云った。


「もう襲われることはないんだよね?」

 高井が不安な顔をして云う。


「多分。でも、明日までに答えを用意できなきゃ結果は同じかも」

 俺の言葉を聞いて高井は泣き出しそうだった。


「大丈夫。なんとかなるさ」

 俺は頼りない言葉を吐きすて自分の部屋に逃げた。長山と高井の冷たい視線が背中に突き刺さっているような気がした。


 結局、俺たちはなんの答えも出ないまま解散した。


 俺は部屋でひとり頭を切り替え最後の推理を始めた。

さて、次の話から解答編に入っていくのですが、せっかくなのでミステリーらしくここで


「読者への挑戦状」


を設けさせてもらいます。


果たして、ミステリークイズのお題である


『憑りつかれた殺人鬼の名前は?』


の答えは? そして、


「コレクターアイはランプのルールをどのように潜り抜けて殺人を行っていたのか?」



あなたの考えはまとまりましたでしょうか? それでは、次の話をご覧ください。


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