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9. ランプ乱舞

「ランプが! ランプの色が赤くなってます!」

 三人は一斉にランプを見た。ランプ間違いなく赤く光って危険を報せている。


「どうしましょうレイさん!」

 ランプとは対照的に青くした顔で上野が叫ぶ。


「外にいる三人に報せてくるわ。三人はここにいて。警戒を怠らないで」

 そう言って中山は部屋を出て行った。


 残された俺たちは席に着いたまま互いに睨みあった。いつ目の前にいるこいつが襲い掛かってくるかもわからない。


 ひとりで飛び出した中山も無事に帰って来れるかわからない。いや、もしかしたら中山がコレクターアイで誰かを殺すために出て行ったのかもしれない。


 色んな憶測が頭の中で飛び交う。汗が吹き出て頬を伝う。

 二分後、ランプの色は青に戻った。俺たちはにらみ合うのをやめ、胸を撫で下ろした。


 しかし、飛び出した中山はまだ戻ってこない。やはり、なにかあったのだろうか? だが、その心配は杞憂に終わる。ホールに中山は戻ってきた。中山だけではない。菅田、井上、長山もいた。


「みんな無事なようね」

 中山はほっとした表情を浮かべた。

 四人も席に着くと菅田が口を開く。


「それでランプが赤くなったのは何時ごろ?」

 俺は時計を見る。時刻は九時十五分であった。


「今から三分ほど前だから九時十二分だと思います。それから二分位は赤く光ってたと思います」

「九時十二から九時十四、と」

 菅田は口に出しながら中山が描いた館の図の下にメモしていく。


「見ての通り何も起きてないわね。よく考えたらランプが変わってもたいしてできることってないわね。いや、この言い方はおかしいか。何かしてもすぐに誰がやったか絞れるからあんまり意味ないわね、が正しいかな」

 中山が云う。


「全く持ってそのとおりだね。殺人なんか起こしたらすぐにばれる。でも、念のためまたランプが赤くなった場合もみんなに報せるようにしよう。それと、その時間をメモしておこう。それでいいかな?」

 菅田の言葉に一同は頷いた。


「さっきみたいにひとりが走り回って報せるのはしんどいし危険だわ。部屋に戻ってもドアを開けとけば聞こえるはずだからここから叫んで報せることにしましょう。それで、報せを受けたらホールに集合する。そしたらコレクターアイもなにかを仕掛ける時間もないでしょ?」


 中山は菅田の案に付け加え、ランプが赤くなった時の対応が決定した。しかし、俺はこの取り決めは意味がないものだと思った。なぜなら再びランプが赤くなるときはコレクターアイが犯行を起こすときであり、すでになんらかの仕掛けが施されているとはずだからだ。


 菅田の追加の提案でホールに残るのは三人までとなった。理由はコレクターアイへのサービスだろう。菅田は二つ目の犯行を待っている。そこで証拠を掴もうとしているのだ。その一方で、この提案により菅田への疑惑はさらに強くなった。また、全員が菅田の提案を呑んだのは己の身の危険も顧みず犯人を暴こうとする心意気、そして自分にはそれができるという自信の表れかもしれない。


 最初は俺と長山、上野の三人が見張りとなった。順番は単純に自己紹介をした順である。そこから一時間毎にひとりずつ入れ替わっていく。


 俺たち三人は特に会話をすることもなくホールにただ座っていた。

「ちょっとトイレ行ってきてもいいかな?」

 その静寂を上野が破る。


 俺と長山が「どうぞ」と言ったのを聞いて上野はホールを出た。我慢していたのか、動きがやけに慌しかった。長山も同じ事を思ったのか目を合わして笑った。


「我慢してたのかな?」

 長山は口に出して確認してくる。


「意外とそうかもね。カズ君はいろんな一面を見せてくれるな」

「色んなと言えば確かに色んなだね」

 俺たちは声を揃えて笑った。


 その時、またもランプが赤く変わる。俺は驚きで目を丸くする。二回目、しかもこんなに早く。

 俺はホールの外に向かって叫ぶ。


「赤です。ランプが赤です」

 その横で長山は慌てふためいていた。


「エミちゃん、エミちゃん。時間のチェックして」

 俺に言われ長山は時計を探そうと自分の体のあちこちを探す。しかし見つけられない。相当慌てているようだ。


「エミちゃん! 前にもあるし、右手にもついてるよ」

 俺の言葉でようやく長山は時計を見つける。結局、俺は自分でTV横にある電子時計が表示する時間をメモする。


 間もなく、部屋にいたものたちがホールにやってきた。順番は中山、菅田、井上、高井の順だ。といっても、全員がほぼ同時に到着した。


 しかし、まだ上野だけが戻らない。ランプもまだ赤く光っている。

「カズ君は?」

 菅田が俺と長山に聞く。


「トイレだったんですよ」

 俺が答える前に上野が戻ってきて云った。

 ほぼ同時にランプは青に戻る。


「トイレねー。ふーん。で、時間は?」

 中山が白い目で上野を見る。それは他の者も同じであった。

 中山の質問に長山がメモを加えながら答える。


「時間は十時八分から十時十分です」

「また二分程度か」

 菅田がそう言って「うーん」と唸る。


 コレクターアイの狙いはなんなのか。心の中で俺も唸る。俺だけではない。他の者も考えを巡らす。しかし、誰にもその答えは出せなかった。


「よし君、少し早いが見張りを代わっておこうか?」

 菅田が云う。


「そうですね。今からなら部屋に戻ってもすぐですもんね」

 こうして、予定より少し早く見張りが代わる。見張り以外の者は言い知れぬ不安を持ったまま部屋へと戻る。


 部屋に戻った俺はベッドの上に大の字になって寝転んだ。朝は井上の悲鳴によって五時に起こされてしまった。これで今夜の見張り役になってしまったら体がもたない。正しくはコレクターアイに襲われても碌な抵抗もできずに殺されてしまう、だ。


 俺は目を閉じて少しでも体を休めることに努める。そんな俺の思いを知ってか知らぬかコレクターアイは俺に、俺たちに暇を与えてくれなかった。




「赤だ。みんな、赤だ。注意しろ」

 この声は上野だろう。夢半ばであった俺は意識を現実にしっかりと戻してホールへと駆け込んだ。


 ホールには菅田以外の全員が既に揃っていた。

「ジュンさんはもしかしてトイレですか?」


「正解。コレクターアイの狙いは少しわかってきたわね」

 俺の問いに中山が答える。


 そこに菅田が戻ってきた。

「予想はしていたんだけどね。念のために言っておくけど用を足してただけよ」

 菅田は笑いながら云う。


「時間は?」

「はい。十一時二十二から二十五です」


 中山の質問に長山がてきぱきと答える。

 互いに顔を見合して詮索をする。


 いったいお前の狙いはなんだ?

 見えぬ敵に目で誰もが訴える。だが、返事が返ってくることはない。


「代わろうか?」

 中山と長山が見張りを交代する。そして再び見張り以外の者は自分の部屋へと戻っていく。


 ホールに集まってはすぐに解散する。これはストレスが溜まる。菅田の案になど乗るべきではなかった。そう思っているものは多いはずだ。


 だが、これで確実にコレクターアイは動くはずである。いや、実際に動いている。そしてもうすぐ馬脚をあらわすはずだ。俺は期待を抱きながら再び目を閉じた。




「ご飯よ! みんな来て」

 中山の声だろう。部屋の時計を見てから部屋を出る。先にトイレに向かってからホールへと足を運んだ。


 昼のメニューはパスタであった。手早く昼食をすまして俺は部屋へとすぐに戻った。周囲も誰も俺にあまり話しかけて来なかったのは俺の様子から寝ていたことを理解していたからだろう。


 今度こそゆっくりと眠れますように。俺はそう祈りながら目を瞑る。

 残念ながら祈りは届かなかった。




「赤よ。警戒して」

 中山の声であろうものが館に響く。仕方なく気だるい体を起こしてホールに行く。


 俺はすぐに誰がいないのかを確認する。いないのは長山と高井の二人であった。が、そう思った時には長山が来た。


「マミちゃんはトイレよ」

 中山が呆れ顔で云う。


「できれば避けて欲しいところだけど生理現象だからこればっかりは仕方ないね」

 菅田もため息を吐きながら云う。


 少しして高井は気まずそうな顔をして戻ってきた。それを確認してかランプは青色に戻る。

「マミちゃん気にしなくていいからね。時間は二時四十八から五十一ね。ところで、私もトイレに行ってきていい?」

 中山が笑いながら云う。


「じゃあ、その間はみんなここにいるよ」

 菅田が云う。中山はすぐにトイレへと向かった。

 そして、ランプが赤くなる。


 俺たちはほぼ同時に大きなため息を吐いた。

 これではまるでトイレの鍵である。使用中は赤くなり、誰もいないときは青くなっている。


 菅田が無言で紙に時間をメモし始める。中山が帰ってくるとみんな半笑いで迎えた。

「まさか? ランプ赤に変わったの?」

 状況を察した中山もつられて半笑いになりながら云う。


「レイさん気にしなくていいですよ。時間は二時五十二から五十五でーす」

 高井がさっきの中山の台詞を真似て言う。


 一同は声に出して笑ったあと、自分がいるべき部屋へと戻った。

 残り一時間足らずで俺はまた見張りとなるので、結局ぐっすり眠れないことが確定した。それでも俺は目を閉じた。





「よし君。寝てるとこ悪いけど交替よ」

 ドアの前に立ち中山が云った。俺は大きなあくびをしながら立ち上がる。


「こんな時によく眠れるわね。見かけによらず図太い神経してるのね」

 中山が茶化すように云う。


「少しでも寝て夜に備えようと思いまして」

 俺は目をこすり眼鏡をかけながら云う。


「そんなこと言ってたら明るいうちに殺られるかもよ」

 俺と中山はホールへと進んでいく。ホールの扉の前で別れる。ホールの中を見て気がつく。見張りは井上と高井の二人であることに。よく考えればここまで最も会話をしていない二人だ。


 なんとなくホールの中に入れず立ち竦む俺に井上が声をかける。

「なにしてんのよ? 早く入りなさいよ」

 言われてようやく俺は席に着く。


「よし君寝てたの? 物凄い眠たそうな顔してるよ」

 高井が云う。


「横になってただけであんまり眠った気はしないかな」

「それって。うとうとしていたってことでしょ? こんな時に随分余裕ね。もう犯人が誰かわかった? それともよし君本人が殺人鬼?」

 井上がニヤッと笑いながら云う。


 井上は今朝よりも幾分か元気を取り戻しているように見える。菅田から受けた疑惑も今はあまり気にしていないようだ。


「犯人が誰かわかってます……だったらいいんですけどね。サキさんは誰だと思っているんですか?」

 ここまで井上の考えは聞いてない。良い機会なので聞いてみることにした。


「わたしも聞きたい! サキちゃんは誰だと思うの?」

 高井がすがりつくように云う。俺にとってはナイスアシストだ。ここまで言われたら井上も話してくれるだろう。


「証拠もないのに人を疑うことはできないわ。憶測だけで喋る探偵は失格よ。ミステリーでも確実な証拠が見つかるまで腹立つぐらい引っ張るじゃない。読者としてはイライラするけど、やっぱり必要なことなのね」

 井上はそう云って菅田への苛立ちを露にした。流石の高井もそれ以上は聞こうとしなかった。


「そんな黙んないでよ。わたしの中で何人かにに絞ってはいるけどまだ言えるような段階じゃないってことよ。さらに絞り込むためによし君協力してくれない?」

 井上はそう云ってタバコを取り出した。


「協力ってなんですか?」

 俺は聞き返す。


「今、コレクターアイは私たちをかく乱するためにランプの色を何度も切り替えている。もちろんそのうちの幾つかは本当にコレクターアイが細工を仕掛けるための時間。この細工っていうのが何かはまだ全く検討ついてないけど。とりあえずわかるのはコレクターアイは一秒でも長く自由に動ける時間が欲しい。しかし、取り決めによりランプが赤になったらすぐにホールに来なければいけない。どうしたら長く動けて、かつ自分だけが疑われないか考えた結果、誰かがトイレに行っている間にランプを赤くするのが一番よいと考えた。そうすればひとりが遅れてくるので犯人候補は増え、時間も少し多く取れる」

 井上はタバコの煙を吸い込んで大きく吐いた。そして、話を続ける。


「でもこれって逆手に取れるわよね? コレクターアイは必ずトイレに立ったことを知らなければいけない。それが可能だった人間を挙げていけば容疑者が絞れるわ」

 井上は喋り終えるとタバコをトントンと叩いて灰を落とした。


 俺と高井はぽかーんとした。そんな俺たちを見て井上は「なによ?」と、不機嫌そうに言った。

「いや、サキさんも考えてるんだな、と」

 菅田と中山が話してばかりで井上は話す機会がなかった。だから、勝手に井上も推理ができない側の人間だと思っていたがどうやらそれは勘違いだったようだ。


「わたしだって自力で予選を通過してんのよ。このくらいの推理はできるわ。まあ、マミちゃんは怪しいけどね」

 井上はニヤニヤしながら高井を見た。


「あれー、ばれちゃってますー? 予選の問題はわたしが解いたんじゃないんですよー。でもこれ内緒ですよ」

 高井はあっさりと白状した。


「マミちゃんさー、この部屋が監視されてるの忘れたの」

 井上は呆れながら言う。


「あっ! そうだった……でももうそんなの関係ないですね」

 高井は寂しそうに呟いた。


「そうね。関係ないわね。その友達を恨んでもいいくらいね。帰ったらご飯でも奢ってもらいなさい」

 井上は云う。高井を気遣って遠まわしに無事に帰れると高井に伝えた。井上の優しい一面であった。


「そうですね。破産させてやります」

 高井は笑顔で答えた。


 しかし、今の話は本当だろうか? 気になる点は突っ込んでおいた方がよいだろう。

「よく本社での面接を切り抜けれたね」

 本社で解答が本人のものか確認するための作業があったはずだ。むしろ、それがメインだったといっても過言ではない。


「あったね。あれはね、念の為に友達の解答を丸暗記してったの。賞金が賞金だから対策だけはちゃんとしてったの」

 高井は無邪気に答える。


「丸暗記って結構な量じゃない?」

 俺は追及の手を止めない。


「暗記だけは得意なの。大学も暗記だけで入ったようなもんだし。わたしの異名は一夜漬けの高井だからね」

 高井の話に嘘はなさそうに見える。


「それはそうと、わたしが言った話はどう思う?」

 井上が話を戻す。


「今の話もなんとなくでしかわかんないんで黙っときまーす」

 そう言って高井は俺を見る。


「そうですね。サキさんの言うとおりだと思います。もう検証したんですか?」

「まだよ」


「じゃあ今から検証しましょうよ。三人で」

 俺はランプが変わった時刻をメモした紙を井上に渡す。


「そうね。えーっと最初にランプが赤くなったのは九時十二分ね。これは他のとは微妙に事情が違うわね。ホールにいたのが誰かわかる?」


「僕とマミちゃん、レイさん、カズ君の四人です」

 俺が答えると井上は別の紙にメモしていく。他の者にはこの話し合いを見せない気だ。特に菅田には教えたくないのだろう。


「それでレイさんが私たちを呼びに来た。この時はこの検証にはあまり関係ないかな。これからランプが変わることがありますよって知らせるのが狙いかな」

 井上が云う。


「エミちゃんがお風呂に行ったのを狙ってやったんじゃないですかね」

 俺が云う。高井は明言どおり黙っている。


「わたしたちが行った時は既にお風呂からあがっていたわ。ということはお風呂に行ってからかなり時間が経ってたってことでしょ? 狙いがそれならもっと早くにランプを変えたんじゃない?」

「確かにそうですね。進めてください」


「次は十時八分。ホールにいたカズ君がトイレに行った時を狙ってランプを変えた。この時ホールにいたのは?」

「僕とエミちゃんです」

 井上は紙に書き加えて話を続ける。


「カズ君は反時計回りに回ってトイレに行ったわ。わたしがそれを見てるわ。マミちゃんも覚えてない?」

 高井は宙を睨んで少しの間考える。


「そういわれたらそうだった気がする……かな」

「まあ、いいわ。その次が十一時二十二分。これもまたホールにいたジュンさんがトイレに立ったときね。ホールにいたのは順番的にエミちゃんとカズ君かな?」


「そうです」

「この時も反時計回りに進んでトイレに行ったわ」


「わたしもジュンさんが通ったのは覚えてますよ」

 高井が参加できることに嬉しそうに言う。


「じゃあこれは確実ね。その次はマミちゃんね。時刻は二時四十八分。どっち回りで行った?」

「えーっと、自分の部屋の前を通るように行ったから、反時計回りですね」


「ホールにいたのは?」

「サキちゃんとレイさん」

 井上はわざと高井に答えさせる。高井にも推理に参加しているという心理を与えるためのものだろう。井上は気が利く方の女性のようだ。


「そして最後だけど、これも少し特殊ね。レイさんがみんながホールにいる時に行ったのだから、これも検証には使えないわね。使える事例は三つか」

「こっから何がわかるんですか?」

 高井が訊く。


 井上は紙に全員の名前を書き並べていく。

「ランプをタイミングよく切りかえれない人物よ。検証できる一つ目はカズ君のね。ホールにいた二人、よし君とエミちゃんは可能ね。反時計回りだから、わたし、マミちゃん、レイさんも可能。ジュンさんだけが不可能ってなるわね」

 井上はそう言って菅田の名前に×印をつけようとした。


「ちょっと待ってください。ジュンさんの部屋はホールの扉に一番近い部屋です。少し注意すれば十分可能じゃないですか?」

 俺の言葉を聞いて井上は手を止める。


「うーん、それもそうか。あの位置からなら可能か。じゃあ、最初のは全員黒ね。じゃあ、次ね。ジュンさんのときね。ホールにいたのはエミちゃんとカズ君。これまた反時計回りだからわたし、マミちゃん、レイさんも可能。ってことは……おめでとうよし君、容疑者から外れるわ。まあ、この三人の中でだけどね」

 井上はそう言いながら俺の名前の上に×印をつけた。


「ありがとうございます」

 俺は軽く頭を下げる。自分が無実なことは他の誰よりも自分が一番知っている。よって俺の中では話はひとつも進展していない。


「よし君はカズ君以外からはみんなに白って言われるね」

 高井は羨ましそうに云う。


「マミちゃんを疑ってる人もいないと思うけどね。得なキャラよね。」

 井上が高井を冷やかす。それでも、菅田より優しさを感じる。


「それ褒めてるんですか?」

 台詞とは裏腹に嬉しそうに高井が云う。


「それは自由に判断して。それで、次のだけど、マミちゃんがトイレに行った時はホールにわたしとレイさん。部屋の前を通ったのはエミちゃんの部屋だけね。でも、ジュンさんは最初と同じ理由で可能だから黒とすると……意外なことにカズ君が白になるわね。じゃあ、あの取り乱し方は素だったのかな」

 井上は笑いながら上野に×印を付け、ペンを置いた。


「これで終わりですか?」

 高井が不満気に云う。


「そうなるわね。もっと絞れると思ったんだけどね」

 井上も残念そうに云う。


「またランプが変わる可能性があるからわかりませんよ」

 俺は二人を元気付けるためだけに云った。実際は、コレクターアイはこれ以上は余計な動きはしない。そんな予感がしていた。


 その時、菅田がホールの前を通った、

「今、ジュンさんが通ったよ。トイレかな?」

 高井もそれに気づいたようだ。


「気にしなくていいわよ。あの人もわたしたちと同じようなことを考えたんでしょ。だから、わざとホールの前を通ったのよ」

 高井は首を傾げた。


「どういうことですか?」

「検証パターンを増やすためにトイレに行ったのよ。だいたい本当にただトイレに行くなら普通に時計回りで行くはずよ」

 井上は一度ため息を吐いて続ける。


「それだけならまだいいけど、もしかしたらそこの陰で立ち止まってわたしを罠にはめようとしているかもしれない」

「罠にはめる?」

 高井は云う。


「トイレに言ったふりをしてレイさんの部屋の前で立ち止まれば容疑者を一気に絞れるわ。わたしかマミちゃんの二人にね」

「えー! わたしもですか?」

 高井がショックを受ける。


「大丈夫よ。あの人はわたしだけを疑っているから。まあ、もしここでランプが変わって本当にあの人がレイさんの部屋の前にいたって証言したらわたしの中で犯人は決まるけどね」

「誰ですか?」

 高井が凄い勢いで喰いつく。


「ジュンさんに決まってるじゃない。わたしをはめて自分は自由に動き回る。姑息な似非探偵がやりそうな手口よ」

 井上はいつの間にか吸い終えていたタバコの代わりにもう一本取り出し火をつける。


「うーん、やっぱりジュンさんは怪しいのか」

 高井はそう云って珍しく考え始めていた。


「さてと、お手洗いにでも行こうかしら」

 井上はそう言って立ち上がった。


「検証を増やすためですか?」

 俺は訊く。


「純粋に我慢の限界よ。トイレに行かなければ容疑者から外れるかなと思ったけど無理」

 井上はそう云ってホールを出て行った。行きかたは反時計回りのことを俺はしっかり確認した。

 そして、当然のようにランプは赤に変わったので俺は大声でみんなに報せた。


 時刻は十六時十五分であった。



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