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反撃の大モン娘軍団  作者: キロール
第一話、アドレイドとの出会い
9/10

ファラリスの牡牛

 極至近距離からの発砲。


 弾は奴の眉間を撃ち抜き、牛の頭は爆ぜた。


 飛び散った肉片は大地に散らばって、煙を上げながら溶けて消えた。


 ――しまった。


 この状態では弾を込める事が出来ない。


 と言うか、これ如何やって止まるんだ?


 と思う間もなく、八本足の溶けかかった牛の脇を通り過ぎ、泥野郎の群れに突っ込んだ。


「くっ! …………マジか? すげぇな、これ!」


 食われるかと思ったが、泥野郎を凄まじい勢いで吹き飛ばしていく。


 弾ほど早くはないが、奴らが食えるほど遅くもない。


 吹き飛ばされた泥野郎は死にはしないが、多少なりともダメージは喰らっている様だ。


「ご主人! 避けろ!」


 俺の背後から死神ペイルライダーのガートルードの声がする。


 何をと思った瞬間に、背中を思いっきり何かが叩きやがった。


 余りの威力に吹き飛ばされた俺は、少しの時間宙を飛んだ後に無様に大地に転がった。


 一瞬呼吸が出来ないほどの衝撃。


 だが、立てない事は無かった。


 慌てて立ち上がると、ガートルードの乗る青ざめた馬が俺の脇を通り過ぎる。


 こいつがやったのかと思ったが、如何やら違う。


 ガートルードの身体が背後から迫り何かを、腰の剣で斬り払う。


 何かは地面に落ちて、煙を上げて消えていく。


 これは……!


「牛の化け物は死んでない! 早く退避するんだ、ご主人!」


 ガートルードの言葉に、先程、頭を吹き飛ばしてやった八本足の牛を見る。


 ズメイのファイヤーアローを立て続けに三発も喰らっているのに、奴は八本の足でしっかりと立ち、頭の無い体を揺り動かした。


 途端にその背中から上空に向けて体の一部が伸びていき、そいつは一定の高さになればズメイやガートルードを狙って、凄まじい速さで迫る。


 俺を吹き飛ばしたのは、こいつだ。


 この鎧が頑丈だから、背中を打って吹き飛んだけだが、下手すりゃ体を貫通しかねない勢いがある。


「頭じゃなかったのか!」


 くそ! 俺はさっきどうやって動いた?


 焦る俺の思考は空回りを始めている。


 このままじゃ不味い。


 そう考える俺の視線の先、迫る槍めいた牛の触手。


 その動きがいきなり減速した。


 いや、他の連中の動きも一気に鈍化していく。


 無論、俺の動きもだ。


 思考だけが、クリアに高速に働いている。


 死ぬ前の一瞬って奴なのか、それとも鎧の力なのか。


 俺はともかく、俺の胸を狙って迫る触手を避けようと、半身になろうとした。


 そこで不意に思いつく。


 この場でくるりと回転したら上手く避けられんじゃないかと。


 なんでそう思ったのかは分からない。


 鎧の視界の端っこに映る文字の中に円を描く様な矢印が現れた所為かもしれない。


 ともかく、俺はさっきの要領を思い出しながら、一方の足はその場に確りと踏ん張る様に、もう一方の足を前に進む様に動かしてみた。


 前に進もうとする推進力が、踏ん張る足ごと立ち位置を少しずらしたが、俺の身体は思った通りにぐるりとその場で一回転した。


 俺が回転している間に脇を通り過ぎた触手は、大地を抉った所で切り離されて、溶けて消えていく。


 って、事は……あの牛、何れは消耗して消えるんじゃないか?


「ガートルード、お前は泥野郎……スライムだったか、あいつらをやってくれ。出来るか?」


「ああ、連中は問題ないよ。でも、ご主人、牛は任せて大丈夫なのかい?」


「弾切れを狙う」


 その言葉にガートルードは何かを理解したような顔をしたが、口には出さずに手綱を握らず、首と剣を持ち、密集を始めていた泥野郎に斬りかかった。


 その密集が何の意味があったのか分からないが、ガートルードの目にも止まらない斬撃の鋭さに、泥野郎は命を駆られて行く。


 死神ペイルライダーの名前は伊達じゃないみたいだ。


 俺は、安心して牛に集中する。


 ズメイのファイヤーアローより俺の一撃が痛かったのか、それとも嘲笑っていた人間如きに傷つけられて怒り狂っているのか、牛は俺に向けて三本の触手を放ってくる。


 同時に放てるのが三本だけらしい。


 高く、高く伸びきった触手が、一気に折れ曲がり俺を貫くべく降ってくる。


 俺は滑るように動く、エーテルダッシュとか言う奴のコツを掴みかけていた。


 簡単な事だった。


 歩くでもない、走るでもない、大地を滑空するような意識を持て、素早く動くと念じるだけだった。


 前に、後ろに、横にと滑る様に動き回る俺は、三本の触手を全て避け切り、大地を貫き消えていくのも確認した。


 それにしても……何で溶ける?


 思い描いた疑問の答えを出す暇もなく、新たな触手を打ち上げる牛の化け物。


 大分、身体は小さくなって行っているようだが……あと何発避ければ良いんだ?


 そう考えた矢先、牛の真横にアドレイドが不意に現れた。


 そして、間近で絡まり合う蛇の意匠が施された短剣を牛に突き付けて。


「荒れ狂う嵐、轟き砕く雷鳴、眼前の敵を灰燼と化せ、雷神の鉄槌(トールハンマー)


 呪文を唱えて、短剣の先から雷を放った。


 昨日、泥野郎を一掃した時とは較べようもない凄まじい雷撃を間近に受けて、牛は体を焼け焦げさせながらボロボロになって散っていく。


 溶ける暇さえ与えないアドレイドの雷撃は、大地を蛇のように抉った。


 何て言うか、破格の、とんでもない力だ。


「牛の化け物……こいつは指揮官タイプの様だな。スライムとは較べようもない程にタフで強い。さて、何と名付けるか……」


 流石に体力を使うのか、肩を上下させながらアドレイドは笑う。


「そうだ! ファラリスの牡牛と名付けよう!」


「拷問器具? もうちょっとマシ名前は無いの?」


 泥野郎を全て倒したガートルードが馬首を翻して戻ってきながら、アドレイドのネーミングセンスに口を挟む。


 遠距離での戦いに徹していたズメイも、急いで此方に這いずってくる。


「我が倒したのだから、我が名付ける」


「止めないけど。しかし、ご主人、いきなり使いこなすとは流石だ」


「鎧か? 牛の奴が俺を嘲笑っていたみたいだから、カッとして……無我夢中だった」


「ああ、やっぱり? あの牛、明らかに意思を持っていたよね。スライムは無さそうなのに」


 等と話していると、漸くやって来たズメイが告げる。


「あの、わたくしをアナライズして頂けませんか? 変異可能レベルに達してしまったみたいなんですが……」


「この一回の戦いでか? あり得んだろう……いや、ファラリスの牡牛の耐久力や攻撃能力を鑑みるに大量の経験が……? 我が騎士よ、我を含めて皆をアナライズしてみろ」


 アドレイドは思案気に呟いてから、何かに気付き、俺にそう命令した。

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