彼女たちの食糧事情
正直、浮かれていた。
何故なら、いきなりの希望が見えたからだ。
それまでは絶望的で、どうとでもなれとしか思えなかった。
本当に酷かった。
ある日突然、大陸の北に国を作っていた魔軍の連中が攻めてきた。
俺は王国の図書館で働いていたが、魔軍が侵攻すると状況は一変した。
軍の敗走が続き、軍人じゃない働き盛りの男達も緊急事態とかで戦場に駆り出された。
そして、結局は敗走に次ぐ敗走で、肩を並べて戦った連中は殆どが死んだ。
それでも生き残った俺は、故郷に戻ろうとした。
何もない農村だったが、何とか落ち延びて、他国の反撃に期待しようとか思っていた。
何とか故郷に戻ると、そこには何もなかった。
何も無いって言っても、村が在ったんだ。
小規模だったが家々が立ち並び、厩舎があり、畑があり……家族がいた。
村に残った友人も、幼馴染もいた。
でも、そこには何もなかった。
場所を間違えたかと思った。
でも、間違えようが無いんだ。
ここは、俺の故郷で、ここには既に何も無いのだと飲み込める様になるまでには、数日の時間が必要だった。
その間に、村の生き残りに出会い、親父とお袋の最後を聞いた。
俺は、俺の命以外は何もかも失っていた。
だから、勝てないとは知っていても、敗残兵の寄せ集めの集団に身を投じたんだ。
一匹でも、魔軍の連中を道連れに出来る様にと。
それが、だ。
それが、勝てるかもしれないんだ。
あの圧倒的な化け物たちに。
体が震える位に嬉しかった。
だから、俺は浮かれていた。
呼び出されたモン娘達にも、日々の糧が必要だと言う事にその時は全く気付いていなかった。
まだ可能だと言うので、召喚を続けて頼むと魔王であるアドレイドが微かに笑った。
そしてまた、例の短剣で俺の皮膚を切り裂くと血を一滴大地に落とす。
と、その結果を見終える前に半人半蛇のズメイがぬっと俺の方へと体を突き出して、アドレイドに傷付けられた腕を手に取り、傷口に長い舌を這わせる。
二股に分かれた舌は、蛇のようだ。
突然の行動にビクッと肩を揺らしたが、ズメイはそれ以上は何もせずに俺の腕を離す。
と、皮膚の傷が消えている。
治療をしてくれたのだろうか?
伺うように見上げると、微笑みを湛えて俺を見下ろしている。
何とも慣れないアングルだ。
そんな事をしていると、不意に大地が輝きを放つ。
魔法陣が発光しているのだろうが、今度の色は黄金色では無かった。
七色であったのだ。
「……未実装のULの輝き? いや、データ上はあるのだろうが……」
何だか面白くもなさそうだったアドレイドが、その輝きを見て驚きの声を発していた。
また良く分からない言葉が出てきたが、世界が違うのならば色々と分らなくて当然だと、俺は深く考えるのを止めた。
そして、視界いっぱいに広がる虹色の輝きに備えて目を閉じた。
まず聞こえて来たのは蹄を大地に打ち鳴らす音だった。
次に小さな呼吸音。
呼吸音は大きく息を吸い込んで、ゆっくり吐き出す深呼吸に変わった。
そして、何とも涼やかな声で告げたのだ。
「死神ガートルード……共に滅びの世界を駆けましょう、ご主人」
俺がその声の主を見るために目を開けると、そこには伝説の英雄の如き風格の騎士が馬に跨り佇んでいた。
その首を小脇に抱えている事以外は、正に英雄の風格があった。
抱えられた首と目が合う。
薄青の瞳、眼光鋭く切れ長なその双眸は、歴戦の勇者の様だ。然程長くも無い銀色の髪の一房に青い色が混じる白い肌の女の頭は、悠然と笑みを浮かべて俺の視線を受け止めた。
体の方は全身を覆う鎖帷子の上から青いサーコートを羽織ている。
そんな姿なのに、体のメリハリがはっきり分る当たり、かなりスタイルは良さそうだ。
「――デュラハンの最上位種族か。実装前にサービスを終了しているのに、これは……。データ上にあれば、運次第では色々と呼べるのか」
アドレイドは一人で呟いている。
それから、困った様に眉根を寄せて呟いた。
「変異に必要なアイテムとか如何するのだ?」
と。
そんなアドレイドを尻目に、首を小脇に抱えた騎士はゆったりと近づいてきて。
「ご主人、召喚されたばかりで申し訳ないが、糧を頂きたい」
そう告げた。
糧? そうだ糧だ! こいつらだって何か食わなきゃ生きて行けないだろうとその時初めて気づいた。
「ええと、ガートルードだったな。食い物は何がいいんだ? 大したものは無いんだが……。それにズメイも、何かリクエストがあれば――」
「無論、ご主人の精気を頂く」
「わたくしも精気を必要としております」
精気? そう言えばアドレイドもそんな事を言っていたが……。
「まあ、どう育つにせよ、日々の糧は必要だな。我も小腹が空いた。皆で食事と行こうか」
難しい顔で悩んで居たアドレイドだったが、不意に顔をあげてそんな事を言ったかと思えば、アドレイドが俺の肩を掴んだ。
「え? ちょっ! 待て、俺は!!」
そして、そのまま押し倒されて……俺は三匹のモンスターに精的にも、生的にも食われた。
要は、まあ、キスとかアレとかソレとか……後、血も少し吸われた。
くそ、俺は童貞だったのに……!