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反撃の大モン娘軍団  作者: キロール
第一話、アドレイドとの出会い
4/10

アドレイド

 俺が妙な女を引き連れて、絶叫が聞こえた場所に辿り着いた。


 近づくにつれて、恐怖の叫びや銃声が響いていたから、覚悟はしていた。


 辿り着いた野営地は、酷い有様だった。


 今まで共になんとか魔軍に抵抗していた仲間たち。


 そいつらの殆どが、今は泥野郎に貪り食われていた。


 それでも、奴らは何とか仕事は果たしたようで、遠くで子供や老人たちが逃げていくのが見えた。


 でも、彼らの殆どは諦めているのか、その動きは遅々としている。


 完全に心が折れちまっているのが、遠目からでも分った。


「畜生……化け物が……!」


 俺は怒りにまかせて片手に持って居る愛銃を構える。


 訓練を合わせれば何千、何万と繰り返してきた動きを淀みなく行う。


 銃のボルトを左に回して引き寄せ、薬莢を輩出し、薬室に弾を込めるとボルトを押し込み、右に回す。


 一分間に十発撃てる程度には熟練した動きで銃弾を放った俺は、目を見開いた。


 男の上に伸し掛かった泥の様なあの化け物が、ただの一発で吹き飛んで散り散りになったからだ。


「なんだ……これは?」


 驚く俺の背後から、女の吐息が耳元に吹きかけられる。


 ぞわりと背筋に恐怖が走り抜けると同時に、囁き声が届いた。


「言ってであろう。我と契約すれば万軍を与えると。万軍を従えるには、相応の力が無くてはなぁ」


 振り返るまでも無い、あの異様な女だ。


 美しく、ふしだらで、恐ろしくも、何処かここではお目に掛かれない明るさを備えた女は、不意に俺の前に立ち二匹の蛇が絡まった様な意匠の短剣を手にして笑った。


「ははっ、確かに我は怪しい。傍から見ればそうであるのは、まあ理解できる。そこでだ、そんな事は如何でも良くなる『力』を見せてやろう」


 化け物に対して抱いた怒りを飲み込む程の怖気を感じさせる声で女は短剣を天空に掲げる。


 途端、視界一杯に青空が広がっているのに、何処からともなく雷光が迸り、轟音をあげて泥の様な化け物たちに降り注いだ。


「スライムの亜種か? だが、この魔王(バフォメット)のアドレイドの前では塵芥(ちりあくた)も同然よな!」


 躊躇なく、泥のような化け物と、まだ生きていたかもしれない俺の仲間も雷光で燃やし尽くした女は高らかに笑った。


 この胸がむかつくような光景と酷い匂いに咳き込んだ俺だったが、その圧倒的な力に恐れと期待を抱いた。


 こいつならば、魔軍の連中を皆殺しに出来るんじゃないかってな。


 仲間ったって、全く違う地域から寄せ集まった敗残兵の群れだ。


 死体を焼かれたからって、こんな力を持った奴に食って掛かるのは自殺行為だ。


 だからさ、そんなに恨めしそうな目で見ないでくれよ。


 胸中でそう呟きながら、俺が殺した泥野郎の下で骸になってた仲間の死に顔から顔を背ける。


 後ろめたいなんてもんじゃない。



 アドレイドが化け物を焼き尽くしてから少しばかり時間が経った。


 遠ざけられていた子供や老人達は、今俺達の傍に居る。


 見知った俺と見知らぬアドレイドだ、警戒されてしかるべきなんだが……。


「良かろう、良かろう。我が来たからには大船に乗ったつもりで居るが良い!」


 皆の長として慕われていた爺さんが、アドレイドに恭順を示せばみんな大体その方針に従った。


 そして、残り少ない食料や酒まで提供してアドレイドに取り入ったのだ。


「良いのかよ、爺さん」


 アドレイドから離れ、俺が爺さんに問いかけると、疲れた笑みを浮かべて爺さんは答えた。


「貪り食われるよりは、生き残れる方を選ぶさ。それに、残念だがあんた達じゃ勝てなかった相手を一瞬で焼き殺しちまったんだ、従うしかないわい」


 その言葉にはある種の諦めと僅かな希望がある。


 そうだ、物言わず何を考えているのか分からない魔軍の連中に比べれば、アドレイドは話も出来るし、意思の疎通も可能な相手だ。


「ついでに言えば、一瞬で焼かれりゃ食われる苦しみはなさそうだしな」


 その言葉に俺はハッとする。


 アドレイドが爺さんたちを殺すにしても、一瞬で終わらせてくれると感じたのだろう。


 長く辛い死が続くなら、誰だって一瞬に殺されちまった方が良い。


 泥野郎、アドレイドの言うスライム? って奴に食われ掛けた連中は助からないのは一目でわかった。


 ならば、苦しみなく殺してやった方が良い、それが慈悲だとあの女は考えたのか?


 俺は伺うようにアドレイドを盗み見る。


 新たに作られた野営地の中央、木箱に座り鷹揚に杯を傾ける女。


 とんでもない悪党だとは思うのだが……。


 そんな俺の考えを他所に、魔王(バフォメット)を名乗った女は杯を傾けケラケラと笑っていた。

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