ステータス確認
ファラリスの牡牛とアドレイドが命名した八本足の牛を足した俺達だったが、ズメイが変異とやらが可能なレベルになったと言う。
変異が何なのかさっぱり分からないのだが、こいつ等の言ってることは基本的に良く分からないので、命じられたままにアナライズを唱えてズメイを見る。
急に浮かび上がる文字や数字。
一定時間で消えるそのステータスとやらは大きく変動していた。
大まかな強さを示す数値であるレベル表示が『Lv.21』となっていた。
20くらい一気に上がったみたいだ。
ズメイの一番高い能力値である魔力を示す数値は……178。
何より、スペル一覧と言う項目に並ぶ文字の数々はズメイが使える魔法と言う事になりそうだ。
「レベルが21になったみたいだな。使える呪文も増えている」
「最初の変異が20からだからな……ズメイは変異が可能となったんだな」
アドレイドの言葉には驚きと共に、喜びが含まれていた。
変異とは、それほど良い事なのか?
「変異ってのが起きるとどうなるんだ?」
「ステータスが基本的に高くなり、変異の方向性により姿が多少変わる。ズメイで言えば、回復魔法が得意となるか、攻勢魔法が得意となるかだ。何方であるにせよ、殆どの魔法は使えるようになる」
「アドレイドの雷の魔法もか?」
「先程使った雷神の鉄槌以外はな。アレは我の固有魔法だ。我が騎士が一層、我に精を貢げば専用魔法の幅も増えるが……まあ、時間を掛けなくてはならないな」
俺の質問に答えるアドレイド。
途中で何か不穏な事を言っていたが、ひとまず置いておこう。
下手に突っ込んで藪蛇になるのも嫌だ。
それはさて置き、改めてズメイを見やる。
スペル一覧の文字を読んで行き、大まかな力を把握することに注力した。
見慣れたファイヤーアローに2とくっ付いてるのもあるが、それより目を惹くのはファイヤーボールだ。
これは広範囲の火の魔法、ヘルファイヤーはファイアーアローより強力な術で一体だけを攻撃するのに向いているそうだ。
アイスジャベリンとかブリザードは寒さで攻撃、ライトニングが雷撃、ヒールとヒールウィンドゥが回復魔法、ヒールウィンドゥは駆け抜ける風に触れた者だけが回復すると言う特殊な回復魔法だそうだ。
覚える事が多すぎる……。
そして、重要な事だがズメイの変異に必要な物が幾つかあるのだと言う。
「ここにもあるのか?」
「一つは簡単ですわ、主様。貴方様の血をお恵み下されば……ああ、無論、僅かで、極僅かで良いのです。それと、魔術師の杖とか聖職者のシンボルとかあれば変異可能ですが」
「――そんな物は都市部に行かなきゃないな。つまり、泥野郎とかが跋扈している所だ」
「今の戦力でも行けなくはなさそうですが、無理はできませんわね」
ズメイは変異とやらを心待ちにしている風だったが、必要な物が周辺に無いと知るとすぐに諦めてしまったようだ。
「その話は置いて置き、次はガートルードをアナライズしろ」
アドレイドの提案に従い、アナライズと唱えてガートルードを見る。
レベルは17、筋力172、防御112か。
防御は少し上がりにくいんだな。
それにしても、このきんりょく172とかがどんな程度なのかさっぱり分からない。
「ズメイについてもだけど、数値の変化は分かるが、正直、どのくらい強くなったのか分からないな」
「ズメイについては簡単だ、ファイヤーアローを放って貰えば良い」
ああ、そうか。
一応は威力を見ているんだから、もう一回撃って貰えば良いのか。
「分かりました、ファイヤーアロー!」
ズメイが相変わらずの気軽さで炎で象った矢を放つ。
着弾地点が燃え上がり、半径一メートルくらい円形に大地が抉れた。
前は、焼焦がす程度だったよな……。
「岩の沸点には及びませんが、大地を抉る程度の温度には達しておりますね」
「熱気がここまで来るんだけど……」
これは……威力が強くなった分、誤射とか気を付けないと……。
「ファイヤーアロー2ならば、威力は若干弱まりますが敵に誘導でき安全です」
ああ、そう言えば2とか付いてたな。
「乱戦になったらそっちを使ってくれ」
俺はそう息を吐き出しながら頷いた。
さて、ズメイの強さは大体わかったが、死神のガートルードについてはまだ分からない。
一体、どのくらい強くなったんだろうか?
「うーん……岩を一撃で粉砕できるくらい?」
問いかけると返ってきた答えがそれだ。
うん、おかしいな。
こいつらは何と戦っていたんだろうと思えるほどだ。
改めてガートルードのステータスを見ると、スキルが増えている。
魔術装甲は俺が鎧を着れる奴。
ソードストームが剣の技だと言う。
蒼褪めた戦旗とか言うのは、仲間の士気を高め、仲間に対して魔法に対する抵抗力をつける物らしい。
そして……死の付与? 凄い物騒な名前だな。
「稀に一撃死が起きるだけだよ、ここではあんまり意味ないかも」
スライムとか大抵一撃だったし、牛くらいかな訳立つのとは当人の弁。
魔法を使うズメイに比べれば地味と言えなくも無いが、如何やらガートルードは俺や仲間の能力の底上げの方に特化している様だ。
この先も、仲間を対象にしたスキルを覚える筈との事。
「何分未実装だったからな、どんな能力かは分からないが、仮にもULを名乗らせるのだから、育てておくと良い」
そう告げたアドレイドもアナライズしてみた。
考えてみれば、こいつには使ってなかったな。
「我はどの程度の能力になっている?」
その問いかけに、俺は一瞬答えられなかった。
好感度って、文字通りの意味で良いんだろうか?
他の二人には無かったのに、アドレイドにだけその項目があり、数値が良く分からない事になっている。
「なぁ」
「何かな、我が騎士よ」
「好感度ってなんだ? 数値が変なんだが」
「……どんな風に?」
「9567と書いてあって、その脇にはS4590、M4977――」
「バグだな、数値が妙な事になっている。そこは気にするな」
俺の言葉を遮るように告げたアドレイドを、ズメイとガートルードが意味ありげな視線で見つめている。
「バグってなんだ?」
俺はそれよりも、意味の分からない言葉を覚えていかねばならず、そちらに頭を悩ませていた。




