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名の知らぬモノ・ありし日の思い出

作者: 三ノ城

「平成最後に何か!!」で始めたものなのでとても纏まりきれていないですがご容赦ください。

それは、些細な出来事だった。

その日、一人の男児は母親の知り合いに連れられとある川の河川敷にやって来てた。

男児は普段はこれない場所で元気にはしゃいでいると、近くにひっそりと一隻の船が陸揚げされているのに気づいた。

母親の実家が漁師だった彼にとって、内陸で海から離れた家の近くでそのような船を見ることはとても興味深いことであった。

さっそく船に近寄り様子を伺う。

木造だった母方の祖父が使う船よりは新しいものの、その船は負けず劣らずにボロボロに見えた。

すぐ近くには先程、男児が渡ってきた橋があり、なぜこのような場所に船があるのか幼心でも気になった。

そして、小さな体をめいいっぱい伸ばして船を覗き込もうとした時、船の上から影が降りた。

男児が視線を向けると影の主と目があった。

視線が合い男児はビクッと身を縮こませるが、影の主である少女が視線を外し川へと視線を向けたことによって力が抜ける。

普段の男児ならそのままその場を後にするのだが、次に行った行動は男児自身も驚くようなことだった。


「おねえちゃん、なにしているの?」


元々、『知らない人には話しかけないよう』にと母親からきつく言われており、人見知りの気のある男児ならまずしない見知らぬ少女への問いかけ。

その問いかけは川を見ていた少女に驚きの行動を見せた。


「私が見えるの!?」


バッ、と振り返り言葉を放った少女の行動に男児は再びビクリとし、少女の言った言葉に戸惑いつつ首を縦に振った。


「そう……」


そして、彼女は周囲に目を向け男児の保護者がいないか周りを見渡す。

すぐにそれらしい女性を見つけるそちらを指さし、男児に向かって声をかける。


「あの人と一緒に来たの?」


「うん」


少女の指先を追い、その先にここへ連れてきた貰った母親の知り合いの姿を見いてすぐにうなずいた。

まっすぐに話す様子に女性は少し笑みを浮かべ、指していて指を立て口元に持ってくると話を続けた。


「私と話したことは内緒ね」


「うん」


先程よりは元気な返事に無理だろうなと思い、笑みを浮かべたまま少女は男児を連れてきた女性を再び指差した。


「心配するから早く戻ってあげて」


「うん!」


今までで一番大きな返事をして男児はその場から走り出そうとするが、不意に足を止め少女を振り返った。


「ひとをゆびさしちゃだめなんだよ」


思わぬ男児の言葉に少女は目を点にするがすぐにうなずいた。


「そうね、気を付けるわ」


少女の反応に満足したのか再び男児は母親の知り合いの下へと走り出す。

それが男児と少女の最初の出会いであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「でね、みんなであやまらせたの」


「そ、そうなんだ」


近所の子供たちと共に近所で妹をいじめていた兄を追いまわし、仕返しをした話を武勇伝の如く話す男児の話を聞き、反応に困った様子を見せる少女。

男児と少女が初めて出合ってから数か月ほどたった。

男児が少女と会えるのは母親かその知り合いと共にここに来た時に限られたが、それでも来るたびに少女は船の上で男児を待っておりその話し相手になった。

話の内容は男児の家族の話や友達の話が主だったもので、特に母方の祖父が漁師をやっていると知った時は男児にいろいろ尋ねたりもしたが望むような答えは返ってこず悲しむようなこともあった。

しかし、少しずつ話すたびに二人の仲が良くなっていったのは間違いなかった。


「そういえば、今日はお祭りに行ってきたんだっけ?」


話題を変えようと話を持ち出すが今度は男児の表情が曇りだした。


「……うん」


その様子に少女はまた困った様子で周囲を見渡す。

幸い、一緒に来ていた母親は船のそばで遊んでいると思っているらしくこちらの様子には気づいていなかった。


「どうしたの?」


「てっぽう、なかったの」


「て、鉄砲!?」


何やら物騒な物の名前が出てきて、思わず少女はびっくりする。

たが、よくよく聞けばそれはおもちゃの鉄砲らしく、近所の誰かがお祭りで買ってもらった音のなる鉄砲が近所の子供たちの間でブームになったらしく男児も親に買ってもらう様にねだったらしい。

しかし、親が買ってきたのは音のならないものだったらしく、直接に親と共に行って来たのだが結局、見つからなかったらしい。

そのショックを思い出したのか男児の目に涙が浮かび始める。

少女はさらに困り何か気をそらそうと考え始めふとあることを思いだした。


「そういえばこの前、お兄ちゃんのビー玉が欲しいって言ってたよね」


その言葉に男児は涙を浮かべたまま素直にうなずく。

ひと月ほど前の話で男児は兄の持っていたビー玉に強く興味をひかれているような話を聞いたのを思いだし、気持ちの路線を変えさせる。


「お兄ちゃんは青いビー玉だったけど君は何色が好き?」


男児はその話に食い付いたのか目をゴシゴシと擦り、涙をふき取り考え始める。

そして、いろいろ考えたのかある色が出てきた。


「だいだいいろ」


「どうして?」


「みかんがすきだから」


話を聞くことしかできない少女であったがその話を一生懸命に広げ、何とか男児を元気づけよう頭を目一杯考えていたのだがその理由に思わず固まってしまう。

そして、徐々に笑いがこみあげてくるのを感じつつなんとか話を続けようとする。


「す、好きなんだ、みかん」


「うん、ぼくねかわむくのすき」


唐突に変わった話に流石に少女は笑いをこらえられず笑い始める。

その様子に男児は「おねえちゃんどうしたの?」と不思議そうに見つめるが、少女はしばらくおなかを抱えて笑い続けた。

そして、一通りの笑いの波が去ってから少女は一つの提案をする。


「じゃぁ、今度はビー玉を買ってもらったら?君の好きな色の君のビー玉を」


「ぼくのびーだま……」


先程の鉄砲も欲しいが自分だけのビー玉も欲しいと男児は感じ悩み始めた。

その様子に少し安堵し、男児の親の様子を伺う、そろそろ戻らないといけない時間のようだ。


「じゃぁ、今日はこのくらいにしてまた今度ね」


「う、うん」


悩んだままのためか返事もままならず男児は親の方へと向かっていき、そのまま帰宅するようだ。

その様子をみながら少女はふと思った。


「『また今度』か……」


少女がそう話せる存在にもう会えないと思っていた時に出会った男児に少女は救われていた。

しかし、二人でいる時間はそう長くなかった……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その日は突然やってきた。

冷え込んできたある日、男児はあることを少女に伝え、少女は一瞬頭が真っ白になった。


「……引っ越し?」


「うん、ひっこすんだって」


少女が驚いた様子を気にせずに男児は……いや、男児自身も少し不安な様子でそのことを話しているようだった。

現在の貸家から一軒家へと引越せば、自分の部屋というものが手に入る。

しかし、引っ越し先は隣町で、散歩がてらでもうここに来ることはできず、少女と会えなくなってしまうことも感じていたからだ。

そのため、引っ越しの話はなかなかできずにいたのだが、明日には引っ越しのため近くの親戚に預けられることになり男児は最後になると思い何とここまで一人できたようだった

だから男児は少女の顔を見ることが出来ず、ただ引っ越しの話をするだけだった。

だからだろうか、呆けていた少女がある覚悟を決めたことに気が付かなかったのは……。


「じゃあ、今日でバイバイになっちゃうんだね


「……うん、ごめんなさい」


いきなりのことで困らせただろう少女に男児は謝るが少女は気にしなかった。

そして、そっと男児の頭の上に手を置いた。


「じゃぁ、お姉ちゃんからのお祝い。大事にしてね」


そう言うと男児は急に眠気に襲われた。

何とか堪えようとするが、その体をそっと少女は支え眠りにつかせる。

そして、眠り始めた男児の手に手を添えてそっと語りかける。


「ごめんね、私ももう会えないの嫌だから……だから最後にわがままなお礼させてね」


その言葉と共に少女はその姿を消した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱりもうないか」


そう呟いたのは一人の青年、少女との別れから十数年、男児は青年となっていた。

隣町から久しぶりに思い出の場所へとやってきたが、そこには少女との思い出の場であった船は無くなっていた。

処分されたのか、いつかの大雨で流されたのかは分からないが船の姿はなく、石と砂だらけの河川敷が広がるだけであった。

青年はあきらめたように上着のポケットから携帯電話と一つのビー玉を取り出した。

透明な中に複数のだいだいのラインが入ったビー玉。

あの後、すぐに目を覚ましたであろう時には少女の姿はなく、代わりに手元にこのビー玉があったのである。

子供ながらに不思議に思い、恐怖心も少しはありながらもそのビー玉を離したくはなくずっと大事にしていた。

そして隣町へと引越し時間がたち、少女との思い出もほとんど忘れていた時、彼はとある携帯小説の記述に目を奪われた。

船に宿った魂が少女の姿をとる物語。

開いた携帯小説の画面とそのビー玉を見比べながら青年は呟く。


「やっぱり、あのお姉ちゃんは船魂だったのかな?」


そのことを知る手立てはないが、知ったところで彼には特に出来ることもない。

ある意味、そうだからこそ彼はここに来たのかもしれない。


「お姉ちゃん、ビー玉をありがとう」


青年はかつて船があったはずの場所にそう言うと、畳んだ携帯と共にビー玉をそっと上着のポケットにしまった。

ギリギリ平成投稿セーフ!?


どうも、お初の方は初めまして、知っている方はお久しぶりです。

三ノ城です。


平成も終わりということで前々から気になっていた「昔の思い出」ネタで急遽書きました。

はい、あの男児のモデルは自分です(あそこまで素直では無かったですが)

船も昔よく行っていた川に置かれていたもので、昔懐かしさで散歩しに行った際にふと思い出し書いてみました。

当初は今月初めから書き始める予定がずるずる伸びてこんな時間に……(後書き執筆時刻、23:30過)

明日から『令和』ですが皆さまはどのようにお考えでしょうか?

自分はとにかく何かしら自分自身を変えられるきっかけに少しでもなればいいなと思っております。


当作品や他の作品で気になることがあれば感想やメッセージをいただければ反応すると思います(多分)

では、これにて失礼いたします。

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