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6. 勇者は捨て駒のはずだった

九条佑華を聖戦の舞台へと送り込んだ後、バイルはチェス盤を通して様子をじっと観ていた。人族がバイルを祭る大神殿に落とされた佑華は人族にあっという間に勇者として祭り上げられ、前線へと送り込まれた。最初は抵抗しようとしていた佑華も、前線に到着したころには腹を括ったようで、魔族と戦い始めた。

「…へえ。」

 佑華と魔族の一騎打ちの様子を見て、バイルは感心の声を上げる。戦いの経験のない佑華は最初は防戦一方だったが、徐々に自分の力を把握しながら戦い方を学んでいき、最後には魔族を撤退させていた。

「思ったよりやるじゃん。これなら僕が精神に介入しなくても大丈夫そうだね。」

 もし佑華が怖気づいて戦いを放棄しようとした場合、バイルは佑華の精神をいじくって無理やり戦わせようと考えていた。しかしそれには佑華の精神が壊れて使い物にならなくなるリスクがあるだけでなく、聖戦の世界に介入するバイルも代償を払わなければならない。避けれるならば避けたい手段だった。

「佑華、君はすばらしい戦力だ…。勇者という『捨て駒』としてね。」

 バイルにとって勇者は切り札ではなく『捨て駒』だった。確かに佑華に与えた力は魔族と比べても十分強力だった。だが時間をかけて対策を立て、複数人で包囲すれば容易く抑え込まれてしまう、その程度の力でもあった。そこでバイルはわざわざ異世界から魂を持ってくるという敵対する神ナルガが気づきやすい目立つ方法でコストパフォーマンスの良い魂を調達し、あえて早期に勇者を前線に立たせて注目を集めた。こうしてナルガや魔族が勇者に構っている間に、『本命』の準備を進めようとしていた。

 佑華を観ていたバイルだったが、ふと違和感に気づいて眉をひそめる。佑華の周りに、よく見ないとわからないほど微弱な魂が1つ、漂っていた。もし邪魔ならば排除しなければならないと注意深く観察していたが、どうやらほとんど力を持っていないし、ナルガ側の影響を受けたわけでもない、未だ下位の精霊にも至っていない存在だった。放っておけば消えると考え、バイルは興味をなくした。

「それじゃ、時間稼ぎと陽動がんばってね、佑華。できれば1年、頑張ってね。」

 佑華の観察をやめたバイルは、『本命』の準備に集中し始めた。正直バイルには時間も戦力も余裕がなかった。聖戦を観察する手間すら惜しい。佑華が死ぬか、戦況がさらに悪くなる場合を除いて聖戦の情報が入ってこないようにすると、バイルは全力を『本命』の準備に向けた。

その結果、バイルは佑華の異常に気が付かなかった。多くの神々と同じく時間の感覚があまりないバイルがふと気になって聖戦の様子を見たとき、前線は本来の人族の支配地域まで押し戻され、聖戦の停戦協定が成立しそうになっていた。佑華が勇者として送り込まれてまだ1年たっていなかった。


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