7話 玉煙殺人未遂事件
(……だ…ん)
(や…だ…ん)
(やまださん、大丈夫ですか?)
知らない天井だ。なんで俺はこんなとこで寝てるんだ?
(山田さん、気がつきました?)
全身が痛むが動かないほどではない。痛む体に鞭を打って何とか立ち上がりゆっくりと木箱に近づく。
(山田さん、えーっと…お疲れ様です。)
木箱に腰掛けてバックからミネラルウォーターを取り出そうとしたら空だった。
くそ!さっき飲み干したんだった。空の容器をバック戻し、頭を抱えて深い溜息を吐く。
(…あのぉ、山田さん?)
わかった。俺頭おかしくなったわ。
だって幻聴が聞こえるもん。
さっきからコールセンターのお姉さんの声が親しげに話しかけてくるし。
これはあれだ。声だけ可愛くて顔は(おいぃ!山田ぁ!お前またその件やんのかぁ?あぁ?)
「……すみません。もう…やらないです。
…でもマリちゃんさっきのはひどいですよ。
煙で苦しんでるのわかってるのにからかうなんて。
マジで死にかけましたよ。」
(あれは一気に吸った方が早く気を失えるので、そのほうが楽、というか体と心に負担が少ないんですよ。私は良かれと思ってやった事です。)
「えぇ……。もっと早く教えてくださいよ。」
(しかも山田さんの場合はいきなり大玉だったので、かなり苦痛を伴う事はわかっていましたから。
普通の方は小玉、中玉、大玉と段階的に上げていくものです。あまり怯えさせても仕方ありませんし。
山田さんの知識でいうと、いきなり4時間で500キロを走れるぐらいの体を一瞬でつくれ、と言ってるようなものでしたので。
それにも勝るビルドアップです。)
「はぁ?じゃあ今の俺は4時間で500キロ走れるんですか?」
(はい。その能力に慣れてしっかり鍛えていけば更に上を目指せますよ!)
「ははは……。人間やめてるじゃないですか。」
(大丈夫ですよ。
身体・大玉でしたらこの[アマルテア]には何人かいらっしゃいます。
またその方達は日々鍛えておりますので、山田さんより今はお強い筈ですよ。)
「いや。そういう意味ではなくて……。」
(しかし山田さんにはまだ魔力・大玉と魔力操作・大玉が残っているじゃないですか!これは凄い事ですよ。
普通ダンジョンはパーティ攻略が前提なので運良く攻略できたとしても、玉を一人で全部手に入れることはできないんです。
皆さんは自身が生き残るためになるべく大きな玉を欲しがります。
なので攻略パーティはなるべく不満のでないようにしっかり話し合いみんなで分けるんです。
もしかしたら山田さんは単身の力ではこの世界で一番になるかもしれないですね。)
「……はぁ。でも強くなる意味があまり無い、というか俺はただ元の世界、地球に早く帰りたいだけなんですよ。」
(それですよ。山田さん。聞いてください。
この世界[アマルテア]には世界樹と呼ばれる途方も無く大きい木が存在します。
その根元にこの世界最大のダンジョン(真理の迷宮)があります。
そしてその踏破報酬には間違いなく(世界の真理・極大玉)があります。
それを手に入れることができれば私の知識も上がり世界樹の知識への閲覧許可も無制限になります。
そうすれば山田さんをこの世界に転移させた方、もしくは方法がわかると思います。
間違いなくそれが元の世界、地球に一番早く帰れる近道になります。)
「え?帰る方法がわかるかも知れないんですか?」
(はい!世界樹の知識はこの世界で起こったこと全て記憶されています。
つまり山田さんがこの世界に来た原因は記録されています。
ただ今の私の権限ではそこまで閲覧許可が出ていないので極大玉を手に入れる事が前提です。)
「…わかりました。 はい。やりましょう!いえ、やってやる!ぜってーやる!何としても家に帰ってやるんだからな!」
(はい!そうと決まれば残りの玉も使っちゃいましょう!さぁ!じゃんじゃん割っちゃいましょう!さぁ!早く!)
「……やっぱりもう少し休憩してからでもいいですか?あの辛いのがあと3回も残ってると思うだけで体が……。」
(……本当に元の世界に帰る気あるんですか?)
「……頑張ります。」
この後俺は2回の気絶、1回の悶絶を経験する事となった。