35話 ノイスの街
「ぐひゅゔぅぅぅ」
そんな奇声を発しながらカナンは両掌で目と頭を抑えながら崩れ落ちていった。
今回も実にいい鳴き声で逝ったな。
カナンは煙を一気に吸うことにポリシーがあるのかもしれない。
俺には到底真似できないな。
「ウグッ、ウグッ、ウグッ……。」
リサも無事に逝けたようだ。
両手で自身の体を抱くように痛みに耐えていたが、変な声は漏れていた。
リサは本当によく頑張る。
テンチュー君のために、とか俺には理解ができないけど。
「では俺たちも吸収しようか。アリア。
小玉はそんなに辛くはないだろうし。」
「そうね。
同時に吸収しましょうか。1人だと心細いし。」
そうして俺とアリアは左手に持った能力玉を右手潰す。
割れた玉から出てくる煙を吸うために鼻に近づけ一気に吸い込む。
「ぐっ。」
鼻から入った煙は目の奥と頭に激痛をもたらした。
少しの間しゃがみ込み、震えながら痛みに耐える。
小玉でこの痛みだ。
中玉を吸収したカナンは余程の痛みだったのだろう。
そりゃあんな声も出るさ。
隣を見るとアリアは立ったまま痛みに耐えているようだ。
トイレを我慢しているみたいに内股になり、小刻みに体が震えている。
少しの間で痛みは引いていき、体が自由に動かせるようになった。
早速倒れているリサとカナンに治癒魔法をかけてやる。
何もしないよりマシだろう。
アリアもすぐに動けるようになったので、迷宮踏破報酬を2人で収納袋に入れていく。
棚の魔道具、恩恵付きの衣服、恩恵付きの武器、今回吸収しなかった能力玉などをアリアにお願いして、俺は木箱を担当した。
今回の木箱も硬貨と収納袋だった。
本当に代わり映えのしない報酬だな。
なんて考えながら硬貨を回収していく。
やはり低層迷宮だからか金貨よりも銀貨の方が多く、枚数も合わせて1000枚には届かない。
迷宮踏破報酬の回収も終わり手持ちぶたさで木箱に腰掛ける。
小腹がすいてきたので食事パンを収納袋から取り出しアリアと食べながら話をする。
「いよいよ次は中層迷宮ね。
場所はどこなのかしら?」
「えぇっと。
確かノイスって街の近くだと聞いてるけど。
ここから2日はかかるみたいだよ。」
「ノイス?鉄鉱山がある街じゃない。
街の規模もそこそこ大きいし、発展してるとは聞いたことがあるわ。
でも治安があまり良くないという噂も聞くわね。」
「多少治安が悪くても大丈夫でしょ。
みんな強いし。
その街のミルドさんの店に寄ってから一泊する。
そして迷宮踏破に挑戦しよう。」
「次の迷宮には他の冒険者達もいるのよね?
実力を隠して進んでいくの?」
「そうだね。
多分25階層くらいまでは戦闘なしで行けるはずだからそこまでは戦わないよ。
魔物が出ても無視して進もう。
でも罠があるらしいからそれには注意しないとね。」
「罠か……。めんどくさいわね。
ヤマダさんの索敵魔法で見つけられないの?」
「今はまだ無理だね。
広範囲は魔力消費が高いから連発するときつくなるんだよ。
でも半径20メートルは何回でも探れるけど、集中力がもたないし。
怪しい場所だけだったら出来るから試してみる価値はあるかも。」
「そう上手くはいかないのね。
……しかし暇だわ。
この2人はいつまで寝てるのよ。」
「アリアも寝てていいよ。
俺も少し寝るつもりだし。
今外に出ても夜だから日が昇るまではこの部屋で待機した方が安全だからね。」
「わかったわ。ローブを貸して。
私はこっちで…寝るけど変なことは…しないでね。
でも…我慢できなければ…」
「しないよ。
俺は素人には手を出さないんだ。
責任取れないからね。」
「……おやすみ!」
引ったくるようにして俺の手からローブをとったアリアは微妙な顔をして離れていった。
俺なんか変なこと言ったか?良くわからん。
俺もローブに包まり目を閉じて眠れるように心を落ちつけた。
頭の中で古の呪咀使いが"色目使いやがってデカ乳が"などといった呪いの言葉を唱えていた。
目を覚ますとアリアはまだ眠っていたがカナンとリサは起きていて食事をしていた。
体調も悪くはないようで、すぐに出発可能だという。
治癒魔法が効いたのだろうか?
アリアもすぐに起きてきて皆で出発の準備をする。
この迷宮を出たら次の目的地まで2日はかかる。
アリアは未だに身体・小玉なのでペースを上げることは難しいだろう。
ダンジョンコアを回収して鉄鉱山の街ノイスを目指して走り出す。
道中は面倒ごとに巻き込まれるのは避けたいので街道を避けて人目のつかないように移動した。
そして2日後の昼頃に鉄鉱山の街ノイスに到着する。
グリーデンのような巨大な城壁や城もないが街の規模は変わらないだろう。
街のいたるところにガタイの良いおっさん達がたむろしていて酒を飲み交わしている。
たしかに治安は良くなさそうだ。
まずはミルドの魔道具屋を目指す。
ノイスの街の店舗はグリーデンほど大きくはないが大通り沿いにあり客の入りも上々のようだ。
俺は店員に自分の名前と店長に会いたい旨を伝える。
するとすぐに恰幅の良い40代ほどの男を先ほどの店員が連れてきた。
「あなたがヤマダさんですか?
ミルドオーナーからこの店を任されているパヤオと申します。
どうぞよろしくお願いします。」
「はじめまして、パヤオさん。
私は山田と申します。
こちらこそよろしくお願いいたします。」
「オーナーから詳しくは聞いていないのですが、貴方が店に来られたら領主の館に行きオーナーに連絡するように言われております。」
「ええ。よろしくお願いします。
あと宿を紹介してもらいたいのです。
1人部屋1つと3人部屋を1つ。
食事が美味しくてお風呂があれば嬉しいのですが。」
「宿屋でしたら紹介は可能です。
うまい食事と風呂ですな。任せてください。
部屋は1部屋でなくて2部屋でよろしいんですね?」
「ええ。2部屋でお願いします。」
そうして少し待つと先ほどの店員が宿まで案内してくれた。
紹介された宿は[憩いの宿]という落ち着いた雰囲気の宿だった。
1階に食事をするスペースと奥に風呂があり2階3階は宿泊部屋が並んでいた。
俺は1人部屋で2階。
3人娘は3階の部屋だった。
早速荷物を置いて風呂に向かう。
野営、迷宮踏破中は濡れたタオルで体を拭く程度で風呂に入れない。
久しぶりの風呂に心が躍る。
風呂から上がってサッパリした。
しかし日暮れまで時間がある。
夕食はこの宿で食べるつもりだし外出するのも億劫だ。
部屋でごろごろして時間を潰すことにした。
よく考えたら迷宮踏破を終えるまでマリンちゃんに会うことができない。
夜物語のフィーバーをマリンちゃんと遊戯できないのだ。
流石に2ヶ月は我慢できないだろう。
今夜みんなで夕食を食べた後にでもこっそり街へ繰り出そう。
そんなことを考えていると部屋の扉をノックしてカナンがそのまま入ってきた。
コイツはバカなのか?
返事待ってから入ってこいよ。
ノックする意味ねーだろ。
「主よ。冒険者ギルドには行かないのか?
訓練施設もあるし、迷宮の情報も手に入る。
他の冒険者と手合わせもできるみたいだし。」
「俺は行かないよ。
訓練はここの庭で十分だし、他の冒険者と手合わせするつもりもない。
でも迷宮の情報は欲しいな。
カナンが行きたいなら行って良いよ。
迷宮の情報を集めてきて。
でも俺の情報は絶対言わないこと。
あと本気で戦わないでね。
カナンはかなり強くなってるから本気出すと目立つでしょ。
その約束が守れるなら冒険者ギルドに行って良いよ。」
「ありがとう主よ。
アリアとリサも連れて行って良いか?
あの2人も部屋で暇そうにしていたからな。」
「いいけど、あと3時間くらいで夕食だからそれまでには帰ってくること。
あとアリアには手甲足甲は装備禁止、リサにはテンチュー君禁止って言っておいて。
カナンは2刀流までね。3刀流は禁止。」
「まだ3刀流は上手くできないからな。
ヨダレの制御が難しい。
必ず夕食には戻ってこよう。
では主また夕食で。」
そう言ってカナンは部屋を出て行った。
宿に残った俺はまだ見ぬ夜の蝶たちを思い浮かべながらごろごろとベットの上で過ごした。
完全に日が沈み部屋の灯りの魔道具が煌々と光を放ち始めた頃に3人娘は宿に戻ってきた。
皆で1階に降りてウェイターに各々食べたい料理を頼む。
「で、冒険者ギルドはどうだった?
迷宮の情報は手に入った?」
「ええ。しっかり聞いてきたわよ、私とリサで。
カナンはずっと訓練場で他の冒険者の相手をしていたわ。」
「……アリアとリサだって他の冒険者の相手をしていたではないか。
アタシも迷宮の情報は聞いてきたぞ。
やはり30階層を超えると魔物が一気に強くなるらしい。楽しみだな。」
「他の冒険者相手にちゃんと手加減したのか?
あまりに一方的だと怪しまれるだろう。」
「いや。あれは手加減というレベルではないな。
相手にならん。
リサなんて相手の振るった剣を躱しつつ、その剣の上に立って負けを認めさせていたしな。
アリアは開始直後に魔法で相手の武器を壊していたし。」
「カナンさんだって目隠して圧勝してたじゃないですか。刀も使わず、拾ってきた小枝を使って。」
……。ダメだコイツら。
目立たない、という言葉を知らないんだろう。
目隠しして小枝で武器を持った格闘野郎どもに圧勝ってめちゃくちゃ目立ってんじゃねーか。
「……そんだけ目立ったらパーティに勧誘されたんじゃないのか?」
「勧誘はされたが全て断ったぞ。
冒険者ギルドに登録すらしていなかったから私がパーティに入ったらギルドの仕事もできなくなるしな。」
「冒険者ギルドに登録してこなかったのか?」
「ヤマダさんが入ってないのに私達だけ入っても意味ないでしょ。
でも迷宮の情報を集めるなら冒険者ギルドには入っておいた方が良いかもね。」
「へぇ、どんな情報だったの?」
「鉄鉱山の近くにある迷宮ですって。
最高到達階層は43階層。
罠はほとんどないらしいわ。
魔物は30階層を越えるとゴーレムが出てきて、それから43階層にアイアンゴーレムが出るそうよ。
そいつにダメージを与えられなくて、この街の冒険者ではそれより先に進めないみたい。」
「ゴーレム?岩出てきた人型の魔物なのか?」
「人型とは聞いていないわ。ゴーレムはゴーレムよ。様々な形をしていて力強い攻撃をしてくる魔物ね。
生物ではないから魔石を取り出さない限りずっと攻撃してくるらしいわ。
厄介な魔物よね。」
ゴーレムか。
何か対処法でも考えておくかな。
岩だったらファイアーボールもあんまり効かなそうだし。
「ここら辺の冒険者は大体20階層のオークか25階層のハイオークを狙っているみたいね。
1体倒せば4人パーティ1ヶ月分のお金になるらしいからみんな必死に探しているそうよ。
それ以外にもそこそこ素材価値のある魔物もいるみたいだし。」
「とりあえず冒険者ギルドには入らないでこのままで行こうと思う。
どうしても入らないとまずい状況になったら入るけどね。
明日の朝一でミルドの魔道具屋に行って収納袋に入ってるオークを売ってから迷宮を目指そうか。」
食事と話しが終わり俺は部屋に戻り、鏡を見る。
最近は変装の魔道具をずっとつけたままだ。
自分の外人顔には慣れたけど、たまには元の顔を確認しないと忘れちまう。
この世界に来て2ヶ月以上経ったが黒髪、黒目の現地人には出会っていない。
この世界には黒髪、黒目はいないのかもしれない。
いつか変装の魔道具なしで外を歩きたいな、と思いながら外出の準備を進める。
1階に降りて宿屋の受付にいく。
この店の主人だろうか?愛想笑いが板についた壮年の男性が受付の中で書類仕事をしてる。
「すいません。……少しお話を聞いてもいいですか?」
「はい。……夜の街の場所でしょうか?」
「え?何でわかるんですか?」
「この時間に男性のお客様に声をかけられるのは殆どがその事ですからね。
もう1000回は説明してますよ。
もちろんおススメの店もありますよ。」
このおっさんプロだな。
こちらの微妙な空気感を読み取って先に話題をふって来た。
できる男はやっぱり違うな。
「少し高くても構わないのでおススメを教えてください。
今日この街に着いたばかりで右も左もわからないのです。」
「でしたらこちらのお店に行ってみて下さい。
お値段は少し高めですがサービスはいいですよ。」
そう言って男は一枚の紙を差し出して来た。
俺はお礼に銀貨一枚を渡して早速宿屋を出る。
宿屋から歩いて10分ほどの場所に歓楽街があり、その歓楽街の中程に紹介された店はあった。
人目を避けるように足早に店内に入り、店員に声をかける。
奥の待合室に通されて、これから先の展開に心を踊らせて女の子の到着を待つ。
すぐに笑顔の可愛い女の子が先ほどの店員に連れられて来た。
「ララァです。今夜はよろしくお願いしますね。」
ララァちゃんか…。胸がデケェな。
今回はMSで闘う仕様なのか?
では行くしかないだろ!
「アムロです。
一緒に楽しい戦闘を過ごしましょう。」
挨拶を交わして部屋へ向かう。
この時間は一番胸が高鳴る時だ。
先にララァちゃんが部屋に入り俺を招き入れる。
「アムロ、行きまーす!」
そう高らかに宣言をして俺はフラウちゃんの待つ部屋へ飛び込んだ。




