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33話 迷宮への旅路

 

 それから毎日、訓練漬けの日々だった。

 3人娘を強くするために、自分もさらに強くなるために来る日も、来る日も訓練を続けた。


 しかし能力玉を中玉、殆どが小玉しか吸収出来ていない3人娘は能力の頭打ちが早かった。


 俺自身はまだ鍛えれば強くなれる確信があるのだが、小玉の能力は低く訓練を始めて3週間を過ぎた頃には限界が見え始めていた。


 もう新しい能力玉を手に入れる時が来たのか。

 それが俺の率直な感想だった。

 本来俺の訓練法はマリちゃん監修のもと効率重視で進められてきた。


 この時すでに訓練を開始してから4週間が経過していた。


 俺はマリちゃんと練っている今後の予定を思い浮かべる。

 まずは3人娘たちのみで俺付き添いの下、低階層迷宮を踏破させる。

 そしてそのまま旅を続けて50階層の迷宮を3つ踏破する。

 それが今回の予定だ。

 期間にして約1ヶ月の旅路。


 今回巡る迷宮は全てこのリシテリア公国内にある。


 30階層の低階層迷宮は踏破しても殆ど話題に上らないが50階層の中階層はどこも人気らしく踏破すれば必ず公国にバレるとの事。

 その場合の隠蔽はミルドに頼んである。


 条件としては踏破する予定の迷宮近くの街で"ミルドの魔道具屋"に寄ることが条件だ。

 流石のミルドも場所が分からなければ対処のしようがない。


 どういった隠蔽をするのかはわからないが俺が目立たずに済むようにしてくれるらしい。


 50階層の中階層迷宮踏破報酬は殆どが中玉で大玉は1つの迷宮につき0〜2個らしい。

 今回は3箇所巡るので最低3個は欲しいところだ。


 出発の日の朝、外壁門までミラとターニャが見送りに来てくれた。


「ミラ、ターニャ留守の間よろしくお願いします。」


「気をつけて行ってきてください。アナタ。

 なるべく早い帰宅をお待ちしております。」


「留守の間のお屋敷の管理はお任せください。

 気をつけて行ってらしてください。」


「ああ。終わったらまっすぐ帰ってくるよ。

 行ってきます。」


 そう言って別れる前にアリアとミラは真剣に何かを話し合っていた。

 ミラがアリアに強く何かを言っている。

 約束を破ったら許さないから、とか。

 嘘はわかるんだからね、とか。

 俺は聞こえないフリをして元気に出発した。


 空は青く晴れ渡り、迷宮を目指して歩く。

 怖いものなんてない。俺はもう1人じゃない。


 あれ? どっかで聞いたフレーズだぞ?

 でも本当にいい天気だし、俺には仲間がいる。


 刀を3本帯刀した詰め襟姿のポニーテール元傭兵。


 どこかのおしゃれカフェでお茶でもしに行くような格好の金髪、碧眼のお嬢様。


 裾の短いメイド服を着てハキハキ歩く小動物のような可愛さを持つ少女。


 その3人娘を笑顔で見つめるおっさん。


 うん。冒険って感じがしないな。ダメだ。

 同じ目的を持っているとすら思えないほどチグハグな格好をしてる。特に俺ヤバくないか?

 若い女性を笑顔で見つめている、って事案じゃねーか。


 荷物は俺の背嚢型収納袋とリサの収納玉のみなので3人娘は手ぶらのお散歩状態だ。

 まだ街から離れていないので走らずのんびり歩いている。


 これから先ほとんど走りっぱなしの予定だ。

 今だけはのんびり歩いて行こう。

 まずは低階層迷宮を目指して。


 3人娘とくだらない事を話して歩いているとアリアが俺に質問をしてきた。


「ヤマダさんはミラからあれだけのアプローチを受けているのになぜ受けないの?

 どうせ奥さんにバレないでしょう?」


「バレる。バレない。の問題じゃないよ。

 ミラに手を出したら帰還の意思が弱くなるし、俺は結婚している。

 どんなに離れていても心は繋がっているんだよ。

 だから不義理はしない。」


「本当に真面目よね。

 ヤマダさんの元いた世界は知らないけど、この公国ではお金を持っている人の重婚が許されているわ。

 逆に推奨すらしている。

 どうしてもしない人もいるけどね。少数よ。」


「金銭次第なんだ。面白いね。

 なぜ金持ちが重婚を推奨されて、貧乏人は推奨されないの?」


「金持ちで重婚しない人は子供が少ない統計が出ているのよ。で、貧乏人は逆で子供が多い。

 別に貧乏人に子供が多い事を否定することはしないけど、多くの富を持つものこそ子供は多くあるべきだ。

 それが国の礎となり、力になる。と現国王は言っていたわ。

 それがこの国で金持ちの重婚を推奨する元になったのよ。」


 何となくわかる気がする。

 でもこれ貴族は例外なんだろうな。

 一部の富を独占する国民の力を削ぎつつ、国を発展させるために発言したのだろう。


 奴隷身分の撤廃やこの発言を聞く限り、

 現国王自身がすごいのか?

 ブレーンがすごいのか?

 どちらかわからないが頭の良い人だな、という印象だ。

 会いたくはないけど。


 そんな話をしていると街から遠ざかり外壁門が遠くに見え隠れてするようになった。

 そろそろ走っても大丈夫かな?などと考える。


 身体・小玉の能力ではそこまで早く走れない。

 走れるのだがすぐに疲れてしまうので長い距離の移動はできない。

 40キロを3時間で走るペースを意識して走り出す。


 カナンは帯刀しているが、アリアとリサは武器すら装備していない。

 時折世間話をしながら走り続けた。


 今日は低階層迷宮の近くまで移動する予定だ。

 そのまま野営して翌日から迷宮踏破を目指す。

 期間は3日間。今回は出会う魔物は全て倒して行く。


 3時間ほど走ると息の上がってきたアリアとリサ。

 やはりこのペースが効率よく進む限界なのか。

 途中で身体・中玉でも手に入れたらペースアップが可能になるので焦ることはないな。


 アリアとリサに疲れが見えてきている。

 なので良く晴れた空の下、見晴らしのいい丘で昼食にする。

 持ち運びに便利で味も美味しい食事パンを背嚢型収納袋から取り出して皆に分けて行く。


「あー疲れた。

 私も早く身体・中玉を吸収したいわ。

 カナンは全然平気そうだものね。」


「ああ。もっと早く倍は走れるぞ。

 でも主はもっと走れるんじゃないのか?」


「俺は疲れないからね。

 本当に大玉は別格だよ。

 その分吸収も辛かったけど……。」


「……それがあるんですよね。

 でも私はテンチュー君を完璧に扱えるようになりたいので我慢してみせます。」


「そうね。リサはまだ振り回されてるもんね。

 でも中玉でも扱えるんじゃない?」


「アタシが振ってみたがギリギリだ。

 あれを完璧に振り回せるのは大玉でないと無理だろう。

 主は振れたが動きがメチャクチャで酷かったな。」


「仕方ないだろ。

 生まれてはじめてあんなデカイ武器持ったし。

 そもそも俺は武器を振るったことがない。」


「でもミラを振りまくってるじゃない。

 あんなにアプローチしても振り向いてもらえず、週に2回も夜の街に行かれ、明け方帰ってくる愛する男。

 あれで諦めないミラは流石に怖いわね。」


 ……何で俺が週に2回マリンちゃんに会ってること知ったんだよ。俺も怖いわ。


 そんな話をしながらのんびり休憩をしていた。

 すると僅かに馬の走る音が聞こえた。

 辺りを見回すと遠くから馬に乗り駆けてくる人の姿が見える。


 ここは街道からも外れた小高い丘だ。

 明らかに俺たちを目指して向かってきている。

 俺は警戒を強め、3人にも警戒するよう伝えた。


 馬に乗り近づいてくる人は15歳ほどの少女で豪華ではないが仕立ての良い乗馬服を着ている。

 顔はアリアにも負けないほど整っていて、綺麗なグレーの髪を緩く編んで後ろで縛っている。


 距離が近づくと馬を駆ける速度を緩め俺たちの近くで止めて声をかけてきた。


「はじめまして。旅のお方?ただのお出かけ?

 どうしてこのような何もないところにいらっしゃるのですか?」


 ……そりゃこの格好の集団は旅しているようには見えないよな。

 誰だか知らないがここはしっかり偽名で挨拶しておくか。


「はじめまして。私はサムと申します。

 今は仲間たちと旅をしている途中です。

 お嬢様こそ、なぜこのような場所でお一人なのですか?

 お連れの方が見えませんが?」


「あら。ご丁寧な挨拶ありがとうございます。

 私はシャル……。シャルと申しますわ。

 今は追いかけっこをしておりますの。

 だから周りに誰もいないのですわ。

 もしこの先誰かに聞かれても私のことは秘密にしておいてくださいね。」


「……はぁ。

 しかし共を連れないのは危険ですよ。

 私は一市民でシャル様のことは知りませんが高貴なお方ではないのですか?」


「……シミン?領民、公国民の間違いではなくて?

 今の私はただのシャルです。敬称はいりません。

 それにこの丘の周辺は危険なのですか?」


「……すみません。公国民でした。

 私は旅の途中なのでこの周辺には詳しくはありませんが決して安全ではないと思いますよ。

 連れの方が探しにくるまでここで一緒に待ちますから、お戯れはお控えください。」


「サムは旅人なのに随分と言葉が丁寧なのね。

 それとも皆そういった言葉遣いなのかしら?

 私が教わってきたことと随分と違うわ。」


「普段はもっと砕けていますよ。

 こんな感じだね。どう?こんな感じで話すからお喋りして一緒に連れを待とうよ。」


「ええ。この先に用事はなかったし、その話し方でしたらお喋りがしたいわ。

 もちろん後ろにいる3人とも。」


「では馬から降りて食事をしながらは待つのはどう?

 美味しいパンも持っているんだ。」


 そう言って背嚢型収納袋から甘い菓子パンを次々と取り出す。

 シャルは収納袋からパンが出てくるのを見て驚いた声を上げる。


「まぁ!それが収納袋ですか?初めて見ました。

 それにこんなパンも初めてです。

 出来立てのように見えますがいつ頃焼いたパンなのですか?」


「この収納袋は時間遅延の効果も付いているから温かい食事なども冷めにくくなっているんだよ。」


「へぇ。すごいのね。

 こちらのパンをおひとつ頂いてもいいかしら?」


「どうぞ。まだまだ入っているから、好きなだけ食べて下さいな。」


 そう言ってパンを食べれば喜び、3人娘と話せば盛り上がり、リサの収納玉の能力を見てはさらに驚き、リサの大鎚を振るう攻撃の型を見てはもっと驚いていた。


 まぁリサが大鎚を振るうのを見たら誰でも驚くけどな。


 そうして長い間シャルとの歓談を楽しんでいたが遠くから5頭ほどの馬が駆けてきたのでシャルに告げる。


「シャル、お迎えが来たみたいだ。

 ここまであの集団に来られて囲まれるのは嫌だからシャルが馬を駆って迎えに行ってくれないかな?

 俺たちはその間に移動するからさ。」


「そうですね。とても楽しい時間でしたわ。

 お礼申し上げます。

 サム達に迷惑はかけたくないので戻ります。

 また会えたら嬉しいのですが難しそうですね。」


「うん。難しいと思うよ。

 だけど短い時間とはいえ、良い思い出になったでしょう。それで十分じゃないかな?」


「……ええ。そうですわね。

 とても楽しかったですわ。

 ではあなた方の旅の御健勝を祈っています。

 さようなら!」


 そう言って元気よく馬を駆っていくシャルを見ながら転移でその場から移動する。

 短い距離の転移では姿を見られる危険があるので、来た道を戻ることにはなるが2キロほど離れて転移した。


 結局シャルが誰だったかは分からなかったが相当な身分の貴族だろう。思わず偽名使っちゃったし。

 シャル個人は良い奴だったがもう会うことは無いだろうな。グッバイシャル。


「……何でサムなのよ。貴方ヤマダでしょう?

 心眼の前で嘘吐くのやめてよ。

 自分が嘘吐くよりマシだけど胸が痛くなるのよ。」


 え?心眼ってそんなデメリットあるの?

 良かった吸収しないで。

 だからミラは俺が嘘を吐くとバラすのか。


 これからはミラとアリアの前で嘘を吐くのはやめよう。

 近くに誰にでも見える嘘発見器があるようなものだ。

 危険すぎる。


 そして周りを警戒しながら移動を始める。

 今日中に低階層迷宮の近くまでは行きたい。

 日暮れまでにはその場所に到着したいので少しペースを上げて走り出す。


 あと5キロというところでアリアとリサの顎が上がり息が乱れる。

 あと1キロからのスパートで2人は悲鳴をあげていた。

 しかし俺は足を緩めない。これも訓練の一環だ!


 俺を見失うと迷子確定のアリアとリサは必死に追いすがり何とか俺を見失わず、無事に踏破予定の低階層迷宮にたどり着くことができた。

 その後、野営の準備をしている間2人からは耳が痛くなるほどの呪いの呪詛を頂いた。



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