30話 これからの生活
翌朝いつもの時間に起きた俺はミルドとの朝食をすませると早速、新居の鍵を受け取りに奴隷たち3人とオーベントの店に向かった。
朝食の場にも姿を見せなかったミラが、どこで何をしているのかミルドも知らない様だ。
ただし家には帰って着ている様で、出掛けるのもメイドを連れて行っているらしい。
嫌な予感がするが気のせいだと思いたい。
気にしたら実現する。絶対だ。なので気にしない。
オーベントから鍵を受け取り3人娘と今日の予定を決める。
新居には足りないものばかりなので大量の買い物がある。自分の部屋の物から皆で使う場所のものまで全てが足りない。
新居についたら先ずは部屋を決める。
まだ4人しかいないから早い者勝ちだ。
俺は一応3人娘の主人なので一番はじめに好きな所を選んで良いそうだ。
俺の部屋はリビングの上の庭側に面した奥の部屋に決めた。日当たりも良く庭がよく見える。
各々好きな部屋を決めて欲しい家具を書き出していく。ベッドに机、タンスに本棚、カーテン。
あとはベッドサイドの明かりの魔道具。
自分の部屋に必要な家具を書き出していく。
一旦、ダイニングに集まり自分の部屋以外の皆が使う場所に必要な家具や生活用品などをみんなで考えながら買い物担当の場所を決めていく。
俺はリビングとダイニングだ。リサはキッチン。
カナンは風呂とトイレ。アリアはそれ以外の廊下やロビー。そのあと食器を買いに行くらしい。
初日の買い物で必要なものが全て揃うとは思わない。
はじめは最低限揃えて、暮らして行く中で少しずつ買い足していけばいい。
俺はアリアからおおよその金額を聞いてそれより1.5倍ほどの金額を皆に渡して行く。
アリアは呆れていたが足りないよりはいいだろう。
お金はなくっなったらミルドの商店に預けてあるし、迷宮に行けばいい。
皆に収納袋を渡して家を出る。
ここは内壁門の内側なので内壁門を通らなければならない。
先程オーランドに貰った通行証は全員に渡してある。
何事もなく通過することができた。
最初は皆で自分の部屋の家具を買いに行く。
やはり大通り沿いに大きい商店は店を構えている。
ミルドの商店のすぐ近くの店で気に入った家具を買って行く。
皆の収納袋は普通のサイズなので、ベッドや大きい家具を収納するとすぐにいっぱいになってしまう。
結局は店の店員に運んでもらうことにした。
あと4時間後に届けると言われたので、皆には各々買い物が終わったら屋敷に集合!と伝えて、大急ぎで自分の担当の場所のリビング、ダイニングの家具を選んで行く。
俺はシンプルなデザインが好きなので装飾の少ないどんな家にも合う、実用的な家具を選んで行った。
リサはキッチン用品店に、カナンは生活雑貨屋に、
アリアは古物商と生活雑貨屋にそれぞれに走り買い物を済ませて行った。
元の世界でもそうだが引っ越しはお金がかかる。
今日で手持ちのお金は殆どなくなってしまった。
しかも必要なものはまだまだ出てくるはずだ。
ミルドに買取を急いでもらはないとな、なんて考えながら歩いていると、前から冒険者パーティが歩いてきた。
男5人女1人でどっかで見たことある顔立ちだ。
俺は外出するときは必ず変装の魔道具をつけている。
家に帰ると変装の魔道具をすぐに外せる様に玄関に置き場所を作る予定だ。
初めて俺の素顔を見た3人娘は微妙な顔をしていたことは忘れない。絶対に。
「結局この前森で見た魔族は、このグリーデンには来なかったみたいですね。」
「ああ。だが油断は禁物だぞ。
向かい合ってわかったがあいつは強い。
もちろん伝説でのみ語られていた魔族が弱いはずもないが。」
「でもあれが魔族なのね。
薄気味悪い顔立ちをしていたわ。
髪と瞳は漆黒で平べったい顔。
今思い出しても鳥肌が立つわ。」
「師匠から1000年以上昔の書物には稀にその存在が描かれている、と聞いたことがあります。
性格は残虐非道で破壊衝動の塊の様な存在らしいです。」
「では交戦しなくて良かったではないか。
命あっての物種だ。その様な存在には二度と出会いたくないな。」
「一応ギルドには伝えたし、本当に魔族だったのなら手の出しようもない。気にするだけ無駄だよ。」
おい。こいつら森で会った冒険者じゃねーか。
まだ俺のこと魔族だと思ってんのかよ。面倒くせぇ。
絶対に関わり合いになりたくない。
1000前の書物に稀に書かれてる。って間違いなく架空の存在だろ。創作だよ。フィクションだ。
俺は冒険者パーティから逃れるように離れて、家路を急ぐ。
大通りを通って内壁門を通過するとすぐに家に着いた。
まだ誰も帰宅していないので荷物を置いて庭で訓練を始める。
迷宮から戻ってきてから訓練の時間が取れていない。時間は有限だ。やれる時にやっておこう。
短い距離の転移を連発しての接近戦の訓練だ。
イメージした場所、向き、転移速度などに意識を集中して何もない空間に拳や蹴りを突き出していく。
ある程度の時間集中して訓練を続けていたら、いつのまにか帰宅していたカナンが俺の訓練を見て愕然としていた。
「おかえり。カナン。
カナンも一緒に訓練するかい?」
「……ただいま主。
凄まじい訓練をしているな。
私には主の姿が一瞬しか見えなかったぞ。
風切り音で攻撃していることがわかったが、どんな攻撃をしているのかさえ全く分からなかった。
あんな攻撃されたら誰だって瞬殺だろう。」
「何行ってんの。全然本気じゃないよ。
速度と正確さを磨くために集中はしていたけどね。
まぁ、瞬殺は否定しないよ。」
「アタシもそこに至れるのだろうか?
主の目指す場所はもっと高みなのだろう?」
「ああ。
能力玉さえ手に入れて、効率の良い訓練さえすれば誰でも俺のようになれるよ。
もちろんカナンにはなってもらはないと。
いや、もっと上を目指して欲しい。」
「能力玉の吸収が楽しみだな。
落ち着いたらするのだろう。
…アタシは早く強くなって主の力になりたい。」
「ありがとう。
じゃあ家具の設置が終わって片付いていたら、今夜にでも一つ吸収してみようか。
もちろんリサとアリアもだけど。」
「ああ。では片付けを頑張らねばな。
……今夜かぁ。楽しみだな、主。」
俺は言えなかった。
能力玉の吸収が苦痛を伴うことを。
今回は大玉は無いが中玉がある。
しかも身体・中玉だ。死ねるほど痛いだろう。
この子はどんな声で鳴くのかな?なんてクズなことを考えているとアリア、リサが帰ってきた。
家に入り自分たちで持ち帰った家具を設置していると家具屋の店員が家具を持ってきた。
かなりでかい収納袋を4つで運んできたらしく、こんな大口は久しぶりですよ。といい笑顔で話してくれた。
指定した場所に家具を出してもらい調整していく。
俺の部屋は15畳ほどある広々した部屋なので、ベッドのサイズはダブルにした。
3人娘のベッドのサイズはセミダブルだ。
部屋の大きさは同じだが今後住人が増えるかもしれない。
今は1人一部屋だが相部屋を考えて部屋の家具は買ったらしい。
殺風景だった部屋にカーテン、ベッド、タンス、本棚、机、椅子など設置すると一気に生活空間が出来上がる。
今日からここが俺の部屋か。
ミルド邸の客室には長くいたので最後の方は自室のように落ち着いたが、ここは自分の気に入ったものしか置いていない。
すでに心が落ち着く場所だ。
リビングにローテーブルを囲むように4人掛けのソファ2つと2人掛けのソファ2つを設置。
10人は座れるようにした。
壁際にはサイドボードを並べて収納場所を作っていく。
ダイニングにはすでに10人ほどが食事できるテーブルがあったのでそのまま利用する事にして椅子を並べていく。
壁際にアリアが選んだ食器棚を3つ並べて大物の設置は完了した。
そこにアリアが買ってきた食器を収納していく。
カナンの姿が見えないが多分風呂掃除してるんだろう。あそこはアイツの聖域らしい。
リサは自室の家具の設置が終わってからはずっとキッチンに篭り購入してきた調理器具や調理魔道具と格闘している。
俺は手持ちぶたさになったが皆は忙しそうだ。
家具屋の店員は家具の設置が終わったら嬉しそうに帰って行った。
もう今日からこの家に住めそうなので、ミルドに今日までお世話になったお礼を言いに行こう。
そう決めて、アリアに、少し出てくる。今日の晩御飯は外食にする。
と告げてミルド邸を目指した。
同じ内壁門の中だ。
ミルドの家の方が奥にあり立地はいいけど。
ミルド邸から新しい家までは徒歩で10分ほど。
俺が走れば数十秒でつく。
ミルド邸の門をくぐり、玄関ホールでメイドを見つけたのでミルドに会いたい旨を伝える。
すぐにスチュワートが出てきてミルドの私室に案内された。
今日もミルドは大きな机に書類を広げて格闘していた。
しかし俺が入ると立ち上がりソファに座るよう勧めて自身も腰を下ろす。
軽い挨拶を交わしたあと
「お忙しいのにすみません。
仕事は大丈夫ですか?もし不味ければ待ちますよ。」
「大丈夫ですよ。
仕事をしているフリですから。
ところでどのような要件でしょうか?」
「実は今日から新しい家に暮らすことになりました。
なので今までお世話になったお礼とその報告です。」
「もう引っ越しが終わったのですか?
あと2、3日はこちらにいると思っていたのですが…。
場所は内壁門の内側の塀が高く、庭が広い屋敷ですよね。」
「そうです。あの家を知っていたのですか?」
「ええ。知っていますよ。
私も買おうとしたのですがね。
屋敷の広さと馬車を置く場所がないのでやめました。
ですが馬車が必要のないヤマダさんには良い物件ですよ。立地もいいですしね。」
「まぁ。私には過ぎた物件だと思うのですが3人がいますからね。
あまり窮屈な暮らしをさせたくないですし。
これからも増える可能性があるので思い切って買ってしまいました。」
「ヤマダさん実力を隠さなければこの街の領主の館でも不足していますよ。それ程のお方です。」
「いえいえ。
持ち上げすぎですよ。恐縮しちゃいます。
……ミルドさん本当に今日までありがとうございました。
これからもまだまだお世話になるのですが1つの区切りとしてお礼を言わせてください。
あとこれをミルドさんに預けます。
俺が持っていても収納袋の肥やしになるだけですので。」
そう行って俺は腰から下げていた巾着袋を差し出す。
ミルドはその巾着を取り中から金貨を取り出した。
「これは……。この巾着いっぱいにこの硬貨が入っているのですか?」
「ええ。銀貨と金貨が500枚程ずつ入っています。
ミルドさんの役にいつか立つかもしれないです。
ミルドさんではなくてもミラさんや他のお子さん。
私は元の世界にいつか帰ります。
必要ないのです。
これは私の気持ちです。
ミルドさんに受け取ってもらいたいのです。」
「……わかりました。お預かりします。
ですがヤマダさんがこの世界にいる限りこの硬貨はヤマダさんのものとしておいてください。
ヤマダさんが元の世界に帰った際、私が貰い受けましょう。それでいかがですか?」
「ええ。それでお願いします。
本当に今日までありがとうございました。
またすぐ遊びにきますし、新しい家に遊びに来てください。ミラお嬢も連れて。」
「ええ。必ず行きますよ。ミラは…私が連れて行くのかわかりませんが。
今後ともよろしくお願いしますね。」
「ええ。今後ともよろしくお願いします。」
そう言い合ってミルドの私室を後にした。
帰り道には陽が傾き後2時間ほどで陽が沈むことがわかった。
晩御飯は適当な店に入って済ませよう、と考えながら家に着くとミラのメイドが姿を見せた。
「おかえりなさいませ。ヤマダ様
本日よりお嬢様共々よろしくお願い致します。
今お嬢様はカナンさんと入浴中です。
終わり次第ご挨拶に伺わせます。」
「は?今なんて言ったの?」
「詳しい話は後ほどお嬢様からしていただきます。
すでにヤマダ様の隣の部屋に家具は運び込んでありますのでお気にせずに自室でお寛ぎ下さい。」
俺は死んだ魚のような目になり自室にこもる。
そしてこれからの日々、貞操の安全は無くなりつつあることに絶望していくのだった。




