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3話 部屋と巾着とわたし

 

 クリスタルとの激戦で負傷した足を引きずりながら俺は真新しい扉のノブに手をかけた。


 いざ約束の地へ〜と意気込みながらノブを回すとガチャリ、となんの抵抗もなく回り、鉄扉はほぼ自動的に奥へと開かれた。


 その場所は今までいた、むき出しの洞窟のような岩場の壁と違い、綺麗に整えられ整地もされた部屋だった。


 それに明るい。しかし見たところ部屋の中には窓はなく壁に等間隔に置かれたランプのようなものから明かりが灯っているのがわかる。


 部屋の広さは少し大きめのリビング程度だか椅子やテーブルなどはなく、ただ壁沿いに棚があるだけ。

 部屋の隅には大きくはない木箱が2つ並んでいる。


 壁の棚には見たこともない文字の掘られたソフトボールくらいの玉数点や宝石のついた何かの道具が数点、服や靴など数点が十分な間隔をあけて並べられている。


 僅かに埃が溜まっているが綺麗好きの日本人が見ても不快に思わない程度には綺麗にしてある。


「誰かの私室なのか?倉庫に見えなくもない。」


 つまり不法侵入だ。でも、あれだけ叫んで騒いでも誰もこなかった。つまり直ぐには戻ってこないだろう。


 何せ俺は疲れていた。つーか足が痛い。


「どっこいしょ。…いつっっ」


 俺は木箱に腰掛けて、痛む右足をさする。

 声を出しすぎて喉も渇いていたので、スーツケースから機内持ち込み用のバッグを取り出し、中に入っていたミネラルウオーターを飲んだ。


「ふぅー。しかし、どこだよ。ここ」


 少し落ち着いた俺は木箱に腰掛けたまま、自分の置かれている状況を確認する。


 早朝、駅へと向かう途中に躓いたら突然知らない場所にいて、クリスタルに触ったら奥の部屋に行けるようになった。


 改めて周りを見るが自分が入ってきた扉以外には扉は見当たらない。かわりに棚があり十分なスペースを持って色々なものが整理され置かれている。


 宝石のついた道具、ソフトボールくらいの玉には、何やら文字のようなものも見えるが全く読めない。アラビア文字に何かの記号をつけたような見たこともない文字だった。


「まぁ、ひとつずつ調べていくしかないよな。」


 俺は立ち上がり痛む足を引きずりながら、一つずつ見ていくことに決めた。勿論触ったりはしない。さっきのクリスタルで痛い目を見たからな。


「………おっ。」


 綺麗な宝石のついたいくつかの道具のようなものを見終わり玉を見ていたら一つだけ俺の読める文字で書かれた玉を見つけた。

 でも日本語でもないし、英語でもない。だがなんと書かれているのかは理解できる。そんな不思議な文字だった。


(世界の真理・大)


 怪しすぎるだろ。これ。

 迂闊に触れねーよ。つーか真理ってなんだよ。


 俺は見なかったことにして、他のものをどんどん見ていく。


 棚のものは見終わり、自分が腰掛けていた木箱に目を向ける。


「一応見て見るか。」


 木箱は蓋を持ち上げれば簡単に開く仕組みになっていた。

 蓋を取る前に「死体とか生首とか入ってたらどうしよう。」とバカな想像をしてしまい、俺はかなりビビりながら蓋を取る。


「……おぉ!」


 中には見たこともないデザインの金貨、銀貨がそこそこな量入っていた。

 俺はお金が大好きだ。嫌いな人は少ないと思う。ただしこの金貨のデザインは見たことないな。

 片面は全部木のモチーフが彫ってある。もう片面は結構種類があるし。

 俺は金貨を手に取りまじまじと魅入ってしまっていた。


「………はっ。

 決して触るつもりはなかったのに…。やはりお金の魅力は凄まじいな。

 俺の鉄の意志を曲げさせるとは…」


 とか言いながらかなりの時間お金を見て楽しんでいた。しかも隣の木箱は未だ見ていない。

 否が応でも期待は高まる。隣も金貨なのか?そうなのか?と。

 俺は恐る恐る蓋を持ち上げ中を見る。そこには


「なんだこれ?袋?」


 中は背嚢と思われる大きめの袋と腰から下げられるくらいの巾着のようなものが入っていた。

 俺は硬貨に触れて気を大きくしていたのだろう。

 おもむろに手にとって広げて見た。

 うん。ただの袋だわ。

 もしかして中に何か入っているのか?と思い巾着袋の入り口を広げ中を覗き込む。


「え?なにこれ中が見えないんだけど…」


 不思議な巾着袋だった。

 中を覗き込むとそこは真っ黒な空間で底が全く見えない。もしや、と思い背嚢の方も見てみると全く同じ。中は真っ黒な空間で底が見えない。


 部屋にあるものに手を触れないようにしてきたが、一度金貨に触れてしまい、袋を広げて確認した俺の好奇心は止めることなどできなかった。


中に何か入れてみたいな…。


 いきなり自分の指を入れるような愚かな真似はしない。

 この部屋にそこそこあって少し減っても持ち主にバレなさそうなもの……金貨か銀貨だ。


 おもむろに一枚銀貨を隣の木箱から取り出して巾着袋の中に落としてみる。

 スッと音もなく吸い込まれるように巾着の中に入っていった。

 中を覗くも先程と変わらず真っ黒な空間しか見えない。もう一枚…スッ。もう一枚…スッ。音すらしない。


 怖えぇ。なんだこの袋。逆さに振っても出てこない。

 もしかして永久に取り出せないのか?というか容量どーなってんだよ。俺の好奇心が疼く。

 普通に考えれば多分木箱の硬貨は巾着の20倍くらいある。


「全部入るのか?」


 これは試すしかない。

 まぁ出てこなくても俺んじゃねぇし。硬貨も巾着もこの部屋の人のだし。

 俺は黙々と硬貨たちを巾着に入れていった。


 硬貨の入っていた木箱の底が見え始めるが巾着に変化はない。

 残り10枚ほどまで減り次になにを入れようか考えながら硬貨を落としていると。チャリーンと巾着から弾かれて金貨が床に落ちた。容量を超えたのだ。

 俺はよくわからない達成感一杯になりながら巾着の中を覗く。


 そこには真っ暗な空間があった。


「なんでだよ!なんで硬貨が一枚も見えないんだよ!」


 俺は今まで巾着の中に硬貨を落としていた。

 しかし今度は金貨を持ったまま巾着の中に押しつけるように入れてみた。グッ。


「入らねえ。力が足りないのか?そうなのか?」


 俺はさらに力を込めて金貨を押し付ける。

 グググッ…。少しだけ入ってる気もするが手を離せば弾かれるだろう。

 つーかなんて頑丈な巾着なんだ。

 グググッ…。…。はぁ。無理だ。


 俺は硬貨から手を離し天井を仰ぎみて脱力した。

 その時、指先が巾着の中に入っていることに気づいた俺は慌てて手を引く。指先はちゃんとある。

 硬貨一枚入らないのに指先4本入るって何?

 俺は恐る恐る巾着の中に手を入れた。


 すると漠然としてだか金貨と銀貨が入っていることが理解できた。俺は金貨3枚と考えながら手を引き抜くと手の中には金貨が3枚握られていた。


「そういうことか。4次元ポ◯ットね。」


 某、超高性能未来ネコ型ロボットが腹に引っ付けているあれだ。これはとんでもないものだぞ。

 金貨や銀貨なんてもんじゃない。

 世界をひっくり返せるとんでも袋だ。


 でも俺んじゃない。盗みはダメ、絶対。

 俺は元に戻すべく金貨、銀貨を木箱に戻していく。

 少しくらい持って帰りたいなぁ、とか思ってもダメ絶対。なるべく他の事を考えながら作業を続けた。


 しかし4次元◯ケットは素晴らしい。もし実用化したら世の中の物流が変わる。

 というか失業者で溢れる。世界経済がおかしくなる。やっぱり素晴らしくないな。ヤバイやつだ。


 なんて事考えながら棚を見ていたら一つの玉(世界の真理・大)から目が離せなくなった。



 俺は膨らみ続ける好奇心を止めることができなくなっていた



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