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28話 悪魔の選択

 

 "ミルドの魔道具屋"の査定部屋で背嚢型収納袋の中身をかなり売りつくすことができた。


 未だ残っているのは(罠の迷宮)のダンジョンコア、各種能力玉、現在流通していない硬貨、結界の魔道具4、魔物除けの魔道具、盗聴防止の魔道具、低層迷宮のダンジョンコア2、恩恵付きの衣服多数、恩恵付きの武器数点、魔導兵器、収納袋5、流通硬貨、食料、元の世界の持ち物だ。


 それ以外はすべて放出した。

 低層迷宮のダンジョンコアも1つは買い取ってくれるらしいし、オークも売った。

 あの後の迷宮でも1匹ずつ討伐したので計3匹だ。


 それと驚かれたのはダンジョンマスターの魔石だ。

 特に人狼の魔石は高値がつくとのことでニヤニヤが止まらない。

 通常の魔石もなるべく倒さないようにしていたのだが400個近くあった。

 あと魔道具もかなりあったので必要なもの以外は全て出した。


 ミルドにはお世話になっているので通常より安くで引き取ってくれと伝えてある。

 これだけのものを一気に買うとまずいとのことなのでオークや、ある程度の魔石、数点の魔道具を直近で買い取ってもらい、あとは保管して少しずつ買取してもらう方針だ。


 大量に流通すると魔石や魔道具の価値が下がってしまうので市場を見ながら買い取ってくれるらしい。


 こちらはちょっと大きい家とそれに付随するものくらいしか大きい買い物の予定はない。

 ミルドに聞くとそれくらいなら2つは買えるお金を今回は渡してくれるそうだ。

 初回だから多めに買い取って流通されるらしい。


 さすが迷宮踏破者報酬。でも迷宮4つも踏破しているんだから当然といえば当然らしい。


 低階層でも踏破を目指す場合4人〜8人程で挑むらしく、そこで傷ついたり、死亡したりすることもあるのだ。

 潜って、探索して、戦闘してを繰り返し10日ほどかけて踏破出来ればまだいいが途中撤退だと大赤字になるんだそうな。


 だがこの世界では一年で平均30個ほどの低層迷宮が踏破されており、踏破報酬の魔道具や、恩恵付きの衣服、恩恵付きの武器などは高価だが流通するし珍しくはない。


 50階層の迷宮は年に2つか3つしか踏破されず、80階層になると40年踏破されていなかったそうだ。


 俺はミルドと共に3階に上がる。

 能力玉を見ていない。以前は言語理解・小玉のみしか見ていないので他の種類が見てみたかった。


 棚には5つの能力玉・小が並んでいる。

 文字が小さくてよく見えない。

 マリちゃんナビにお願いすると、収納、魔力操作、身体、生活、言語理解が並んでいるらしい。


 もしかすると3人娘たちに与える能力玉が魔力操作が1つ足りないかもしれない。

 しかし魔力操作のユニークの可能性もある。

 魔力操作のユニークは魔力を持っていないので発現しないし、わからない。逆はないらしい。

 補助や魔力を持っていると少なからず発現できるので時間をかけて少しずつ魔力操作を身体に覚えさせるのだ。


 他の場所も見てみると恩恵付きの武器が並んでいた。

 威力上昇シリーズ、毒シリーズ、無音シリーズ、超硬シリーズ、光シリーズ、麻痺シリーズなどシリーズごとに分かれていた。

 人気は威力上昇シリーズらしい。

 意味のなさそうなものもある。

 光の剣とか光るだけで威力アップもないらしい。


 よく見ると全てに魔石がついていてその魔石の恩恵でシリーズが決まるらしい。

 何故か交換する必要もなく、半永久的に使えるとの事。

 自作できないのか聞くと出来なくはないが耐久性が悪く魔石の交換が出来ないので迷宮恩恵には遠く及ばないらしい。


 その中で人間が作り出した魔石付きの武器が魔導兵器というらしい。

 これは耐久力もそこそこあり、魔石の交換もできる。 迷宮に挑む冒険者は未だに使い勝手の良い弓を使うが、戦争は専らこれが主流でいかに数を揃えるかが勝敗の分かれ目になるんだそうだ。


 そういや1つだけ迷宮から魔導兵器が出たな。

 なんか恩恵でもついてるのかな?と思いミルドに言うと、是非とも少し見せてくれと拝まれて背嚢型収納袋から取り出して渡した。


 しばらく舐め回すように見ていたがよくわからなかったようなので少しの間貸し与えることにした。

 必ず返す、と大喜びのミルドを見て、今日はいいことしたな、と一日一善が実践できて俺も嬉しくなった。


 そろそろ3人娘も戻って来る頃だろう。

 ミルドと共に馬車に行くと3人とも戻っている気配はない。

 ミルドにお店で待ってもらい俺は3人が入っていった近くの服屋に入った。


 そこにはファッションショーさながら服を取っ替え引っ換えしているアリア、それをげんなり見つめているカナン、リサの姿があった。

 俺は嫌な予感を感じつつ3人に近づき声をかける。


「楽しんでいるようだね?もう決まった?」


「あっヤマダさん。まだ決まらないのよ。

 この服とこっちの服どっちがいいと思う?」


 きたな。悪魔の選択。

 どちらを選んでも不正解で機嫌を損ねる。

 だが適当なことを言っても機嫌を損ねる。

 しかし俺は妻とのデートで攻略法を編み出している。

 答えはこれだ!


「アリアにはどちらも似合うけど、こっちの方がよりアリアを可愛く見せてくれると思うよ。」


 キタコレ。完ぺきだ。

 俺はドヤ顔でアリアに告げると


「え?どう考えてもこれでしょ。センスないわね。

 もうヤマダさんには聞かないわ。

 乙女心が分かってないんだから……。」


 と言って他の服を会計し始めた。

 くそ!始めっから決まってんなら聞くんじゃねーよ!

 どうせ俺はセンスのかけらもない男だよ!


 そのやりとりを見ていたカナンがあたし達にも同じ事を聞いてきた、と愚痴りはじめ、となりのリサも頷いている。

 俺は2人に、もうアリアと洋服を買いに行かないように告げてアリア達を置いて店を出て先に馬車にもどってきた。


 はぁ。これから大変そうだな。とため息をついていると収納袋を持ったカナンとリサ、遅れてアリアが馬車に入ってきた。

 その顔は年相応に笑顔も見えて楽しそうだ。なんかキャピキャピしている。


 ミルドを呼びに行っていた御者がミルドと共に戻ってきた。外はすでに夕暮れだ。

 帰宅を急ぐ人で大通りも混んでいる。

 今日は朝から疲れたな。

 何て考えながら馬車に揺られてミルド邸への帰路についた。



 ミルドの屋敷に到着し奴隷の3人娘は1つの客室に泊まってもらうよう指示を出す。

 ここはミルド邸なので申し訳ないが夕食も別で室内で食べてもらうことを伝えた。

 特に気にする事もなく了承した3人を見送り俺も自分が使っている客室に入った。


 屋敷に入る際スチュワートからあと1時間ほどで夕食です、と伝えられた。

 ミラの帰宅がまだらしい。

 今のうちに風呂でも入るか…。


 ミラのいないうちに風呂に入ってさっぱりしよう。

 思い立ったが吉とばかりに部屋を出てスチュワートに風呂に入る旨を伝える。

 着替えを持って風呂場に向かう。

 その際3人娘の部屋の前を通ったが何から姦しい声が聞こえたので無視をした。


 風呂場で体と頭を洗う。俺の順番は頭、体だ。

 上から順番に洗っていき頭から一気に流す。

 これが一番効率が良い。

 さっぱりして湯船に浸かり最近の忙しさを呪う。

 ……明日は家か。

 その前にミルドの店に寄らないと金がない。

 なんて考えているうちに湯船で寝てしまった。


 …何やら騒がしいので目を覚ますと風呂に浸かったままだった。

 そうだ、俺風呂に入って寝ちまったんだ。でも少し寝たからスッキリした。

 などと考えているとどんどん騒がしくなってくる。

 嫌な予感しかしない。


 俺はゆっくり振り向いて入り口を見るとカナンが浴室に入ってきた。


「おい!カナン!入ってるぞ!

 俺はもう上がるから入ってくるな!」


 俺は急いで体ごと目をそらした。

 しかし気にせず洗い場に入ってくる。


「おっ。主。入ってたのか?

 気にするな。アタシは大丈夫だから。」


「え?ヤマダさんがいるの?

 こうゆう場合奴隷ってどうするのよ。

 一緒に入った方がいいの?」


「私は知らないです。

 でも以前働いていたお屋敷ではお風呂に不定期に呼ばれて背中を洗う事もありました。

 その時タオルしていたら怒られるんですよ。」


「えぇ?タオル禁止なんだ。

 私はさ、その、人より…少し大きいから恥ずかしいのよね。タオル無しだと…。」


「アタシはタオル無しでも平気だな。

 つーかアリアはでかいな。

 スイカでも入ってんのか?」


 ……なんて会話してやがるんだ。生殺しなんてもんじゃねーぞ。


「俺とは一緒に入らなくていい!これからもだ!

 俺は風呂は一人で入りたいんだ!

 それより入り口から離れて洗い場に行ってくれ。

 そこにいられると俺がいつまでも出られない。

 タオル持ってるなら前も隠しておけよ。」


 俺の言葉を聞いていそいそと洗い場に移動する3人、俺は背を向けているが索敵魔法で動きがわかる。


 3人が洗い場に移動したのを確認して風呂を出ようとしたところ自身に違和感を感じる。

 先程まで寝ていた。ここ1ヶ月ご無沙汰。導き出される答えは……。

 絶対に見られてはいけない姿に変身していた。


 俺は何とか前を隠して脱衣室にいく。

 ちらりと横目に見えたのはなぜかタオルも巻かず、こちらを向いて仁王立ちしているカナン。

 あいつバカなんだろう。

 眼福、眼福。と心の中で唱えながら、脱衣室に逃げ込むことができた。


 濡れた体を手早く拭いて服を着る。

 少し落ち着いたところで脱衣室を出て廊下を歩いているとスチュワートに会う。

 夕食の準備ができたらしい。そのままダイニングに向かった。


 ダイニングにはミルドとミラ、ミラの後ろに付き添いのメイドが待っていたので遅れたお詫びを言いながら席に着く。


「遅れてすみませんでした。

 疲れていたのかお風呂で寝てしまいました。」


「いえいえ、ではいただきましょう。」


 俺は心の中でいただきます、と行ってから食べ始める。


 向かいにはミルド、1つ椅子を開けてミラが座っている。

 ミラは目が見えないがとても綺麗に食べる。

 こぼしたりはしない。俺の方がこぼす。

 恥ずかしい限りだ。

 しかし今日のミラはいつもより綺麗だ。

 ん?化粧してる?服も少しセクシーだし。何でだよ。

 後ろに立つメイドを見ると目があった。

 わかった。犯人はメイドだ。ヤスじゃない。


 俺はメイドのドヤ顔を無視してミルドと話し酒を飲む。

 すると普段はあまり飲まないミラが飲みたいと言ってきた。


「ミラお嬢は明日も審議官の仕事でしょう。

 今日は控えた方がいいんではないですか?」


「いいえ。ヤマダさん。

 確かに明日も仕事ですけどヤマダさんと楽しい食事をもっと楽しくしたいのです。

 少しくらいはいいでしょう?」


 くそ!色っぽいな。

 ここは軽くジャブを打っておくか。


「ええ。でしたら私が注ぎましょう。

 ですが私は本日あまり飲めないのですよ。

 実は明日の朝から家を見に行かなくてはならなくて。」


「え?家ですか?どうして?」


「いつまでもミルドさんに甘えるわけにはいきませんしね。

 ミラお嬢の勧めてくれた奴隷も本日購入して来たのですよ。なので自立しなければ、と。」


「……どのような方を購入したのですか?」


「素直で理解力のある人材を探していたのですが3人も見つかったのですよ。

 皆それぞれに癖はありますが素直でいい子達です。」


「……いい子?一緒に住む?ここを出ていく?」


 フォークを握るミラの手が青白くなって震えだした。

 ミルドを見ると頭を抱え言葉を発さない。

 やべぇ。地雷踏んだっぽい。


 ミラの後ろに立つメイドが一生懸命ミラの耳元で何かを話しながら両肩をさすっている。

 俺は急いで弁明する。


「別に変なことはしないですよ。

 本当に迷宮踏破を目指す仲間みたいなもんなんです。

  ミラお嬢には心眼でわかっているじゃないですか。」


 俺の言葉とメイドの言葉どちらが効いたのかはわからないがミラの怒りは収まった。

 ふぅー。危ねぇ。


 わざとではないとしても女の子を嫌な思いにさせてしまったのには違いない。

 俺は真摯に謝ることにした。


「別にミラお嬢に秘密にしていたわけでも、嫌がらせをしたわけでもありませんが、不快な思いをさせてしまったことは謝ります。

 すみませんでした。」


「ええ。

 私も聞かなかったし、それはお互い様ですよね。

 ヤマダさんが家を買ったら遊びに行ってもいいのかしら?どんなお家に住むのが興味があるので。」


「ええ。いつでも好きな時にいらして下さい。

 歓迎させていただきますので。」


 そう行った瞬間、ミラとミラのメイドが小さく拳を握ったように見えた。

 気のせいだと信じたい。

 そんなやりとりを見ていたミルドはずっと頭を抱えていた。


 ハードな食事を終えて自室に戻る。今夜はやばい。

 そんな幻聴がずっと頭の中で響いている。

 多分マリちゃんだ。


 俺は寝る前に結界の魔道具を設置して、掛け布団の中に隠した。保険だ、保険。

 そして疲れ切った俺はいい匂いのするベッドに潜り込み目を瞑った。



 夜中、物音に気がついて目が覚める。

 部屋の明かりは消えており、あたりに何も見えない。 しかし物音は聞こえる。

 俺は寝たふりを続けながら索敵魔法を放ちあたりを探る。

 いた!俺のベッドのすぐ脇に2つの反応がある。

 結界の魔道具のお陰で入ってこれないのか……。

 多分認識阻害のローブを羽織ってるんだろう。

 間違いなく犯人はミラとメイドだ。


 ……こいつら諦めが悪い。

 どこかに穴がないか俺の周りをウロウロしていて気味が悪い。

 俺は知らぬ存ぜぬを突き通すことを決めて2度寝することにした。

 こうして俺の貞操は守られたのだった。



 翌朝目を覚ますと二人はすでに消えていたので結界の魔道具を解除して朝食を食べにダイニングに行く。

 途中3人娘の部屋の前を通ったので朝食を食べたら出発するから準備をするように言う。


 ダイニングではミルドだけが朝食を食べ始めていたので挨拶をした。


「ミルドさん、おはようございます。」


「おはようございます。ヤマダさん。

 昨夜は大丈夫でしたか?

 ミラが起きてこないので何かしらの行動はしたはずなのですが?」


「ええ。一応結界の魔道具を使って寝たのですが夜中に一度侵入してきましたね。

 認識阻害のローブを羽織って。

 しかし結界が越えられずに諦めて自室に戻ったようです。

 私はその間ずっと寝たふりを続けておりました。」


「ったく。あいつは。

 すみませんね、ヤマダさん。

 あんな奴でも私には愛する娘なのです。

 どうか嫌わないでやって下さい。」


「そんな。嫌うなんてありえませんよ。

 誰かから好意を向けられるのは嬉しいですしね。

 ただ私は家庭がありますから。

 ……そうだミルドさんに聞きたいことがあったのです。

 家を売ってくれる商人を紹介してもらえませんか?

 ミルドさんにわざわざ付いてきてもらうのも忍びないので、自分で直接向かいますから。」


「紹介状ということですね。すぐに準備させます。」


「あと夕食後よろしくお願いします。

 本当に限界なので…。」


「ええ。そちらはすでに手配してあります。

 夕食を食べて向かいましょう。

 それと昨日の買取のお金は店に用意してあります。

 私の店から家を売る商人の店も近いので先に寄って下さい。」


「何から何までありがとうございます。」


「お礼を言うのはこちらの方ですよ。

 あんなにいい魔石や魔道具を売っていただいたのです。ありがとうございました。」


 その後もミルドと楽しく朝食を食べた。食後に休むことなく3人娘の部屋と向かい準備が終わっていることを確認すると、家を購入するためにミルドの屋敷を後にした。




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