19話 世界樹の場所
ミルドに大事な話がある事を伝えたところ夕食後に時間を取ってくれることとなった。
その際ミラにも同席を願う。
ミラとも信頼関係を築けているし、俺の話を聞いて真実だと証明出来る心眼持ちだからだ。
その日の夕食は3人とも言葉少なく僅かなアルコールで食事を終えてミルドの私室に向かう。
ミラは目が見えないのでいつもは付き添いのメイドがいるが今日はミルドが手を引いて案内をする。
娘の手を引くのは久しぶりだと言ってミラが顔をしかめていた。
ミルドの私室に3人で入り、盗聴防止の魔道具をつけて3人が座り落ち着いた頃に俺から話し出す。
「わざわざ時間を取ってもらってすみません。
今日は自分が今まで秘密にしていた事を話したいと思います。
何故今まで秘密にしていたかと言うと、自分にはやるべき事があり、その達成のために行動しているからです。
そして勝手なお願いになりますが、これから話す事を聞いた暁にはミルドさんに協力していただきたいのです。
これは言っておきますが自分のするべき事は悪事ではなく誰かを殺したり不幸にする事はありません。
ミルドさんどうしますか?」
「えぇ。ヤマダさんのやるべき事が悪事であったり、誰かを殺めたり、故意に誰かを不幸にする事でなければ協力は惜しみませんよ。
それほどの強い縁を私は感じていますので。」
「ミルドさん有り難うございます。
そしてミラお嬢には他言無用を誓って頂きたい。
これから話す事は突拍子もないことです。
信じてもらうにはミラお嬢の心眼の力が必要と考えましたが他言されるのであれば席を外して下さい。」
「他言無用を誓うわ。
私は審議官だから嘘を吐く事を禁止されているの。
今日この場で聞いた事は誰にも言わない。」
「ミラお嬢有り難うございます。
ではまず、私がこの世界とは違う世界から転移してきた事を知ってください。
私は何者かに異世界転移で連れて来られたのです。」
「「は?」」
「ミラお嬢どうですか?私は嘘を吐いていますか?」
「嘘は吐いていないわ。事実なのね。」
「はい。事実です。
私は前の世界、地球という星の日本という国で生まれ育ち、仕事をして、結婚して、子供も授かり順風満帆に生活していました。
その世界は魔法も魔物も魔石もない、科学という分野で成長した世界です。
仕事の都合で少しの間、家族と離れて暮らすことになり、その日の朝にこちらの世界に転移させられました。その場所は[罠の迷宮]の最下層ダンジョンコアのフロアでした。」
「「は?」」
「そこでダンジョンコアに触れてしまい私は[罠の迷宮]の踏破者になりました。
そしてそこで様々な能力玉、魔道具、硬貨を手に入れる事が出来たのです。」
「すみません。
話が想像以上でして、上手く頭が回りません。
つまりヤマダさんは迷宮の単身踏破者で報酬もお持ちという事ですか?」
「はい。
最初に習得したのは(世界の真理・大玉)です。
この能力は自分にしか聞こえないのですがこの世界[アマルテア]の知識、情報を教えてくれる事です。
この能力玉を習得していなければ私はすぐに死んでいたでしょう。
この世界に来て私の行動は常に(世界の真理・大玉)と相談して決めて来ました。
本日話をする事も相談して決めた事です。」
「世界の真理・大玉…。さすが特殊玉ですね。
とんでもない能力だ。
習得した人に最善の行動をさせるとは…。」
最善とは言ってないのだが…、時々ミスるし。
まぁほぼ合ってるので訂正はしない。
「[罠の迷宮]の踏破者報酬には6つの大玉があり、そのうちの5つは習得しました。
能力は世界の真理、身体、魔力、魔力操作、生活の5種類です。」
「…大玉5種類ですか。
しかも身体、魔力、魔力操作はとんでもない力ですね。
この国では闘技会が3年に一度行われますが、前回優勝者は身体・中玉、魔力・中玉、魔力操作・大玉、補助・小玉の魔導騎士ルミナス様でした。
それは圧倒的な強さで、ガアラ帝国の竜血将軍バルサ、カリスト王国の殺戮王子ジークと同等の又はそれ以上の強さと聞いております。
その方の能力を遥かに凌ぐとは。
ん?1つ大玉を使っておりませんね。
何か理由でも?」
「実は生活玉が2つありまして。
1つは習得したのですがもう1つは余っています。
長いことこちらで厄介になっているので後でお譲りしますよ。」
「いやいや。ハズレと言えども大玉など殆ど市場には出回らない希少品です。
それを宿代として貰うわけにはいきません。
先日の硬貨と違い所持していても怪しまれる事はないのでちゃんと買い取らせて下さい。」
「わかりました。
実は硬貨はたくさん持っているのですが使えるお金が少ないので助かります。
あと踏破者報酬の魔道具も数点ありますし、衣服も数点あります。鑑定を持っていないので誰かに鑑定して貰いたいのですが…」
「私が鑑定・小玉を吸収しています。
ですが詳しい効能などはわからず、真贋と名前くらいしかわからないのですよ。」
「名前がわかれば(世界の真理・大玉)の知識と情報閲覧で調べられます。
ですが正式名称が分からなければ調べられなかったので名前を教えていただけるだけでも助かります。」
「では後ほど鑑定致します。
それで[罠の迷宮]踏破者のヤマダさんはこの先何をなさるおつもりですか?国を起こしますか?」
「私の願いはただ一つ"元の世界に、家族の元に帰る"です。
これは世界の真理からの情報ですがこの世界には世界樹と呼ばれる巨大な樹があり、その根元に(真理の迷宮)があるそうです。
迷宮規模は世界最大でその踏破報酬を手に入れる事が今現在、俺が元の世界に帰還できる唯一の手段となっています。
俺は元の世界に帰れる事だけが目的です。
この世界での富、名声、栄光などは一切興味はありません。
もし協力してくれれば元の世界に帰るために必要な能力玉以外の踏破報酬は全て協力してくれた人たちに譲るつもりです。
どうか俺のスポンサーになって帰還に協力して下さい。お願いします。」
「…世界樹の根元の(真理の迷宮)ですか。
噂には聞いたことがあります。
これでも商人なので世界の各地を回ったことは何度もあります。
遠くからですが世界樹も見たことはあります。いや、この世界の住人なら誰しもが見たことはあるのでしょう。
ですが今まで誰もその世界樹にすらたどり着けていないのが現状です。
我々が世界樹に辿りつけるのにはあと100年はかかると言われています。」
「ノーパンくんは世界の真理から大事な事を聞いていないわね。
私は目が見えないから直接見たことはないけれど話くらいは知っているわよ。
世界樹は空に浮かぶ最後の楽園……だそうよ。」
「え?空に浮かぶ?世界樹はこの地に根付いているのではないのですか?」
「そういえばヤマダさんは全く夜に外出しませんね。
でしたら見たことがなかったのかも知れません。
今夜あたり見えるのでは無いでしょうか。
少し外に出て見ましょう。」
そうしてミルドは盗聴防止の魔道具を解除してミラの手を取り部屋を出て行く。
俺もそのあとに続き3人で屋敷の庭を目指す。
2人の先程の口ぶりを聞いて俺は嫌な予感がしていた。
魔道具により、かなり発展した文明なのに世界樹に行くのにはあと100年かかる。
空に浮かぶ最後の楽園。……もしかして。
暗くなった庭に出て、空を見上げると月のように空に浮かぶ歪な衛星が目に入った。
その姿は巨大な樹が星全体に根を張っている。
まるでその星のエネルギーを余すことなく吸い取ろうとしているように。
「今夜はよく見えますね。
ヤマダさんあれが世界樹です。」
ミルドは優しく諭すように、空に浮かぶ存在の名前を俺に教えてくれた。




