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17話 ミルドの魔道具屋

また少し長めです。

当分この長さで行く予定です。

 

 魔道具屋についた俺は早速、能力玉を探して店内を歩き回る。


 閉店間際なのに店内には複数の客がいて、店員らしい人と話している。


 一階を見終わるが能力玉は見当たらない。

 3階までが店舗のようだ。俺は2階に足を進める。

 2階も見回ったが見つからず3階に上がった。


 そこは上客向け専用のフロアなのか床がフカフカの絨毯で、高級感がある。

 壁には棚があるが魔道具の結界が張ってあり直接手に取ることは出来ないようだ。

 俺が3階に登る際一人の店員が付いてきていた。


「(お探しの魔道具が御座いますか?

 お手伝い致しますので直接手は触れないで下さいね。大変高価な魔道具が展示してありますので。)」


 俺は頷き返して目当ての能力玉を探す。

 フロアの奥にゆとりを持って並べられた玉が数個ある。かなり小さい。大きさはビー玉くらいだ。

 そちらに足を向け、棚の目の前で足を止めてマリちゃんからの説明を聞く。


(ここにあるのは全て小玉ですね。

 この玉は掌で握りつぶして鼻に近づけ煙を吸い込みます。小さいので煙の量が少ないのです。

 左から2個目が言語理解玉です。

 早速購入しましょう。)


 俺は心配そうに付いてきた店員に目を向けて言語理解玉を指差す。

 店員はそれで理解したのか聞いてきた。


「(言語理解・小玉ですね。

 こちらは銀貨7枚となっております。

 代金をお支払いただいてから商品をお渡しいたします。)」


 俺は小銭入れから金貨を1枚取り出して店員に渡す。

 店員は金貨をよくよく眺めてフロアの奥にある扉の中に消えて行った。


 少し待たされていると先ほどの店員ともう一人年配で風格のある男が奥の扉から出てきた。

 俺を見て少し眉をひそめるとこう切り出す。


「(失礼します。この商店を預からせてもらっております。ミルドと申します。本日はご来店頂きありがとうございます。

 こちらの言語理解・小玉をお求めでございますね。で、こちらの金貨で支払いをしたいと。

 早速お渡し致します。)」


 ミルドが結界の魔道具を解除する。

 そして布の手袋をはめて玉をこちらに差し出した。

 俺はこの場で習得可能かマリちゃんに聞いたところ、小玉ではそれほど強い副作用はないのでこの場で習得可能だという。

 早速、言語理解・小玉を掌で握りつぶして鼻から煙を吸い込んだ。


 途端鼻に激痛が走り仰け反る。インフルエンザの検査のような奥をグリグリされている感触だ。

 それが広がり頭、耳、喉と締め上げる痛みが襲う。

 堪らずしゃがみ込み涙を流しながら痛みに耐えているとすぐに痛みは引いていった。


 小玉だと油断していた。マジでビビった。小玉でもあんなに痛いのかよ。もう人前では禁止だな。

 だって涙が出ちゃうんだもん。

 なんて考えていると、マリちゃん翻訳を通さずに店員とミルドの声が聞こえてきた。


「お客様大丈夫ですか?」


「びっくりしました。いきなり店内で取得したのは初めてですよ。

 私が鑑定・小玉を取得した時は2日は寝込みましたから。宿までお送りしましょうか?」


 相手が何言ってるのか分かる!俺は嬉しさから立ち上がり自身が喋れるのか確認のために声を出す。


「大丈夫です。もう痛みは引きました。

 心配かけてすみませんでした。

 どうしても早く習得したかったもので…。」


 声は掠れていたがしっかり発音できて理解もしてもらえたらしい。


「おお。もう回復なさったのですか?

 やはりお若いと違いますね。

 早速この金貨のお釣りを渡りたいのですが…実はこの金貨は現在の流通金貨では無いのです。

 もちろん使うことはできますが。

 ですが、お返しさせて下さい。

 もちろん言語理解玉の代金はいただきません。

 サービスします。ただこの金貨を何処で手に入れたのかを教えて頂けませんか?

 お答えできなければ無理にとは申しません。」


 ミルドは俺の出方を伺うように聞いてきた。

 代金がいらない?なんでだ?考えろ俺!


 ここで[罠の迷宮]踏破者であると告げれば盛大に歓迎され、奥の城に招かれ、さらに首都の王城に呼び出されることは想像に難しくない。


 しかし俺のこの世界の目的は悠々自適の生活ではなく、元の世界に帰る事だ。愛する家族が待っているんだ。


 だがミルドと名乗るこの男性は有能そうに見える。

 是非とも帰還の為の情報源としても有効な関係は続けていきたい。

 俺は悩みながら答えた。


「すみません。

 この金貨の出所は教えることは今は出来ません。

 今持っている金貨はこれだけなのでこれで支払いをさせて下さい。

 明日また伺うのでその際に店舗の魔道具やミルドさんの人となりを話していただければ、もしかしたら口が滑るかもしれません。

 つきましては本日泊まる宿を紹介して頂けないでしょうか?本日この城塞都市に着いたばかりで右も左もわからない田舎者なんですよ。

 もちろん宿代は払いますので。」


「かしこまりました。

 いきなり尋ねてしまい此方こそ申し訳ありませんでした。

 わたくしが紹介できる宿は数多くございます。

 ですがお金は頂きません。

 明日は1日予定を空けておきますのでお好きな時間にお越しください。

 本日の宿はどの様なサービスをご希望ですか?」


「……いや。金貨受け取って下さいよ。

 宿の希望は美味しいご飯とお風呂があって一人部屋であればどこでも良いです。

 このお店から遠いと迷ってしまうかもしれないのでなるべく近場でお願いします。」


「かしこまりました。すぐに手配致しますので少しお待ちを。

 奥の部屋が応接室になっているのでそちらでお待ちいただきます。」


 こちらを上客以上の客として接してくれる様だ。

 だってさっきからサービスばっかり言ってるし。

 なんか嫌な予感がして来た。

 タダより高いものはないからな。


 ミルドは側にいた店員に宿の手配を言いつけると、とても良い笑顔で応接室に案内してくれた。

 お互いにソファに腰掛けて落ち着いたころミルドが訥々と語り出す。


「この様な商売をしていると、ごく稀にとても良い出会いをすることがあります。

 その際に先入観を持たず、相手の要望に誠心誠意応えることによってその出会いをより深き縁とすることができ、自身の人生に潤いを持たせてくれる。大商人のハマーンの名言です。

 私は商人として初めてこの言葉の本当の意味をこれから知ることが出来るでしょう。

 どうぞよろしくお願い致します。」


 えぇ?俺への評価高すぎじゃね?

 ただの二流商社の営業マンですよ

 。褒めても何も出ないですよ。

 しかし悪い気はしないのでお礼を言っておく。


「その様な評価をして頂き有難うございます。

 自己紹介が遅れました。私はヤマダと申します。

 私もミルドさんとの出会いを大切にしていきたいと考えております。

 実はこの近辺に知り合いは殆どいないのです。

 是非仲良くさせていただけると助かります。

 しかし私は旅をしており一つの街の滞在は長くはならない予定です。

 ですが、この城塞都市グリーデンに滞在中は何卒よろしくお願いします。」


 そう言って座りながらミルドに頭を下げる。

 するとミルドも恐縮して


「ヤマダ様、頭をあげてください。

 商人がお客様に頭を下げさせるのはご法度なのです。

 そうですか。ヤマダ様は旅をしておられるのですね。では世界各地を回られると…。

 この商店は"ミルドの魔道具"というのです。

 人の住む街でしたら世界中に支店が御座います。

 是非頼ってくださいませ。」


「え?ミルドさんもしかして、この商店のオーナーですか?世界中に支店があるって…。

 そんなにすごい商人さんに様付けで呼ばれるのは恥ずかしいですよ。だいぶ年下ですし。

 様付けはやめてください。」


「かしこまりました。ではヤマダさんと。

 私はそんなに凄い商人ではないですよ。

 友人が作った魔道具を販売していたら、それらが飛ぶ様に売れていき、気づけば世界に支店が出来ていました。

 その魔道具らを売り始めて、かれこれ40年ですよ。

 今はその名残で世界各地に支店があって後任の人材も育っており、店に立つことも少ないのです。

 実は今日は昼まで街を散策して遊んでいましたが何故かこの店に足が向いて、先ほどまでこのソファで知人とお茶を飲んで世間話をしておりました。

 その知人が帰ってしまい自分も店を出ようとした時、先ほどの店員がこちらの金貨を持っていたので私もヤマダさんの元に顔を出したのです。」


「それはまた偶然ですね。

 本当は私も能力玉の購入は明日にしようとしていたのですが、少し早めに街に着き、偶々こちらの店が開いていたので見させてもらい購入させてもらいました。

 明日では朝一に来る予定でしたけどね。」


「明日では会うことは叶わなかったでしょう。

 私はヤマダさんとの縁はこれからも深くしていきたいと直感でそう思ってしまったのです。

 是非これからも良いお付き合いをさせてください。」


 そうミルドが告げた後、応接室の扉がノックされて先ほどの店員が頭を下げて入ってきた。

 何やらミルドに耳打ちしてすぐに部屋を出て行く店員。

 少し困惑顔のミルドは気まずそうに言葉を続けた。


「宿の手配は出来ました。早速向かっていただきたいと思うのですが、一つだけ確認させて頂きたい事があります。

 本日外壁門で古い銀貨を使ったのは山田さんですか?」


「…えぇ。私です。仮入場札の発行手数料として銀貨1枚、その際に衛兵に両替しろと言われたので手持ちの4枚を現在の流通銀貨と変えました。

 この件がどうかしましたか?」


「…ヤマダさんの持っていた銀貨と金貨は大変珍しいもので元々流通はしておりません。

 と言うかこの国にある同じ硬貨は王立博物館に3枚しかありません。

 金貨4枚、銀貨8枚のみなのです。

 ガアラ帝国やカリスト王国であればもっと持っている事は確認していますが、リシテリア公国では大変貴重な硬貨となっております。

 この硬貨の特徴は片面が全て世界樹のレリーフでもう片面はそれぞれ違うのです。

 同じものもあるそうですが銀貨、金貨共にどのように作られたのか未だにわかっていない大変貴重な硬貨なのです。」


「…へぇ。で、その5枚が突然両替所に持ち込まれ街が大騒ぎになっていると。」


「いえ。一般市民には気づかれていないでしょうが、商人や情報屋、この街の有力者は皆騒いでいるはずです。

 その衛兵も、少し価値が高いだけだ。と思い込み直ぐに換金した事が騒ぎを大きくする仇となってしまいましたね。

 知っているものが見たら家宝にして外に見せる事がないよう厳重に保管したはずですから。

 …もしよろしければ宿に行く事はやめて私が泊まっている屋敷にお連れいたしましょうか?」


「…はい。よろしくお願いします。

 すみません。なんか突然来て迷惑かけてしまって。

 その金貨は貰って下さい。お願いします。

 迷惑料が足りないならもう何枚か払いましょうか?」


「……一体何枚持っているんですか?

 いえ、聞かなかったことにして下さい。

 ……私は何も聞いていない。

 私は本日ヤマダさんとこの店で初めて会い、意気投合して屋敷にお連れする。それだけです。」


 ミルドの声は震えていた。もちろん体も。

 そりゃそうだ。この国に数枚しかない硬貨を俺は1000枚以上持っている。

 下手したらこの世界で10番目くらいの金持ちだ。

 しかしこの硬貨はもう使えない。

 いや、使えない事は無いが使い所が狭すぎる。

 やっぱり泡銭か……。

 しっかり自分で稼げって事だよね。


「お願いします。その金貨は受け取ってください。

 でないと俺はミルドさんの屋敷に行けないですよ。」


「わかりました。預からせていただきます。

 ですがもらう事は出来ないのです。

 これを持っているのが世間に知れただけで大変な目に合うのですよ。」


「えぇ。では預かっておいて下さい。

 そうだ。私はお金を殆ど所持していなくて売れるものがスキュラの魔石とワイルドボアの皮、牙、魔石があるのですが買い取ってもらえないでしょうか?」


「では査定させていただきましょう。

 一階の奥に査定部屋があります。

 そちらに移動しましょう。」


 ミルドとは階段を下りながらでも話は弾む。

 ヤマダさんはパーティーを組んでいるのですか?とか、能力玉は何を取得しているのですか?とか。


 正直に答えようとしたのだがマリちゃんからストップがかかる。俺の力は過ぎたるものなので適当にごまかして一階の査定部屋に着いた。


「ではこちらに皮と牙、こちらに魔石をお願いします。」


 でかい作業台の上にワイルドボアの毛皮、キバを置く。ワイルドベアの牙って凄くでかいよな。

 2本とも50センチ超えてるし。普通の冒険者には大変な相手だよな。などと思っていると作業台に並べた毛皮と牙。

 離れた作業台に置いた魔石を見つめてミルドが驚いていた。


「随分大きいですね。本当にワイルドボアですか?もしかして亜種?いや色がワイルドボアだな。

 しかし牙もかなりでかい。…それに魔石も大きい。

 スキュラのは水魔石で濁りも少なく大きさもある。

 これは高値を期待出来ますよ。」


 そして作業員たちが色々調べている間に先ほどの店員がまた近づいてこちらに頭を下げてからミルドに耳打ちをする。


「ヤマダさん屋敷に向かう馬車の準備が整いました。査定はまだ掛かるそうなので明日でも良ければ先に屋敷に向かいますがどうしますか?」


「査定は明日でも大丈夫です。

 なのでお邪魔だと思いますが屋敷に連れて行っていただけると嬉しいです。

 今日は疲れてしまいました。」


「かしこまりました。

 では一緒に屋敷に向かいましょう。

 上手い食事を準備しているので期待しておいて下さい。」


「有難うございます。本当に助かります。」


 こうして俺とミルドは彼の屋敷に馬車で向かうのだった。


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