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16話 獣臭い獣人

試験的に長くしています。

ただし誤字脱字が見つけづらいです。

 

 早朝、泉の近くにある木に体を預けるような寝姿で目を覚ます。


 やはり無理な体勢だったのか、腰と尻が少し痛む。

 ゆっくり身体を起こし伸びをして他に痛む場所はないか確認していく。

 そうしているうちに腰と尻の痛みも引いていき、今日も一日頑張れそうだと気合をいれることができた。


 昨夜は魔物の襲撃もなく一晩中眠れた。

 警戒してくれていたノームの姿はどこにもない。

 ノームにお礼を言ってなかったので心の中でお礼を言う。


(おはようございます。体調は良さそうですね。

 少し飛ばせば本日中に街に到着できますが魔道具屋は閉まっているかもしれません。どうしますか?)


 うーん。言葉は通じなくてもやっぱり街に入りたいな。でも、この世界って統一言語だろ?って事は話せないとおかしくないか?

 なんて考えているとマリちゃんから声をかけられる。


(山田さんが喋れないのは呪いのせい、と言うことにします。実際そのような呪いもありますので。

 なので街に着いたら私が翻訳して伝えるので山田さんはジェスチャーのみで対応してください。)


「わかりました。その設定でいきましょう。

 今日中に街に入り宿に泊まり、明日の朝一で魔道具屋に向かう。この予定でお願いします。」


(わかりました。では準備ができましたら早速出発しましょう。

 くれぐれも人前で私に声を出して話しかけないでくださいね。今日は走りながらその練習もしましょう。)


 野営の片付けをして泉に別れを告げる。

 走り始めだから軽めにいく。徐々にペースアップだ。

 昨日食べた大猪は体に力を与えてくれるのか、前日よりも早い速度で森の中を疾走していく。


 森の奥に比べて走りやすくなっている。木の幹が細くなり少しずつ木漏れ日が増えてきた。

 もうすぐ人里だと思うと期待と不安でテンションが上がってきた。


 先ずはこの森を抜けるんだ!と意気込んでどんどんスピードアップして目にも留まらぬ速さで木々の間を駆け抜ける。


 正直調子に乗っていた。周りを警戒などせずにただ早く走ることに快感を覚えていた俺は2メートルほどの崖から飛び降りた際に人間の一団に遭遇してしまう。


「〜〜〜〜〜〜〜!〜〜〜!」


 やべぇ。現地人だ。何言ってんのかさっぱりわかんねぇし。ちょっと怒ってるのかな?

 現地人たちは男が5人、女が1人の6人組だ。

 みな旅装束や皮の鎧にローブと如何にも冒険者といった風情だ。男はみな俺より背が高いし身体も厚い。つーかみんな美形だな。


「〜〜〜〜〜〜〜!〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


 リーダーぽい皮の鎧をきたイケメンが突然剣をこちらに向けて威嚇してきた。え?なんで切れてんの?そんな簡単に刃物向けるとか怖いんですけど。


(この人達は冒険者です。山田さんがこの魔の森の奥から出てきて驚いているようです。

 ちなみに魔族と勘違いされてるので喋れないジェスチャーをして立ち去りましょう。)


 マリちゃんに言われた通り喉を指差し両手を交差してバツを示し声が出ないジェスチャーをしたところ、突然相手が剣呑の雰囲気になり剣を強く握り込んだ。

 リーダーから殺気が溢れてくる。…意味がわからないよ。


(山田さん。手を交差させるのはこの世界で決闘を意味します。

 自分を指差し手を交差させるのは「俺と決闘しろ」と言う意味になります。

 伝え忘れてました。すみません。)


 …んなバカな。なんでもっと早く言っといてくれなかったんだ。味方からの罠にはめられた気分だよ。

 おい!殺気を放ちながらジリジリと近寄るな!


(逃げるしかないですね。

 相手はそんなに能力も高くなさそうですし。

 このまま街まで止まらずに走りましょう!)


 その言葉を聞いた瞬間、回れ右をして脱兎のごとく駆け出した。

 ほぼ全力で走る俺を捕まえる事は出来ないだろう。

 後ろでかすかに叫んでいる声が聞こえるが何を言っているのかわからない。無視だ!無視。


(不味いです。彼らは城塞都市に魔族が向かったと騒いでいます。

 彼らの中に補助魔法玉を使える人がいると転移することが出来るので厄介なことになります。

 先に街に行かれると街に入れないどころか捕まるかも知れません。)


 えぇ!なんで俺が魔族なんだよ。魔族でもマゾでもサドでもねーよ。

 家族を愛するサラリーマンだっつーの!


(ここは彼らの中に転移を持っている人がいない事を祈りましょう。

 それがなければ間違いなく山田さんの方が早く街につきます。

 そうすれば明日の朝に魔道具屋で言語理解玉を入手する事ができます。)


 頷きつつ、過去走った事がないほどの速度で森を駆け抜ける。

 俺の早さに鳥たちが驚き一斉に飛び立ち、その音にビビった小動物たちは慌てて移動を開始する。

 森の中がざわざわしてる。まぁ俺のせいなんだけどね。


 そして1時間ほど走ると突然視界の殆どを占めていた木々が途切れ目の前が開ける。

 緑に覆われてなだらかな丘がいくつも連なり、空の青さとのコントラストがとてものどかで美しい風景を見せてくれていた。


 この世界も美しいな。なんてゆっくり感傷に浸る暇は俺にはない。少しでも早く街に行かなければならないのだ。


 魔族と間違えられて街には入れないのは絶対避けたい。俺は人がいないことを確認しつつ、なるべく早い速度で走っていった。


 のどかな風景も1時間も見ていると見慣れてくる。

 森の中とは違い真っ直ぐ走れるので本来なら歩きで二日かかるところを3時間で走破した。


 遠目に切り立った山とその麓に広がる街が見えてきた。城塞都市だ。

 崖に近い山を背に城のような建物がそびえ、その麓には街が広がりその周りを高い壁が囲んでいる。

 内側にも少し小さな壁がある。

 外側の城壁から城まではかなりの距離がありそうで相応に発展した街のようだ。


 壁の上に人が歩いているのも確認できた。

 外壁門には長い人の列が出来ていたのでゆっくり近づき並ぶ。

 前の並んだ人達の言葉はわからないがマリちゃんに通訳をしてもらい色々な情報を手に入れることにする。


「(オペッツ研究所の開発している魔導馬車がそろそろお披露目らしい。

 今までの馬車では考えられない速度と移動距離でこれからの物流が変わるぞ。

 早く手に入れる事が出来た商会は間違いなく発展するが手に入れる事が出来ない商会は落ち目になるだろうな。)」


「(ガアラ帝国が秘密裏に戦争の準備を進めているんだそうだ。しかし毎年この噂が流れているな。

 本当に戦争が起こるのか?)」


「(ダイモス国がガアラ帝国の街を襲撃したが返り討ちにあい敗走したんだろう?

 帝国は能力玉を冒険者から半ば無理やり買い取って自国の兵士に与えているからな。

 ダイモス国の獣人たちでは歯が立たないだろう。

 奴らは祖国の地を帝国から取り戻すために無理をしすぎだ。)」


「(現国王が危篤という噂は本当なのか?

 確かに高齢だが先月の定例謁見では今までと変わらなかったと聞く。

 もし崩御されたらどの王子が国王になるのだろうか。

 第1王子だけは勘弁してもらいたいな。)」


「(カリスト王国の[愛の迷宮]が踏破されたらしい。

 80階層の大迷宮で、しかも単身踏破だ。

 俺は聞いた時そんな化け物がこの世にいたのか、と耳を疑ったよ。

 大迷宮踏破なんかこの40年誰も成し遂げる事が出来なかったのに単身踏破だ。

 今はカリスト王国の客人としてカリスト城に身を寄せているからどんな奴が踏破したのか殆ど情報が出ていないけどな。)」


 ん?最後の情報は既視感があるな。

 もしかして俺以外にも転移してきた奴がいるのか?

 情報を集めて調べた方が良さそうだ。

 もし同郷なら帰還に協力してもらいたい。


「(なんか変な顔の奴が並んでな。列島諸国の出身か?

 あの国は野蛮な奴が多いとの噂だから関わらない方が良いだろう。)」


 変な顔って俺のことだよな…。

 今まで不細工とは言われたことはないがイケメンともあまり言われない。

 愛嬌のある良い営業顔だと良く言われていた。

 変な顔って言われるとショックだな。というか今の翻訳いらないよね。凹んじゃうよ俺。


 時折長い列を無視して豪奢な馬車が外壁門に直接入っていく。どうやら貴族の馬車らしい。

 貴族様は並ばずスルー出来るのか…。ずるいな…。


 そうして様々な噂話を長い時間マリちゃんに翻訳してもらって聞いていると、やっと俺の順番が回ってきた。


「〜〜〜〜〜。〜〜〜。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜。

 〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜?」


「(ようこそ城塞都市グリーデンへ。

 身分証かギルドカードの提出を。

 無ければ仮入場になるので審議官の面接の後に問題なければ銀貨1枚を支払っての入場になる。

 10日間は仮入場札で外壁門の出入り、滞在が可能だがそれを過ぎるとまた銀貨一枚を徴収する。

 10日の間にどこかのギルドに登録してギルドカードを発行すると仮入場札は要らなくなる。何か質問は?)」


 俺は首を振り質問はないことを告げると、外壁門の内部に通された。

 長い廊下で脇にはいくつもの部屋が並んでいる。


 外壁門の入り口から遠くない部屋に通されると部屋の中には机が一つ、椅子が2脚向かい合わせで置いてあった。

 机の向こう側にこちらを向き座っていたのは20歳になるかならないか程度の若い女性で、部屋の壁には衛兵が立っていた。


 衛兵が空いている椅子を指し座るように促してくる。

 俺は恐縮しながら目の前に座る女性をみる。

 体系は小柄で幼く見える。

 髪は肩口で切りそろえられつやがあり、顔も小さく、白いシャツが清潔感を与えている。元の世界にいたらさぞモテるであろう外見だ。

 しかし目は閉じられて決してこちらを見ようとはしない。何故だろう。


「〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜。

 〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」


「(はじめまして。私は審議官のミラです。

 心眼のユニークです。あなたに簡単な質問をします。嘘をついた場合私にはわかりますので。

 これまで殺人や盗み、またはこれからそれらの行為をこの街で行う予定はありますか?)」


 俺は首を振るがミラは目を開けないため俺の返事を待っている。微妙な間が出来てしまった。


(不味いです。この審議官は目が見えないのでジェスチャーでは伝わりません。声の呪いも嘘なので他の審議官に変わっても見破られてしまいます。

 いいえの発音を教えます。「ニュバェヴ」です。

 発音して下さい。)


 えぇ?そんなパターンあんのかよ。

 まぁこれでも英語はペラペラだし。

 上手く発音できるだろう。

 余裕を持ってマリちゃんに言われた通り発音する。


「にゅばえぶ。」


 途端にミラが眉をひそめ、首をかしげる。

 なので俺はもう一度言われた通り発音する。


「ぬばぇぶ。」


 これは決まった。完璧だ。駅前留学も真っ青なネイティブスピーチだ。と、ドヤ顔していると。

 さらにミラの眉がひそめと壁際に立っていた衛兵と話し始める?

 何を言ってるのか全くわからないのでマリちゃんに通訳してもらった。


「(リットンさん、すみません。

 こちらに座っている方は"いいえ"と言っているのですか?何故"いいえ"と言えないのですか?人間と聞いていたのですが本当に人間ですか?

 体臭も匂います。獣臭いです。もしかして田舎から出てきた獣人ではないのですか?)」


「(いいえ、ミラお嬢。

 顔の作りは変ですが見るからに人間です。

 成人の男性です。

 ですが、私も"いいえ"をまともに言えない成人男性を見るのは初めてです。

 耳も尖っていないのでエルフでもないでしょう。

 どうしますか?拘束しますか?)」


「(拘束はしなくて大丈夫です。

 心眼は多少まともに言えなくても効果があるので。

 この獣人はこの街の害にはならないでしょう。

 しかし匂いも臭いうえに顔も変なのですか?

 この目が見えたら見てみたかったですね。)」


「(ミラお嬢。人間ですよ。

 あまり失礼なことを言うとはやめましょうよ。)」


「(でも先ほどの"いいえ"の発音を聞く限り言葉がわかってないんじゃないの?この獣人は。)」


「(だから人間ですって。もう退出してもらいますよ。)」


 めちゃくちゃバカにされてる。なんだよ獣人って。

 こちとら人間35周年だよ。バカヤロウ。

 確かに珍しい顔立ちかもしれないけどそこまで言うことなくね?つーかマリちゃんも、もうちょっとオブラートに包んで翻訳してよ。


 俺はリットンと呼ばれていた衛兵に立つよう促されて、次の部屋に連れていかれた。

 その部屋は仮入場札を発行する場所でこちらで銀貨1枚を払うようだ。


「(この男性の仮入場許可が降りた。

 しかしミラお嬢はこの男性を田舎者の獣人と決めつけてからかっていたぞ。"いいえ"が言えないからだw)」


「(なんだそりゃwミラお嬢は相変わらずおもしれぇなw)」


 リットンは笑顔で同僚に報告し、同僚は笑っている。が俺は笑えない。仕事柄外来語には自信があり、ここまでバカにされたのは初めてだ。


 俺は小銭入れから適当な銀貨を見繕いテーブルに置く。

 その同僚は仮入場札をテーブルに出して銀貨を手に取り固まった。マジマジと銀貨を眺めて口を開いた。


「(なんだこの銀貨?随分古い銀貨だな。

 まぁ価値は変わらないが相当珍しいぞ。

 こんな古いのはここでは使えるが街の商店では使えないかも知らない。

 ここで換金してやるからあるだけ出しなさい。)」


 絶対こいつはこの銀貨を後で回収して転売する気だ。

 しかし、ここで揉めて入場できないのは本末転倒なので、おとなしく小銭入れに入れてある銀貨4枚を出して現在の流通している銀貨4枚と仮入場札をもらう。


 こんな感じの悪いところはすぐに去りたい。

 その後も先ほどの外壁門で聞いたようなことを言われ、入ってきた扉とは違う門から街に入った。


 もう少しで日が暮れ始めるからだろうか?街の中の大通りは人通りが多い。

 空いていれば宿屋の前に魔道具屋に行きたい。

 マリちゃん翻訳はやっぱり疲れるし、俺も話したい。

 笑顔でニコニコしているのは新入社員の研修のみでお腹いっぱいだ。

 ニコニコしていないと彼等はすぐに辞めてしまう。


(では魔道具屋に行ってみましょう。

 どの街も魔道具屋は大通りにあるはずです。

 人の暮らしに密着していますし、需要も高いですからね。大通りを奥に向かって進んで下さい。)


 大通りの人混みの中を魔道具屋を目指して歩く。

 俺は文字も読めないのでマリちゃんに任せてお上りさん状態であちらこちらを見て歩いた。


 やはり現地人は美男美女ぞろいだ。

 顔面平均値が高すぎる。この世界の人間は見た目にステータス振りすぎじゃないかな?だからさっきの外壁門の奴らみたいに性格が悪いんだよ。

 なんてことを考えながらキョロキョロしていた。


 しばらく歩いていると街中なのに裸足の人が何人かいることに気がついた。殆どの人は靴を履いて歩いているが、30人に1人くらいは靴を履いていない。

 よく見るとあまり清潔感のない格好をしている。


(あっ!山田さん奥の左側の大きな建物が魔道具屋です。まだ空いているみたいです。

 間に合いましたね。早く行きましょう。)


 俺は疑問に思った事をマリちゃんに聞けぬまま、人混みの中を魔道具屋に向かって進んでいった。



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