14話 新天地へ
空の色が黒から濃紺、徐々に薄くなり青に変わる頃に目が覚めた。
昨夜の戦闘の疲れが嘘のように疲れは残っていない。周りを確認するとノームの姿は既になく、川の近くの河原にこんもりとした土塊を見つけた。
一晩中警戒してくれて有難うございます。
また今夜呼びますね。と、心の中でお礼を言ってから体を起こす。
森の間にあるせいか陽の光は届いていないが空の抜けるような青さに今日も快晴なのを確認する。
マリちゃんはあと2日ほどで街に出れると言っていたけど本当は10日以上かかるんだよな。
我ながら恐ろしい身体能力を手に入れたものだと思う。
(おはようございます。昨夜はお疲れ様でした。
体調はどうですか?)
「おはようございます。体調はいいですよ。
昨夜の疲れも残ってないし。今日は一日移動ですよね?」
(はい。ですが山田さんはまだ魔法の制御と身体の制御に慣れていないようなので少し訓練してから出発します。)
岩の上に座る俺の眼下には、昨日魔法を放った惨状が目に映る。川は向こう岸に向かい大きく抉れており随分と不自然な光景を晒していた。
巨大なゴーレムやドラゴンを相手にするには十分な威力だが普通の魔物相手には強すぎる。
こんな魔法をポカスカ撃ってたら地形すらも変わってしまう。もっと使い勝手が良く、威力の少ない攻撃魔法を覚えなくてはならない。この魔法は封印だ。
(山田さんは魔法もそうですが、身体・大玉で身体能力も上がっています。両方とも訓練しておいた方が良いです。
街に行って現地人とトラブルになった際に誤って殺してしまうかもしれません。
身体玉を取得していない人の顔を山田さんが殴打すると首から上が千切れてしまいます。
なので力の加減を覚えて下さい。)
「はい。わかりました。
では身支度を整えてから訓練します。」
早朝からマリちゃんに恐ろしい事を告げられて、下がりそうな気持ちをどう持ち上げようか悩みつつ岩を降りて体を伸ばし、川で顔を洗う。
お腹は空いていないが、朝食はどうしますか?とマリちゃんに聞くと、訓練が上手くいけばこの先は食べ物に困らない。との事なので先に魔法の訓練をする事にした。
昨日のはバレーボールくらいの大きさで魔力も込めた。今日は先ず小さくしよう。
打ち込む先は勿論…川だ。
手を前に突き出し体内の魔力を放出しながらイメージする。
透明の魔鎧で細長い筒を作り小指の先程度の小さい火の玉をその中に発現する。
それを魔鎧で一気に押し出す。
細い光線が手のひらから水面まで一直線に走る。
石が砕けるような、、ぐぐもった音が川底から聞こえたが昨日のような惨劇にはならなかった。
多分成功だと思うが、未だに展開速度が遅い。
次は展開速度を速めるように撃つ。
この程度の威力では殆ど魔力は減らないので連射するように撃っていく。
指先程度の火の玉の次は同じサイズの石にも挑戦した。魔力消費は殆ど同じくらいだが威力は数段こちらの方が弱い。連射にも時間がかかる。
手で投げた方が強い、と聞いていたので同じような石を手に持ち振りかぶって水面に投げた。
魔法よりも早い弾道で水面に刺さり川底から岩に当たる音が聞こえた。
自分で投げた方が強い。だが、石を放つ魔法は明らかに威力が弱いが使い所があるかもしれない。
一応展開速度を速めるために、その後何発も練習した。
(これからも魔法の訓練は必要ですが、今朝はこの程度で良いでしょう。次は身体玉の力の使い方を訓練して下さい。先ずは自分の今の力を知り、加減を覚えることを心がけましょう。
先ず山田さんが寝ていた岩を持ち上げてみて下さい。)
は?何言ってんの?狂った?
と思ったが決して口には出さない。
マリちゃんとの意思疎通は思った事を全て伝える事は無く、ある程度強く問いかけなければ伝わらないようだ。
言われるまま昨夜の寝床と向かい合う。
デケェ。上は俺が寝転んでも十分な広さだった。
高さも俺の背丈ほどある。
ちなみに俺は転移する前は身長174センチで体重は65キロだった。だが俺はこの世界に来てマッチョになった。でも…無理だろ。これ。
俺は半信半疑で岩に張り付き、徐々に力を込めて締め上げ持ち上げようとした。
「ふんぬぅぅぅ。おりゃぁぁぁぁ。」
本気で締め上げている場所から変な音がする。
僅かに持ち上がるか…。というところで締め上げていた場所が砕け始めた。
俺はとっさに力を抜き岩から離れる。
締め上げていた場所だけ岩が砕けて歪な形になっていた。
マジかよ。なんだよこの力…。
砕けたから持ち上がらなかったけど、砕けてなかったら少しは持ち上がった筈だ。
(惜しかったですね。次はジャンプして少しずつ力を込めてみましょう。どの程度の力で飛べば怪我をしないか確認して自分の限界に挑戦です。)
おぉう。俺は高所恐怖症なんだよね。ジェットコースターとか落ちる時にお股がキュンキュンしちゃうもん。
まずは軽く両足ジャンプ。
転移前だったら10センチくらいしか飛ばないくらいの気持ちで飛んだら1メートル近く飛んだ。
これって転移前の全力ジャンプと変わらないんじゃないのか?本気でジャンプするのが怖くなってきた。
もう少し力を入れたジャンプ。
2メートルほど。この高さから落ちても全然足は痛まない。
その後少しずつ力を込めて3メートル、4メートルと飛んでいき、本気の両足ジャンプでは3階を優に超える高さまで飛んだ。
かなりの恐怖があったが徐々に上げていったので取り乱すことはなかった。
そして足が痛くない。普通この高さから落下すれば骨折は間逃れない筈なのだが綺麗に着地することができ、足も全く痺れない。
(垂直跳びは問題なさそうですね。
次は走り幅跳びで川を越えてみましょう。)
いやマリちゃん。多分問題ないけどさ。でもさ。なんかこう。ね?いきなりこんな力を持ったんだからさ。
もう少しね。ゆっくりというか。ね。サクサクいきたいのは分かるけどね。驚きというかね。
みたいな事を悶々と思ったが口には出さない。
うちのマリちゃんはスパルタ帝国の指揮官だ。
スパルタ式訓練について行けないものには死を。がモットーの筈だ。
退かぬ!媚びぬ!省みぬ!だ。
某帝王とは少し違うがそれくらいのテンションで臨まなければ、此方が食われる。
俺は川幅4メートルの所を易々と飛んだ。
次は昨日自身が抉り、不自然に川幅が広がった場所だ。10メートル近くある。少し力を入れたジャンプで難なく超えた。
先程からピョンピョン飛び回っているのに全く疲れない。
俺は若草の陰から見守っている先祖たちに心の中で報告する。俺、人間辞めたってさ、と。
どこかの国の映画のタイトルのような事を考えているとスパルタ帝国の指揮官から今日の予定を告げられる。
(とてもよい体の使い方ですね。
今日はこのまま移動です。
山田さんも体の使い方には少し慣れたようなので。 夜までに食料になる魔物一体を討伐し、次の野営地を目指しましょう。)
イエス、スパルタ!と伝わらないように返事をして、いそいそと出発するための準備をはじめる。
(何か山田さんが良くない事を考えている気がするのですが気のせいですよね?)
と、指揮官からの鋭い指摘を受けるが俺は素知らぬ顔でやり過ごし、新天地へと一歩を踏み出した。




