11話 妖精との邂逅
川から上がった俺は背嚢型収納袋に入れていたスーツケースからタオルを取り出し、濡れている体を拭いた。
先程まで着ていた服を着ようとした時マリちゃんから声が届いた。
(ダンジョンで手に入れた服を着た方が良いですよ。先程まで山田さんが着ていた服はこちらの世界では見ないデザインですし。
多少汚れてしまいましたが、破れてはいないようなので大切に保管しておきましょう。)
マリちゃんに言われた通り着ていた服を綺麗に畳みスーツケースの奥にしまい込んだ。
そして背嚢型収納袋からダンジョンで回収した服を取り出す。
(ダンジョン踏破報酬の服は様々な恩恵、機能が付いています。罠の迷宮の踏破報酬なのでそれに因んだ恩恵だと思うのですが、詳しいことは街で鑑定してもらった方が良いですね。)
俺は疑問に思ったことを口にする。
「マリちゃんでもどんな恩恵が付いているかわからないのですか?」
(何となくはわかります。しかし違っていた場合、山田さんを死なせてしまうかもしれません。
鑑定があり、正式な名称がわかれば私の知識と情報閲覧で正確な恩恵を知ることができます。
しかし型と色、素材だけでは正確な判断は出来ません。)
確かに毒耐性があると聞いて毒を食らったらビビるし死ねるわ。マリちゃんの言うことは正しいな。
商社の営業も人の言う事だけ信じていたら毎回大損していたはずだし。自分の足で動いて自分の目で見てからではないと正確な評価は出来ないという事だな。
ダンジョン踏破報酬の服は着てみるとファンタジー世界の旅人の服のような見た目だった。
焦げ茶色のローブ、生成りのインナー、茶色のズボン、革で出来た編み上げの靴。
本当に始まりの村にいる初心者冒険者みたいだ。
並べてみた時に一番合いそうなものを選んだが本当に普通だ。何か特別な恩恵が有るとは思えない。
他にも数点、背嚢型収納袋に入っているが奇抜なデザインのため今回は保留だ。
しかし1点だけマリちゃんが反応したのがある。
「あっ。山田さん!私にも確実に恩恵のわかるローブがありました。その夜空色のローブです。
そのローブは前の留め金を止めると周りから認識されなくなるものです。正式名称は"認識阻害のローブ"です。」
そのままやないかい。なんて思ったのは秘密だ。
野営で寝るときに着れば魔物に見つからず寝ることができるそうなのですぐに取り出せる位置にしまっておく。
(では今から魚を焼いて貰いたいと思います。
先ず水気のない木の枝を拾ってきて貰います。)
マリちゃんの指示に従い水気のない枝木を探すため森に入る。枝木は落ちているものの乾いているとは言い難い。
あまり見当たらないなぁ。なんて思っているとマリちゃんから森より河原の方が見つけやすい事を聞いた。
雨が降って直ぐであれば河原に落ちている枝木は湿っているが、ここ数日は降った形跡がないらしい。
ならば日当たりの良い河原の方が乾いた枝木が見つかるそうだ。
そんな事を聞いて河原を歩けば、あっという間にひと抱えほどの量の枝木を集めることができた。
あとはこれに火をつけて魚を焼くだけだ。
燃えやすいように隙間を開けながら枯れた枝木を並べてながら魚に刺す串っぽい枝を選別していく。
焚き火の準備と魚の準備が整った。
(では生活・小玉でも出来る"着火"を教えます。
これはこの世界にいる精霊の力を使い発現します。
精霊は強い力は貸してはくれませんし、生活玉を取得していない人には力を貸してはくれません。
普段はもちろん目に見えませんし、声も聞こえません。
しかし生活玉を取得することによって精霊にお願いして力を発現できるようになると言われています。
声に出してお願いする必要はないのですが、しっかりと念じなければ発動しません。では、手を枝木に向けて、心の中で復唱してください。「サラマンダー」)
えっと(サラマンダー)
突然俺の掌の前に5センチほどの火蜥蜴が浮かび落下した。そして枝木にへばりつく。火蜥蜴に接しているところから火は燃え移り焚き火は完成した。
「…凄いですね。生活玉は。何故これがハズレと言われているのかわかりませんよ。」
(元々この[アマルテア]にはこの生活、収納、言語の玉しかなかったと言われております。
その時代ではこの生活玉は精霊玉と呼ばれ、これこそが魔法と言われるものだったそうです。
しかし、魔力玉、魔力操作玉、身体玉、補助玉が[アマルテア]のダンジョンに発現されてからは威力の大きく劣る精霊玉はハズレと言われるようになり、生活玉と言われるようになりました。
魔道具の発展も生活玉がハズレと言われるその大きな要因です。
山田さんは生活・大玉ですから先程の大きさのサラマンダーを発現出来ましたが小玉ですと1センチほどですぐに消えてしまいます。薪に火がつかないこともあるそうですよ。)
マリちゃんに言われて改めて焚き火を見る。2センチほどに縮んだ火蜥蜴は舌をチロチロ出している。
サラマンダー有難うございます。と心の中でしっかりとお礼を言っておく。
(魚が焼ける前に生活玉で水を出す練習をしておきましょう。水が入っていた容器を出して下さい。
手順は先程と同じです。手を広げ、しっかりと念じてください。いきますよ。「ウンディーネ」)
えっと。(ウンディーネ)
広げた掌の前に水瓶を持つ女性が現れた。しかし体は透き通るような水で出来ており、美しいことは分かるのだが表情はよくわからない。
その女性はからの容器に水を入れるとすぐ霧散して消えてしまった。
(ウンディーネは恥ずかしがり屋と言われております。でも水を容器にしっかり入れてくれたので嫌われていることは無いと思います。
小玉で発現すると稀に水をくれない時があるそうなので。)
水くれないとかあるのかよ。でもしっかりお礼は言わないと。ウンディーネ、有難うございます。
俺は心の中で恥ずかしがり屋のウンディーネにお礼を言った。
(さて、あと生活玉でてきることは乾燥と警戒ですね。
乾燥は風精霊に、警戒は土精霊にお願いします。
警戒は今やってみますか?野営の時などにお願いすると便利なんですよ。)
「土精霊ですか。会ってみたいですね。お願いします。」
(手を前に出して下さい。行きます。「ノーム」)
(ノーム)
広げた掌の前に体調1メートルほどの土人形が現れた。こちらに少し頭を下げると、トテトテと焚き火の周りを歩き出した。
(やはり大きいですね。小玉だと30センチくらいで2時間ほどあたりを警戒してくれるらしいです。
山田さんが発現したノームの大きさだと8時間ほど警戒してくれるみたいですね。
今日はこのままここで野営をしましょう。
あと1時間もすれば日が暮れてきます。
このままノームに警戒させればいいですし。)
「わかりました。ではここで野営するということで。あっそろそろ魚が焼けてるんじゃないですかね?」
焚き火に当てられた魚はしっかり焼き色が付いていい匂いを漂わせていた。
俺はおもむろに一つ取り背びれ側から齧り付く。
「うん!うまい!」
塩も醤油もないあっさりとした味だか久しぶりの食事としては上出来だった。
久しぶりの食事をニコニコ、ハフハフと食べている俺の周りをノームはトテトテと歩き続けていた。