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10話 奇跡も魔法もあるんだよ。

 

 俺は鬱蒼とした森を走りながら自分の体の変化に驚いていた。

 結構長い時間足場の悪い森の中を走っているのに全く息があがらない。

 しかも地面は泥濘んでいたり、根が浮き出ていたり、突然陥没していたりと真っ直ぐな場所などない。

 そんな悪路を超える場所を俺は平然と走っているのだ。


 以前であれば走り出して直ぐに足を挫いて走れなくなっていたはずだ。

 今は走り初めこそ挫いたが、その瞬間に治っていた。そうしているうちに全く挫かなくなりペースを乱す事なく走ることができるようになった。


「とんでもない身体になったな。この悪路を2時間近く走っても全く疲れないですし。寧ろ心地よいとさえ感じます。」


(それが能力玉の力です。あっ、そこの木の左側を通って真っ直ぐ行ってください。)


 マリちゃんの案内に従い軽やかに森の中を進んでいく。どこに向かっているのか分からないが適度に指示が出されており、明確な目的地がありそこに向かっているように進んでいく。


「マリちゃんにはこの森の中で現在地が分かるのですか?随分的確に指示を出しているような気がするのですが…。」


(明確な現在地はわかりません。そこまで万能ではないので。

 ですか、世界の真理・大としての知識でこの世界[アマルテア]のすべての地図は記憶しています。目に見える情報、進んでいる速度、木々の間から僅かに覗く太陽などからおおよその位置は分かるです。)


「凄いですね。マリちゃんがいなかったら俺はとっに死んでますよ。本当にありがとうございます。」


(どういたしまして。ところで山田さんはずっと敬語のような言葉で話してますが何故ですか?)


「職業病みたいなものですね。

 本当に仲良くなった人には使いませんが親しくなるまではどうしてもこの話し方になってしまいます。

 別にこの話し方をしているからといって親しくないというわけでないなのですが…」


(山田さんは気づいていると思いますが私の声は山田さん以外には聞こえません。他人のいる場所で声に出して私と会話することはやめた方が良いでしょう。

 声に出さなければ自然と敬語も減ると思います。

 これから山田さんの帰還までの間にもっと信頼を深めて行きましょう!

 あっ。そこの坂を下って下さい。)


「はい。坂を下れば良いのですね。

 ところでこのまま街まで一気に行きますか?

 流石にゴブリン達は撒いたと思いますし、そろそろ喉が乾いてきました。」


(このままの速度で街まで行くには4日はかかってしまいます。

 もう少し下って行くと川があるので今日はそこまで進みましょう。川の水は飲めますし、川には魚がいるので食料にもなります。

 落ち着けば生活玉と魔法の練習しましょう。)


「わかりました。どんな魚がいるか楽しみですね。

 美味しければ最高なんですが。」


(美味しいかどうかは個人の好みなので断言できませんが、新鮮なのは保証しますよ。)


「ははは。違いないですね。」


 そんな事を話しているうちに川についた。

 様々な大きさの岩や石が転がる川辺の先に川幅4メートル程の清流がある。深さは一番深いところで腰くらい。流れはやや早く水は澄み切っていた。


 俺は川辺にしゃがみ込み両手を合わせて水をすくう。

 少しだけ口にして毒見をしようとしたが喉と手が言う事を聞かず、両掌の冷たい水を一気に飲み干してしまった。


 やはり体は正直だ。がむしゃらに何度も両掌で水をすくい飲み干して行く。

 カジュアルなカットソーの胸元が水で濡れていく。その冷たさすら心地良かった。


 満足するまで水を飲んで大きめの岩の上で休憩する。

 この後魚を獲らなければ本日のメシは無い。

 しかし俺は釣竿や網は持っていない。

 ダンジョンから回収した魔道具の中に捕獲用の魔道具でも入っているのかな?などと考えていると。


(魚を捕る用の魔道具は無いですよ。

 私が捕り方を教えますので安心して下さい。)


「魔法で捕まえるのですか?いきなりで大丈夫ですかね?」


(何事も経験、実践あるのみです。早速捕まえましょう。先ず靴と靴下とズボンを脱いで上半身は裸になりましょう。。)


 俺は言われた通りボクサーパンツ一枚になった。

 そこで体の劇的な変化に気づく、腹が割れている。

 俺は肥満ではなかったが30過ぎてからは座るたびに三段に割れていた腹が綺麗に6個に割れている…。胸板もしっかりとした厚さの筋肉に覆われていて逞しい。足はカモシカのように逞しく、腕もしなやかな筋肉に覆われている。


「随分と変わってしまいましたね。いや。嬉しいんですけど、こんな短時間で変わってしまうと自分の体では無いような感じがします。」


(身体・大玉を吸収したので体は劇的に変わっていますね。

 でも顔は殆ど変わっていませんよ。やや精悍(せいかん)にはなりましたが。

 それより食料調達です。

 腿の位置くらいまで川に入って魚を探して下さい。)


「はい。…水が結構冷たいですね。」


(ここは大河の上流になるので水は冷たいんですよ。なので獲物も豊富にいるはずです。)


 俺は(もも)の位置まで川に入り川面を見つめる。

 少し遠い位置に魚がいる事は確認出来るがまだ手は届かない。


(魚は見えていますよね?では魚のいる位置に手が届くという明確なイメージで手を思いっきり振って下さい。)


 俺はマリちゃんに言われた通りそこまで手が届くイメージをしながら横一文字に力一杯手を振った。

 自分が手を振る軌道そのままに川面をえぐり大量の水を掻き出す。その中に先程の魚もいたのだが掻き出す力が強過ぎたのか魚は大量の水とともに森の中に消えていった。


「ふぅ。またやり過ぎてしまったか…。」


 何となくこうなる事は分かっていた。こんな事ではもう俺は驚かない。しかし随分リーチが伸びてる今のは軽く自分の手の先2メートルはあったはずだ。


(うまく発現出来ましたね。今のは"魔鎧"という魔法です。本当は相手の攻撃を受けるために鎧のようなものをイメージして体を守る魔法です。ただ魔力消費が高いので、ずっと発現する事は出来ません。

 それの応用で攻撃も可能です。硬度は魔力、範囲は魔力操作、威力は身体に比例するので山田さんには一番に覚えてもらいたい魔法でした。)


「魔鎧っていうですか。素晴らしい魔法ですね。これがあればどんな魔物も怖いもの無しですね。」


(いえ、そんな事はないのです。魔物の中にはこの魔鎧を切り裂く爪を持った種族もいますし、魔鎧はある程度近づかなければ攻撃出来ません。これ一つで生き残れるほどこの世界[アマルテア]は優しくないのです。)


「…はい。肝に命じておきます。

 これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」


(良い心がけです。どんなに強い力を持っていても使い方を知らなければ持っていないのと変わりません。これから自分の得た力を最大限活かせるように訓練していきましょう。

 ですが先ず食料調達です。先程のは強過ぎたので威力を調整しながら獲っていきましょう。)



 こうしてマリちゃん指導の下、7匹の獲物を得た俺は水の冷たさにガタガタ震えながら食事の準備を始めるのだった。





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